物語に新しい視点を提案します

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マガジン

  • 夏目漱石「それから」

    「それから」をはじめから丁寧に読んでいきます。

  • 宮沢賢治「なめとこ山の熊」

    「なめとこ山の熊」を丁寧に読んでいきます。

  • 安部公房「鞄」

    安部公房の「鞄」を、丁寧に読んでいきます。この作品は、まだあまり研究されていません。新しい読みを提供します。

  • 絲山秋子「ベル・エポック」

    絲山秋子さんの「ベル・エポック」を、想像力豊かに読んでいきます。

  • 芥川龍之介「羅生門」

    芥川龍之介の「羅生門」を、初めから丁寧に読んでいきます。この作品は既にたくさんの研究がなされていますが、少しでも新たな視点が見つかれば幸いです。

記事一覧

夏目漱石「それから」3-4

◇評論  父親と息子の実のない会話は続く。いつまでもお坊ちゃん然とした息子に噛んで含めるように父親は話をする。 わざと小学生を相手にしたような話の進め方をす…

私
2日前

夏目漱石「それから」3-3

◇評論 ・「代助は今 此(こ)の親爺と対坐してゐる。」  代助と父親の、心理的対決の場面。代助はいやいや父親の前に座っている。だから、話の中身よりも、それ以外の事に…

私
3日前

夏目漱石「それから」3-2

◇評論 今話は、代助の閉口する相手である父親が描かれる。世代の違いは考え方や価値観、人生観の違いとなってあらわれ、ふたりを隔てる。 ・「好い年をして、若い妾(…

私
5日前

夏目漱石「それから」3-1

◇評論  今話は代助の家族の情報が紹介される。 〇父親について ・名は「長井 得」…「得」という名が何を表すかを考えながら読むことになる。「得」・利益になることに…

私
9日前

夏目漱石「それから」2-5

◇評論 ・「代助は平岡が語つたより外(ほか)に、まだ何かあるに違ひないと鑑定した。」  「外」とは、平岡の辞職に至る経緯の真相と、それに伴う帰京の理由であり、そこに…

私
11日前

夏目漱石「それから」2-4

◇評論  「酒の勢で変な議論をしたものだから、肝心の一身上の話はまだ少しも発展せずにゐる」  代助の最大の関心事は平岡の「一身上の話」だ。  そうして、やっと、代…

100〜
割引あり
私
2週間前

夏目漱石「それから」2-3

◇評論  前話の、「此変動の一部始終を聞かうと待設けて居たのだが」、「中々埒を開けない」。代助は仕方なしに、「久し振りだから、其所いらで飯でも食はう」と平岡を「…

私
2週間前
1

夏目漱石「それから」2-2

◇評論  今話は、代助と平岡のこれまでの関係が述べられる。 ・「代助と平岡とは中学時代からの知り合」 ・「殊に学校を卒業して後、一年間といふものは、殆んど兄弟の様…

私
2週間前
5

夏目漱石「それから」2-1

◇評論  「着物でも着換へて、此方(こつち)から平岡の宿を訪ね様かと思つてゐる所へ、折よく先方(むかふ)から遣(や)つて来た」  平岡は、代助が来るのを待っていられない…

私
2週間前

夏目漱石「それから」1-4

◇評論 ・代助はタバコをたしなんでいる。 ・門野は、主人が食事を終えタバコをふかすのを見て、話しかけるのにちょうどいい頃合いだと判断することくらいはできる。 …

私
2週間前
1

夏目漱石「それから」1-3

◇評論  前段の最後に、「門野が代助の所へ引き移る二週間前には、此若い独身の主人と、此 食客(ゐさうらふ)との間に下の様な会話があつた」とあった続きの場面。  一話…

私
3週間前
1

夏目漱石「それから」1-2

◇評論  ここもとてもスムーズに物語が語られ流れている場面。「門野」という書生と、もう一人の同居人である「婆さん」の人となりがわかりやすく描かれている。ふたりの…

私
3週間前

夏目漱石「それから」1-1②

◇評論  この部分の要点は、最後の、「彼は旧時代の日本を乗り超えてゐる」に集約される。  寝床から起き上がり、布団に座る代助は、掛布団から「両手を出して」「枕元の…

私
3週間前
1

夏目漱石「それから」1-1①

◇評論  この物語は、いきなり夢落ちで始まる点に特徴がある。素直な読み手は、初め「代助」の空想かと思いながら読んでいると、それは夢だったと突然知らされる。語り始…

私
3週間前

梶井基次郎「檸檬」を読む5(最終回)

100〜
割引あり
私
1か月前
2

梶井基次郎「檸檬」を読む4

◇評論  「その日私はいつになくその店で買物をした」とあるから、「美しい」「興がらせ」る店であっても、普段そこでは買い物をしなかったことがわかる。  そのような「…

