夏目漱石「こころ」下・先生と遺書五十一「私はとうとうお嬢さんと結婚しました」
先生は、さまざまな人から、「Kがどうして自殺したのだろうという質問を受け」、「もう何度となくこの質問で苦しめられていた」。Kの友人、奥さん、お嬢さん、Kの父兄、通知を出した知り合い、彼とは何の縁故もない新聞記者。すべての人が、「必ず同様の質問を私に掛けない事はなかったのです。」
周囲の者からすれば、Kは、実直に勉学に励む青年と見られていただろう。多少堅物ではあるが、その精進する姿に偽りはない。従って、彼が自殺する理由が、周囲の者には思い当たらないのだ。だから、とても素直な質問