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大日本末期文学全集

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終末感が滲み出る文章がまとまったら、ここに投稿します。イラストと文を合わせて一つの作品になっていることもあるので、雑誌のような感覚でお楽しみください。
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2020年10月の記事一覧

『マジ勘弁なんだけど』

『マジ勘弁なんだけど』

世話になってる取引先の社長が

いい温泉があるっつて

いい打たせ湯があるっつて

呼ばれたんだけど

ちょうだりい

ちょうだりいのよ

休みの日

昼くらいまで寝てたらピンポンて来て

迎えが

社長の会社のひと

うわマジかっつて

ちょうだるくね?

いや

前から

打たせ湯いこうぜって言われてたけどさ

マジできょうかよっつて

急いで仕度して

嫁にすまねえっつて

ガキ泣いてるから

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『大海原を望む書斎で』

『大海原を望む書斎で』

海をぼうっと眺めている

水平線よりほかには

視界の端に

岬と灯台があるのみ

階下から妻が呼ぶ

おそらく昼食の呼びかけである

返事は無用

陽は左手から

右手のほうへ移りつつある

さすがに波の音はこの高台までは届かないから

お気に入りの音楽をかける

ヴォーカルのない

穏やかなものを好んでいる

瞑想をする

一人掛けのソファに深く沈み込み

目を閉じ

大きく鼻から息を吸い

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『眠れなくなったよ』

毎日胸が痛い

俺の所属している営業部は

経理部と同じフロア

同じ4F

エレベーターを降りて

経理部の前を通らないと

それ以外には窓しか通勤路がない

経理部の前を通るたびに胸が痛む

私的な食事を接待と偽っているから

いやしかし考えてみよう

売上の過大申告をしている

これは俺が自腹を切っている

おぉそうだそうだ

徒歩圏内に住んでいるけど越県で通勤していることにしている

しか

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『第1回ゆとり杯 川柳大会』

『第1回ゆとり杯 川柳大会』

先日堂々開催された同タイトルの最優秀作品の発表です。

<応募総数>



<最優秀作品>

あすのあさ マイケル富岡 うちにくる詠み手:甘枝ゆとり

<寸評>

あした、しかも朝から急にマイケル富岡が来るなんて聞いていないし何も準備が出来ていない。早く言ってよ、という気持ちが溢れ出ていて素晴らしい。息子が突然言い出して、慌てている母の様子が手に取るようにわかる。このあと急いでUFO焼きそばを買

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『風が吹けば桶屋が儲かる』

バタフライエフェクトってあるじゃないですか

日本の古い言い回しだと

風が吹けば桶屋が儲かる

っていう

あれを

実際に体験したんですよ

文字通りのやつを

以前

ホームセンターでバイトしてたんですが

歴史的な台風が来るっていう予報があって

事前にまあ皆さん

色々買っていかれるわけですよ

土嚢だとか

ライトだとか

非常食だとか



ところがいざ台風が来て

真っただ中とい

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『2008年の習作』

『2008年の習作』

10年以上前の習作を

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 部屋の外が抜けるような青空だっていうことを知ったのは、刻一刻と情報が古くなりつつある日曜版の朝刊を取りに玄関へ足をのばしたとき、換気ついでにドアを開けてみたからだった。こんなことだって偶然じゃあないか、声にならない声で、皮肉ってみた。

 目覚めの一杯はコーヒーか紅茶か、半年前に出て行った沙知とはそんなことで揉めたっけな。僕はだんぜんコーヒー党で、しか

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『鍋』

『鍋』

鍋をやらないかと友人から誘いをうけた

俺のほかにも二人

大学時代の仲間でワイワイやる

友人宅の最寄駅でスーパーによって

具材と酒などを調達

駅から友人のアパートまでは徒歩で三分

玄関でチャイムを鳴らす

そのとき

いま来た駅前の方角から

サイレンの音が聞こえてきた

その音は

次第に大きくなってくる

一台の救急車が目の前で止まった

救急隊は俺たちをかき分けて

友人の部屋10

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『ばかには見えないポエム』

『ばかには見えないポエム』

みなさんこんにちは!詩人です!