私
1か月前

夏目漱石「それから」3-4

◇評論  父親と息子の実のない会話は続く。いつまでもお坊ちゃん然とした息子に噛んで含めるように父親は話をする。 わざと小学生を相手にしたような話の進め方をすることによって、父親は代助に道理を説こうとしている。それに対する代助の返事は実に幼く聞こえ、これを表面上素直に受け取ると、発達段階に疑問を持つほどだろう。代助は東京大学を出ている。しかも「成蹟も可(か)なりだつた」。その彼がこの受け答えでは、父親は自分が馬鹿にされているか、または精神発達に遅滞が生じているかのどち

夏目漱石「それから」3-3

◇評論 ・「代助は今 此(こ)の親爺と対坐してゐる。」  代助と父親の、心理的対決の場面。代助はいやいや父親の前に座っている。だから、話の中身よりも、それ以外の事に気を取られている。この場面の描写が、なかなか本題に入らないのはそのためだ。 ・「廂(ひさし)の長い小さな部屋」、「廂の先で庭が仕切られた様な感」、「空は広く見えない」などは、父親の前に座らせられた代助の閉塞感・嫌悪感を表す。その一方で、この部屋の「静か」さや「落ち付」き、「尻の据(すわ)り具合」の良さは感じている

夏目漱石「それから」3-2

◇評論 今話は、代助の閉口する相手である父親が描かれる。世代の違いは考え方や価値観、人生観の違いとなってあらわれ、ふたりを隔てる。 ・「好い年をして、若い妾(めかけ)を持つてゐるが、それは構はない。」 得の妻は亡くなったので法的・倫理的に支障は無し、愛人がいることはこの時代には特異なことではなかった。ただ、財力に任せて、慰みものとして若い女性を囲っていることが、世間の批判の対象だろう。 ・「代助から云(い)ふと寧ろ賛成な位なもので、彼は妾を置く余裕のないものに限つて

夏目漱石「それから」3-1

◇評論  今話は代助の家族の情報が紹介される。 〇父親について ・名は「長井 得」…「得」という名が何を表すかを考えながら読むことになる。「得」・利益になることに関心があるか。 ・「御維新」…明治維新のこと。 ・「戦争」…戊辰戦争(明治元年・1868年~明治2年・1869年)のこと。これに20歳で参加したとすると、50歳程度ということになる。明治時代の平均寿命は45歳くらいなので、得は今、自分の人生を総括し、また自分が去った後の長井家の行く末を慮っているだろう。代助へも、会

夏目漱石「それから」2-5

◇評論 ・「代助は平岡が語つたより外(ほか)に、まだ何かあるに違ひないと鑑定した。」  「外」とは、平岡の辞職に至る経緯の真相と、それに伴う帰京の理由であり、そこには「まだ何かある」と代助が推測していること。 ・「けれども彼はもう一歩進んで飽迄其真相を研究する程の権利を有(も)つてゐないことを自覚してゐる。又そんな好奇心を引き起すには、実際あまり都会化し過ぎてゐた。」  代助は、自分の分をわきまえており、また、「もう一歩進んで飽迄其真相を研究する」理由も意気込みもないこと。

夏目漱石「それから」2-4

◇評論  「酒の勢で変な議論をしたものだから、肝心の一身上の話はまだ少しも発展せずにゐる」  代助の最大の関心事は平岡の「一身上の話」だ。  そうして、やっと、代助の思惑通り、「思ふあたりへ談柄(だんぺい)が落ちた」。  平岡の京阪生活の説明が始まる。 ・「赴任の当時」は「事務見習のため、地方の経済状況取調のため、大分忙がしく働らいて見た。出来得るならば、学理的に実地の応用を研究しやうと思つた位であつたが、地位が夫程高くないので、已を得ず、自分の計画は計画として未来の試験用

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100〜
割引あり

夏目漱石「それから」2-3

◇評論  前話の、「此変動の一部始終を聞かうと待設けて居たのだが」、「中々埒を開けない」。代助は仕方なしに、「久し振りだから、其所いらで飯でも食はう」と平岡を「無理に引張つて、近所の西洋料理へ上がつた」を承けた場面。  平岡にしてみれば、自身の窮状に比して、のんびり優雅に暮らしている昔の友人に対する妬みがあるだろう。前に代助の家をほめたのも、その意味と意図がある。昔は同じような境遇だったふたりが、今は違ってしまったのだ。だから再会後のふたりの会話はぎこちない。それが、酒が入

夏目漱石「それから」2-2

◇評論  今話は、代助と平岡のこれまでの関係が述べられる。 ・「代助と平岡とは中学時代からの知り合」 ・「殊に学校を卒業して後、一年間といふものは、殆んど兄弟の様に親しく往来」。「其時分は互に凡てを打ち明けて、互に力に為(な)り合ふ様なことを云ふのが、互に娯楽の尤もなるものであつた。この娯楽が変じて実行となつた事も少なくないので、彼等は双互の為めに口にした凡ての言葉には、娯楽どころか、常に一種の犠牲を含んでゐると確信してゐた。さうして其犠牲を即座に払へば、娯楽の性質が、忽然苦

