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『Good Luck』 # シロクマ文芸部

最後の日はどこにいた?
まあ、いいだろう。
Good news&Bad news、いい知らせと悪い知らせがある。
まずは、悪い知らせから行こうか。
人類は滅亡した。
そう、最後の日は来たのだ。
いきなりだが、変に期待させても良くない。
もう一度言う、人類は滅亡した。
かねてから心配されていたように、死の灰が降り注いだ。
そうだ、あの小さないざこざが広まり、いちばん関わっては欲しくなかった、あの馬鹿のところにまで届いてしまったのだ。
一瞬の終わりではなかったが、諦めるには短い時間の中で、北半球にも南半球にも、死の灰は舞い落ちてきた。
そして、人類は息絶えた。
「君」に親がいたなら、その親も。
「君」に兄弟がいたなら、その兄弟も。
「君」に友達がいたなら、その友達も。
そして、「君」に恋人がいたのなら、その愛する恋人も。
かつて巨大な心臓のように、本当の心臓はこの星の地下深くにあるにもかかわらず、さもこれがこの星の心臓だとでも言うように活動していた都市も、その動きを止めてしまった。
都市は瞬く間に草木に覆われた。
それはすごい早さだった。
ビルの壁を這い上がり、ガラスに貼り付いた。
高い高い摩天楼も、今や天を癒そうとするかのように緑の触手を伸ばしている。
コンクリートやアスファルトを突き破った雑草は、もう遠慮などすることはない。
伸び伸びと成長し、その間を昆虫たちが舞う。
そして、風に運ばれた砂が渦を巻き、その上に、凶暴化した野良犬や野良猫が足跡をつける。
あの大きな通りを鹿や熊が走り抜ける。
もちろん、本当は凶暴化などではない。
それが、彼らの本来の姿なのだろう。
音といえば、草木が風になびく音と、動物たちの咆哮だけだ。
深夜に静寂を破るのは、朽ちた建物が崩れ落ちる時だ。
時は消え去り、それを嘆くものもいない。
申し訳ないが、本当に人類は滅亡したのだ。
もちろん、人類が滅亡したからとて、この星にとっては痛くも痒くもない。
せいぜい、気になっていた肩のほこりを払い落としたくらいのことだ。
それを、最後の日などというのは、驕り昂りも甚だしいと、せせら笑うだろう。
そして、そんなことを考えるものももういない。
視覚も聴覚もなく、思考も感情も生まれない世界だ。
だが、心配することはない。
さて、ここからが、いい知らせだ。
この地球に何があっても生き延びる人間が2人いる。
わかるかな。
今これを語っている「私」と、これを読んでいる「君」だ。
語り続け、読み続けている限り、「私たち」はここにいる。
Good Luck!

「シロクマ文芸部」への年内の投稿は、これが最後になります。
一年間、ありがとうございました。
来年もよろしくお願いします。
良いお年をお迎えください。

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