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じいちゃんといちごと私

じいちゃんは、いちご農家だった
静岡で石垣いちごをずっとつくっていた



私は、いちごが苦手だ
子どもの頃からいちごを苦手としていて、食べた記憶がない
食べた記憶がないのだからなぜ苦手なのかはわからないが、私はいちごを食べられない



海辺にあるじいちゃんのいちご畑のそばを車で通ると、いつもじいちゃんの大きなワゴンが停まっていた
たまに車を停めてじいちゃーん!と叫んだ
じいちゃんは、ビニールハウスから出てきて、手を振ってくれた


じいちゃんは、いつも笑っていた
暑い日の畑仕事の日も、私たちと話している時も、大好きなテレビを見ている時も


姉はいちごが大好きで、よくじいちゃんからいちごをたくさんもらっていた
いちごが食べものの中で一番好き!と言っていちごを頬張る姉の横で、いちごの匂いが苦手な私は、席を立つしかなかった
じいちゃんが毎日一生懸命育てているいちごを食べようとしない私は、なんてかわいくない孫なんだろうと思っていた


じいちゃんが顔いっぱいの笑顔を浮かべて差し出すいちごを受け取って、じいちゃんをもっと笑顔にさせるのは、いつも姉だった


じいちゃんが人生をかけてつくり続けたいちご
私は、受け取れなかった







じいちゃんは、この春亡くなった
ずっとずっといちごづくりをしていた


じいちゃんがいない家はとても広くて、静か
いちご畑は、たたむことになった


じいちゃんのいちご
じいちゃんのいちご、どうして私は食べられなかったんだろう


じいちゃんのいちご、食べたかった
じいちゃんがつくったいちご、食べたかった


ごめんね、じいちゃん
じいちゃんのいちごを食べない孫でごめんね


どんな味だったんだろう
じいちゃんが生涯つくり続けたいちご、どんな味だったんだろう


たくさんの人に慕われていたじいちゃん
明るくて私たちを笑わせてくれたじいちゃん
優しかったじいちゃん
いつも笑っていたじいちゃん


じいちゃんがつくったいちごは、どんな味だったの


じいちゃん、ごめん
食べなくて、ごめんね


食べればよかったな
じいちゃんのいちご、食べたかったな





じいちゃんがつくったいちごは、全て出荷が終わったと聞いた
私は、食べられなかった


今も、いちごのパックを見るたびに、じいちゃんの名前のシールが貼られていないか確認してしまう





じいちゃんのいちごを、食べたかった


ごめんね、じいちゃん


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