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物語のようなもの

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短いお話を思いついた時に書いています。確実に3分以内で読めます。カップ麺のできあがりを待ちながら。
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2023年12月の記事一覧

『Good Luck』 # シロクマ文芸部

『Good Luck』 # シロクマ文芸部

最後の日はどこにいた?
まあ、いいだろう。
Good news&Bad news、いい知らせと悪い知らせがある。
まずは、悪い知らせから行こうか。
人類は滅亡した。
そう、最後の日は来たのだ。
いきなりだが、変に期待させても良くない。
もう一度言う、人類は滅亡した。
かねてから心配されていたように、死の灰が降り注いだ。
そうだ、あの小さないざこざが広まり、いちばん関わっては欲しくなかった、あの馬鹿

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『ルールを知らないオーナメント』 # 毎週ショートショートnote

『ルールを知らないオーナメント』 # 毎週ショートショートnote

きよしは、クリスマスツリーを片付けていた。
パパもママも仕事なので、冬休みのきよしの担当になった。
いちばん上の星からどんどん外していく。
丸くて赤いオーナメントに手をかけた時に、中に何かが見えたような気がした。
けれども、ゲームをしたいきよしは気にせずに外した。

ひかりは、ママを手伝ってクリスマスの片付けをしていた。
海外にいた頃は、年明けまで飾っていたのだけれども。
このあとはお正月の飾り付

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『振り返ると妻は』 # シロクマ文芸部

『振り返ると妻は』 # シロクマ文芸部

振り返ると妻は、テーブルでお茶を美味しそうに飲んでいる。
年末の大掃除も無事に終わった。
年々、体力的にきつくなっては来ている。
しかし、まだまだ大丈夫だ。
余裕を持ってやればいいのにと言われるが、毎年大晦日と決めている。
妻がお茶をすすめてくれる。
少し休憩するとしよう。
向かい側の席に腰を下ろして、湯飲み茶碗を両手で挟み込む。
「暖かいね」
妻は聞こえているのかいないのか、軽く頭を振った。

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『ベテルギウスの隣』

『ベテルギウスの隣』

風は、少し強くなってきた。
しかし、冷たい空気は、暖房で暑くなりすぎた体には心地よい。
それに、この冷たさが、僕に諦めるべきものを諦めさせてくれる。
さらに、マンションの最上階のテラスに吹く風は、その諦めたものまでさらって行ってくれそうだ。
揺れる星々の間のさらに小さな光。
ちょうどオリオン座の左角、ベテルギウスの隣を掠めていく光。
その小さな光は、やがて消えて見えなくなった。
飛び立つところは見

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『台にアニバーサリー』 # 毎週ショートショートnote

『台にアニバーサリー』 # 毎週ショートショートnote

「警部、これはダイイングメッセージでは」
「手帳の『台にアニバーサリー』がかね」
「最後の文字ですからね。少し血も」
「よし、ここはマー君探偵に助けてもらおう」

「遅くなりました。探偵のマー君です」
「すまない。実は、かくかくしかじか」
「なるほど。見せてください」
「どうだろう」
「この家の持ち主は、かにさんですか?」
「どうしてそれを」
「こう言うことですよ」

「本当は、『かにアニバーサリ

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『最後のクリスマスケーキ』 # シロクマ文芸部

『最後のクリスマスケーキ』 # シロクマ文芸部

ありがとうございました。
客の後ろ姿に頭を下げる。
一瞬、車の音と甲高い話し声が舞い込むが、自動ドアが閉まると、元の静寂が訪れる。
いや、静寂ではない。
もう何週間も前から流れているクリスマスのプレイリスト。
クリスマスソングって、こんなに少なかったっけと思うほど、同じ歌が何度も繰り返される。
今の男性は、あのケーキをどうするんだろう。
結構歳をとってたし、夫婦2人では多いんじゃないかな。
お孫さ

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『白骨化スマホ』 # 毎週ショートショートnote

『白骨化スマホ』 # 毎週ショートショートnote

「先生、それがあれですか」
彼は、デスクの上の物を指差した。
小さなプラスチックのケースに入れられたそれは、まるでフィギュアのコレクションのようだった。
先生と呼ばれた男は、同じものを指差した。
「そうだ。これが、あれだよ」

そこには、ちょうど手のひら大の白い枠があり、枠の中にもいくつかの白い針金のようなものがあった。
「これが、最近発見された、人類の骨の化石ですね」
「そうだ。DNA鑑定でも、

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『罪深い色』 # シロクマ文芸部

『罪深い色』 # シロクマ文芸部

冬の色に世界が染まった頃、それはやってきた。
まだ、冬も世界もなかったのではあるけれども。
それに、やって来たとは言うものの、本当は空から降ってきたのだ。
雪のようにひらひらと漂いながら。
もちろん、例えられた雪もまだない。
ひらひらも、漂うもない頃だ。
それは、そのようにとしか言えない降り方で降ってきた。
落ちゆく先も分からずに降ってきた。
やがて、どこかにぶつかり、そこが地面とか大地と呼ばれる

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『銀河の向こう』

『銀河の向こう』

まったく、金さえ払えばいいってもんじゃないんだよ。
俺たちゃ、お前らのストレスの吐け口じゃないっての。
ほんとに、今日は出だしから嫌な客ばっかりだんだ。
行き先聞いただけで、このヤローとか、どうしろってんだ。
タクシーってのはな、乗せていただいて、行き先を運転手様に告げてだな、道中は大人しくして運転の邪魔をせずに、運転手様がお話しになれば、丁寧にお答えをして、目的地に着けば、頭を下げて、代金をお支

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『助手席の異世界転生』 # 毎週ショートショートnote

『助手席の異世界転生』 # 毎週ショートショートnote

俺はしがない営業マンだ。
しかし、最近、新人のみゆきちゃんの指導担当になった。
みゆきちゃんは、スタイル抜群で超かわいい。
毎日みゆきちゃんを助手席に乗せて取引先を回るのが、俺の楽しみだ。
ある時俺は妄想を抱いた。
あのみゆきちゃんのムチムチの身体を包んでいる助手席になりたいと。

その夜の帰り道、1人で運転していると、突然声がした。
「替わってやろうか」
え、助手席が喋っている。
「お前さえ良け

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『UFOと転校生』

「それは、お父さんに聞いてみなさい」
そんな声が、キッチンから聞こえてきた。
また来た。
妻が忙しい時に、あるいは自分で答えたくない時に、いつも使う手だ。
娘が雑誌を抱えて、こちらに走って来る。
来年、小学校に入学する子を対象した雑誌だ。
一旦休刊していたのが、この秋に復刊して話題になった。
娘が欲しがったのと、こちらも懐かしくて買い与えた。
もちろん、表紙のロゴやデザインはそのままでも、
内容は

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『今年仕舞い』 # シロクマ文芸部

『今年仕舞い』 # シロクマ文芸部

十二月に入ると、今年仕舞いをする人が増えてくる。
今年仕舞いなんて、本当は大晦日にやるべきものだ。
でも、一度にやって来られると、受け付ける方も大変なんだろう。
だから、一カ月前から受け付けている。
ただ、一カ月前に今年を仕舞ってしまうと、クリスマスも、大晦日もない。
ツリーを飾って、プレゼントを交換したり、年越しそばを食べながら、紅白歌合戦をみたり、みんなでカウントダウンをしたり、そんな楽しみが

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