鳴神 君留 (旧「私」)

文学に新しい視点を提示する文芸評論家です。 旧「私」から、改名しました。 よろしくお願…

鳴神 君留 (旧「私」)

文学に新しい視点を提示する文芸評論家です。 旧「私」から、改名しました。 よろしくお願いいたします。

マガジン

  • 夏目漱石「それから」

    「それから」をはじめから丁寧に読んでいきます。

  • 宮沢賢治「なめとこ山の熊」

    「なめとこ山の熊」を丁寧に読んでいきます。

  • 安部公房「鞄」

    安部公房の「鞄」を、丁寧に読んでいきます。この作品は、まだあまり研究されていません。新しい読みを提供します。

  • 絲山秋子「ベル・エポック」

    絲山秋子さんの「ベル・エポック」を、想像力豊かに読んでいきます。

  • 芥川龍之介「羅生門」

    芥川龍之介の「羅生門」を、初めから丁寧に読んでいきます。この作品は既にたくさんの研究がなされていますが、少しでも新たな視点が見つかれば幸いです。

最近の記事

夏目漱石「それから」2-4

◇評論  「酒の勢で変な議論をしたものだから、肝心の一身上の話はまだ少しも発展せずにゐる」  代助の最大の関心事は平岡の「一身上の話」だ。  そうして、やっと、代助の思惑通り、「思ふあたりへ談柄(だんぺい)が落ちた」。  平岡の京阪生活の説明が始まる。 ・「赴任の当時」は「事務見習のため、地方の経済状況取調のため、大分忙がしく働らいて見た。出来得るならば、学理的に実地の応用を研究しやうと思つた位であつたが、地位が夫程高くないので、已を得ず、自分の計画は計画として未来の試験用

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100〜
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    • 夏目漱石「それから」2-3

      ◇評論  前話の、「此変動の一部始終を聞かうと待設けて居たのだが」、「中々埒を開けない」。代助は仕方なしに、「久し振りだから、其所いらで飯でも食はう」と平岡を「無理に引張つて、近所の西洋料理へ上がつた」を承けた場面。  平岡にしてみれば、自身の窮状に比して、のんびり優雅に暮らしている昔の友人に対する妬みがあるだろう。前に代助の家をほめたのも、その意味と意図がある。昔は同じような境遇だったふたりが、今は違ってしまったのだ。だから再会後のふたりの会話はぎこちない。それが、酒が入

      • 夏目漱石「それから」2-2

        ◇評論  今話は、代助と平岡のこれまでの関係が述べられる。 ・「代助と平岡とは中学時代からの知り合」 ・「殊に学校を卒業して後、一年間といふものは、殆んど兄弟の様に親しく往来」。「其時分は互に凡てを打ち明けて、互に力に為(な)り合ふ様なことを云ふのが、互に娯楽の尤もなるものであつた。この娯楽が変じて実行となつた事も少なくないので、彼等は双互の為めに口にした凡ての言葉には、娯楽どころか、常に一種の犠牲を含んでゐると確信してゐた。さうして其犠牲を即座に払へば、娯楽の性質が、忽然苦

        • 夏目漱石「それから」2-1

          ◇評論  「着物でも着換へて、此方(こつち)から平岡の宿を訪ね様かと思つてゐる所へ、折よく先方(むかふ)から遣(や)つて来た」  平岡は、代助が来るのを待っていられない男なのだ。よほどの急用と見える。  「車をがら/\と門前迄乗り付けて、此所(こゝ)だ/\と梶(かぢ)棒を下ろさした声は慥(たし)かに三年前分かれた時そつくりである」  粗雑でせわしない平岡の様子。また、ふたりは「三年前分かれた」ことがわかる。「学生」は大学だろうから、それから3年経過しており、ふたりの年齢は2

