『今年仕舞い』 # シロクマ文芸部

十二月に入ると、今年仕舞いをする人が増えてくる。
今年仕舞いなんて、本当は大晦日にやるべきものだ。
でも、一度にやって来られると、受け付ける方も大変なんだろう。
だから、一カ月前から受け付けている。
ただ、一カ月前に今年を仕舞ってしまうと、クリスマスも、大晦日もない。
ツリーを飾って、プレゼントを交換したり、年越しそばを食べながら、紅白歌合戦をみたり、みんなでカウントダウンをしたり、そんな楽しみがなくなってしまう。
それなのに、どうして、そんなに早く今年仕舞いをする人がいるのか。
それは、早めに今年仕舞いをすると、いろいろと特典があるからなのだ。
それでも、と子供の頃に母に尋ねたことがある。
「それでも、クリスマスとか、大晦日とか、みんなで楽しんだ方がいいのにね」
母は、そうねと言って微笑むだけだった。
我が家では、今年を早めに仕舞うことなどなかった。
それから、時が経った。
今なら、わかる。
少しでも早く今年を仕舞ってしまいたい人の気持ちが。
そして、自分がいかに恵まれていたのかも。
かつて、父と母も早めに今年仕舞いをしなくてはならないことがあった。
その時の特典は、翌年の好きな一日をもう一度繰り返すことができるというものだった。
二人が選んだのは私が生まれた日。
私がそのことを知った時には、父も母もいなかった。
来年、私にも子供ができる。
今年を早めに仕舞うべきかどうか迷っている。