夏目漱石「それから」2-1

◇評論  「着物でも着換へて、此方(こつち)から平岡の宿を訪ね様かと思つてゐる所へ、折よく先方(むかふ)から遣(や)つて来た」  平岡は、代助が来るのを待っていられない男なのだ。よほどの急用と見える。  「車をがら/\と門前迄乗り付けて、此所(こゝ)だ/\と梶(かぢ)棒を下ろさした声は慥(たし)かに三年前分かれた時そつくりである」  粗雑でせわしない平岡の様子。また、ふたりは「三年前分かれた」ことがわかる。「学生」は大学だろうから、それから4年経過しており、ふたりの年齢は2

夏目漱石「それから」1-4

◇評論 ・代助はタバコをたしなんでいる。 ・門野は、主人が食事を終えタバコをふかすのを見て、話しかけるのにちょうどいい頃合いだと判断することくらいはできる。 ただその待ち方は、「茶 箪笥(だんす)の陰(かげ)に、ぽつねんと膝を抱へて柱に倚(よ)り懸つて」いると、まるで子供のようだ。  「先生、今朝は心臓の具合はどうですか」以降の部分からは、門野の愚鈍さと、それに対する代助の高尚さが読み取れる。  蔑視の対象の門野が、「幾分か茶化した調子である」ことで、その馬鹿さ加減

夏目漱石「それから」1-3

◇評論  前段の最後に、「門野が代助の所へ引き移る二週間前には、此若い独身の主人と、此 食客(ゐさうらふ)との間に下の様な会話があつた」とあった続きの場面。  一話がすべて会話で成り立っているのが特徴。「こころ」にはこのような形は無かった。  門野についての内容をまとめる。 ・あちこちの学校に行ってみたが、飽きっぽい性格からじきに嫌になりやめてしまった。そもそも勉強する気もない。 ・最近の不景気で門野家の経済状態が悪く、母親は内職をしている。ただ、どれほどの困窮状態なのかは

夏目漱石「それから」1-2

◇評論  ここもとてもスムーズに物語が語られ流れている場面。「門野」という書生と、もう一人の同居人である「婆さん」の人となりがわかりやすく描かれている。ふたりの会話によって、代助という人物についての読者の理解も進む。  起床から「約三十分の後」代助は食卓に就く。「熱い紅茶」、「焼麺麭(やきぱん)に牛酪(バタ)」と、ハイカラな朝食だ。  次に、「門野(かどの)と云ふ書生」が登場。先ほど代助が読んでいた新聞を手にし(代助の布団を畳んだか)、「先生、大変な事が始まりましたな」と仰

夏目漱石「それから」1-1②

◇評論  この部分の要点は、最後の、「彼は旧時代の日本を乗り超えてゐる」に集約される。  寝床から起き上がり、布団に座る代助は、掛布団から「両手を出して」「枕元の新聞を取り上げた」。「両手」で「大きく左右に開(ひら)」いた紙面には、「男が女を斬(き)つてゐる絵」があり、その凄惨さへの嫌悪感からか、「彼はすぐ外(ほか)の頁(ページ)へ眼(め)を移した」。「学校騒動」の記事を「しばらく」「読んでゐた」代助は、「やがて、惓怠(だる)さうな手から、はたりと新聞を夜具の上に落し」、「烟

夏目漱石「それから」1-1①

◇評論  この物語は、いきなり夢落ちで始まる点に特徴がある。素直な読み手は、初め「代助」の空想かと思いながら読んでいると、それは夢だったと突然知らされる。語り始めがこの調子では、語り手の語りの手法についていくためには、用心・注意が必要だと、読み手は警戒するだろう。従って、緊張感をもってこの後の語りを読み進めることになる。  また、長編小説の最後の部分に再び夢落ちが使われるのではないかとか、登場人物が夢のような世界へ迷い込むのではないかといった想像が容易につく。結末部分のページ

梶井基次郎「檸檬」を読む5(最終回)

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100〜
割引あり

梶井基次郎「檸檬」を読む4

◇評論  「その日私はいつになくその店で買物をした」とあるから、「美しい」「興がらせ」る店であっても、普段そこでは買い物をしなかったことがわかる。  そのような「私」を引き付けたのは、檸檬だった。「檸檬などごくありふれている」。しかし、「その店」「もただあたりまえの八百屋に過ぎなかったので、それまであまり見かけたことはなかった」。当時の「あたりまえの八百屋」には、「ありふれた」果物である檸檬は置いていなかったということか。  「レモンエロウの絵具をチューブから搾り出して固め