        夏目漱石「それから」2-4

        マガジン

        • 夏目漱石「それから」
          9本
        • 宮沢賢治「なめとこ山の熊」
          8本
        • 安部公房「鞄」
          6本
        • 絲山秋子「ベル・エポック」
          3本
        • 芥川龍之介「羅生門」
          11本
        • 夏目漱石「こころ」
          114本

        記事

          夏目漱石「それから」1-4

          ◇評論 ・代助はタバコをたしなんでいる。 ・門野は、主人が食事を終えタバコをふかすのを見て、話しかけるのにちょうどいい頃合いだと判断することくらいはできる。 ただその待ち方は、「茶 箪笥(だんす)の陰(かげ)に、ぽつねんと膝を抱へて柱に倚(よ)り懸つて」いると、まるで子供のようだ。  「先生、今朝は心臓の具合はどうですか」以降の部分からは、門野の愚鈍さと、それに対する代助の高尚さが読み取れる。  蔑視の対象の門野が、「幾分か茶化した調子である」ことで、その馬鹿さ加減

          夏目漱石「それから」1-4

          夏目漱石「それから」1-3

          ◇評論  前段の最後に、「門野が代助の所へ引き移る二週間前には、此若い独身の主人と、此 食客(ゐさうらふ)との間に下の様な会話があつた」とあった続きの場面。  一話がすべて会話で成り立っているのが特徴。「こころ」にはこのような形は無かった。  門野についての内容をまとめる。 ・あちこちの学校に行ってみたが、飽きっぽい性格からじきに嫌になりやめてしまった。そもそも勉強する気もない。 ・最近の不景気で門野家の経済状態が悪く、母親は内職をしている。ただ、どれほどの困窮状態なのかは

          夏目漱石「それから」1-3

          夏目漱石「それから」1-2

          ◇評論  ここもとてもスムーズに物語が語られ流れている場面。「門野」という書生と、もう一人の同居人である「婆さん」の人となりがわかりやすく描かれている。ふたりの会話によって、代助という人物についての読者の理解も進む。  起床から「約三十分の後」代助は食卓に就く。「熱い紅茶」、「焼麺麭(やきぱん)に牛酪(バタ)」と、ハイカラな朝食だ。  次に、「門野(かどの)と云ふ書生」が登場。先ほど代助が読んでいた新聞を手にし(代助の布団を畳んだか)、「先生、大変な事が始まりましたな」と仰

          夏目漱石「それから」1-2

          夏目漱石「それから」1-1②

          ◇評論  この部分の要点は、最後の、「彼は旧時代の日本を乗り超えてゐる」に集約される。  寝床から起き上がり、布団に座る代助は、掛布団から「両手を出して」「枕元の新聞を取り上げた」。「両手」で「大きく左右に開(ひら)」いた紙面には、「男が女を斬(き)つてゐる絵」があり、その凄惨さへの嫌悪感からか、「彼はすぐ外(ほか)の頁(ページ)へ眼(め)を移した」。「学校騒動」の記事を「しばらく」「読んでゐた」代助は、「やがて、惓怠(だる)さうな手から、はたりと新聞を夜具の上に落し」、「烟

          夏目漱石「それから」1-1②

          夏目漱石「それから」1-1①

          ◇評論  この物語は、いきなり夢落ちで始まる点に特徴がある。素直な読み手は、初め「代助」の空想かと思いながら読んでいると、それは夢だったと突然知らされる。語り始めがこの調子では、語り手の語りの手法についていくためには、用心・注意が必要だと、読み手は警戒するだろう。従って、緊張感をもってこの後の語りを読み進めることになる。  また、長編小説の最後の部分に再び夢落ちが使われるのではないかとか、登場人物が夢のような世界へ迷い込むのではないかといった想像が容易につく。結末部分のページ

          夏目漱石「それから」1-1①

          梶井基次郎「檸檬」を読む5(最終回)

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          梶井基次郎「檸檬」を読む5(最終回)

