夏目漱石「こころ」~遺志に反する先生の過去の公表について
「こころ」を最後まで読み、また初めから読み返すと、冒頭にとても引っ掛かる表現が出てくる。
青年が「私はその人を常に先生と呼んでいた」と語り始めるところだ。
ここから、2つの疑問が生じる。
まず1つめの、①、②について。
先生は、自分の過去を口外することを固く禁じたはずなのに、なぜ青年はやすやすと語り始めているのか?
しかもその書きようは、明らかに第三者に向けてのものだ。自分だけの記憶にとどめる手記ではないし、身内に向けてのものでもない。
これでは、世間に公表すると同時に、先生の過去が奥さんにも知られてしまう。
私は一瞬、「もしかして、奥さん、死んじゃったの!」と焦ってしまった。
しかし、奥さんはまだ生きていることが、本文中に明示されている。
そうすると、青年は、先生のいわば遺言に反して、自分だけに打ち明けられた秘密を公表している。
このことを、どう考えたらよいだろうか?
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