夏目漱石「こころ」について~先生神話の崩壊

先生、お嬢さん、Kそれぞれの家族の確認。

【先生とお嬢さんの家族】
【Kの家族】

先生は両親を伝染病で失い、叔父の裏切りから故郷と縁を切る。兄弟もおらず、天涯孤独の身。
お嬢さんも一人っ子で、父親を戦争で失っている。母ひとり子ひとり。奥さんにしてみれば、身寄りのいない先生は、自分の家の再興を考える上において、最高の婿である。相手の家との関係を考慮しなくていいし、自分の家に迎え入れることができる。
Kの両親と養父母は存命だが、縁を切られている状態であり、きょうだいとは疎遠な関係。
つまり、先生とKは、親も、頼る人もない状態で、お嬢さんも母親しかいない。三人を保護する立場の人は、奥さんしかいない。先生とKにとって奥さんは、いわば母親代わりということになる。これは、奥さんの方も、そのように思っている部分もあっただろう。奥さんは、先生とKの窮状をよく知っており、先生が叔父たちと縁を切って上京したことを聞いた時には、涙を流す。下宿生二人の保護者という気持ちを、生活を共にする上で奥さんが持ったとしても不思議はない。

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