          梶井基次郎「檸檬」を読む4

          ◇評論  「その日私はいつになくその店で買物をした」とあるから、「美しい」「興がらせ」る店であっても、普段そこでは買い物をしなかったことがわかる。  そのような「私」を引き付けたのは、檸檬だった。「檸檬などごくありふれている」。しかし、「その店」「もただあたりまえの八百屋に過ぎなかったので、それまであまり見かけたことはなかった」。当時の「あたりまえの八百屋」には、「ありふれた」果物である檸檬は置いていなかったということか。  「レモンエロウの絵具をチューブから搾り出して固め

          梶井基次郎「檸檬」を読む4

          梶井基次郎「檸檬」を読む3

          ◇評論  この「私」が何者なのかが描かれないのだが、「友達が学校へ出て」いるということは、「私」も学生である可能性が高い。それなのになぜか彼は、友人が去った後の「空虚な空気のなかにぽつねんと一人取り残され」る。もし彼が学生だとすると、学校へ行くことを忌避する要因があることになる。彼は学校を避け、それでも「またそこから彷徨(さまよ)い出なければならな」いと感じる。「何かが私を追いたてる。そして街から街へ、先に言ったような裏通りを歩いたり~」というように、街中を「浮浪」するのだっ

          梶井基次郎「檸檬」を読む3

          梶井基次郎「檸檬」を読む2

          ◇評論  前段で「私」が「強くひきつけられた」ものは、「みすぼらしくて美しいもの」だった。今回は、「好き」なものとして、まず「花火」が取り上げられる。  「花火」が輝くのも「好き」だし、「あの安っぽい絵具で赤や紫や黄や青や、さまざまの縞模様を持った花火の束」自体も「変に私の心を唆(そそ)った」。  これに続き、「色 硝子(ガラス)で鯛や花を打ち出してあるおはじき」、「南京玉」が挙げられる。特に南京玉については、「それを嘗(な)めて」みた時の「幽(かす)かな涼しい味」が「なんと

          梶井基次郎「檸檬」を読む2

          梶井基次郎「檸檬」を読む1

          ◇評論  「えたいの知れない不吉な塊」が「私の心を始終 圧(おさ)えつけ」る。それはすぐ後に、「焦躁」・「嫌悪」・「宿酔(ふつかよい)」と言い換えられる。自分の身に危険や不幸をもたらすような「えたいの知れない」「不吉」な何かを、「私」は感じている。何か良くないことが起こりそうな嫌な予感だ。  「酒を飲んだあとに宿酔(ふつかよい)があるように、酒を毎日飲んでいると宿酔に相当した時期がやって来る」。「酒を飲んだら二日酔いになる。それと同じように、酒を毎日飲んだら、二日酔いに相当

          梶井基次郎「檸檬」を読む1

          「デューク」(江國香織)を読む7~まとめ

          ◇死んだ後に人間の姿で現れる能力を持つものは、泳げない者を手を触れずに引っ張ることもできるだろう。従って、この物語の最後まで読んで初めて、プールのシーンが理解でき、あの不思議な力は、デュークの力なのだと知ることができる。だから問3の正解には、本文を最後まで読まないとたどりつけない。問3は、問題の後半に出題すべきだ。

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          「デューク」(江國香織)を読む7~まとめ

          「デューク」(江國香織)を読む6~センター試験に挑戦!

          センター試験の最終問です。 問6 「次のa~gのうち、この小説における表現や手法の効果についての説明として、適切なものの組み合わせはどれか。」 「a 別れの時を夕暮れという境界の時間に設定していることで、少年との一日のデートの終わりと、愛犬との永遠の別れとが幻想的に重ね合わされている。」…正解だそうです。  この文章は主述がうまく呼応していないため、文章の趣旨が分かりにくい。「設定し」の方がいい。また、「幻想的」は、青年という実在が、次の瞬間には夢のように消えてしまったこ

          「デューク」(江國香織)を読む6~センター試験に挑戦!