いつもご愛読

ありがとうございます!

きょうはみなさんに

特別に

『ばかには見えないポエム』

を書いたので

ぜひ読んでもらいたいと思います!

そうです

裸の王様で有名な

あの

ポエム版ですよ

ちょっと緊張しませんか?

しますよね

書いているこちらも緊張します!

では準備はよろしいですか?

いきますよ!

『遠き秋の夜長』

古く懐かし

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『じゃあ』

『じゃあ』

「じゃあもう会わないってこと?」

「そう、だね...」

「そうか...」

「ごめんね...」

「仕方ないよ、あ、最後にひとつだけいいかな?」

「うん、なに?」

「これから俺たちもう別々になるんだけど、でもまだまだ人生は長いよね?」

「そうだね」

「新たな出会いがあったり、別れたりを繰り返すと思うんだ」

「もちろん」

「結婚したり、子供が出来たり、最後には亡くなる」

「だね」

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『17年前の』

『17年前の』

「それでね

かっこいいのよ

邦弘さんはね

さっそうとクルマ出してね

新宿からぱーっと鎌倉まで

ドライブ

まだ夕陽が残っててね

ロマンチックだったー

そのまま夜は鎌倉にお泊りして

幸せだったのよー

それでプロポーズされたの

結ばれたのよ

そのときに瞬ちゃん…」

「ちょ、ちょ、ちょ

もういいから

息子に直接話すことじゃないから!」

部活のない日の午後

母の17年前の

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『異世界に転生中のお兄ちゃんが止まらない件 〜各種電子マネー使えます〜』

『異世界に転生中のお兄ちゃんが止まらない件 〜各種電子マネー使えます〜』

お兄ちゃん

自分のせいだよ

サブスクで好きなだけ

異世界に転生できるサービスがあるって

喜んでたねお兄ちゃん

中世ヨーロッパの騎士とか

三国志の世界とか

そういうのがお気に入りだったね

転生はすべて

アプリで操作するんです

行きたい世界観や時代

滞在期間とかもろもろ

そういうのを設定して

GO!っていうボタンを押したら

高速で一回転して

ぱっといなくなります

滞在期

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『ドゥキュドゥキュドゥキュドゥキュ』

『ドゥキュドゥキュドゥキュドゥキュ』

サイバートランスとかいう謎めいたジャンルの音楽があって

ドゥキュドゥキュゆってた

そうね

ドゥキュドゥキュドゥキュドゥキュ

ドゥキュドゥキュドゥキュドゥキュ

マッツーカタヒロキー

マッツーカタヒロキー

マッツーカタヒロキー

マッツーカタヒロキー

ドゥキュドゥキュドゥキュドゥキュ

ドゥキュドゥキュドゥキュドゥキュ

マッツーカタヒロキー

マッツーカタヒロキー

マッツーカタヒロ

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『ひかりの当てかた』

『ひかりの当てかた』

「どうですか、そうして傾けて、灯りの下へもっていくと、また少し趣がかわりませんか?」

「へえ、そうですね、へへ」

「これが魅力なんですよ」

「そんなもんですかね、わたしにはまったく、いやこれは失礼なもんで」

「いいんですよ、芸術の楽しみ方なんてそれぞれですからね」

「めんぼくない」

「お気になさらず」

「手袋、もうお返ししますよ」

亡き父は相当な資産家であったにもかかわらず

まっ

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『せんぱいがめんどい』

『せんぱいがめんどい』

せんぱいがめんどい

めんどすぎてぐうのねもでねえ

「俺のことググんなよぉ!?」

だと

なんだよそれ

まず

おまえのなまえ

ありきたりすぎて

ぜってえあたらねえから

なになに

なに

なんかしたの

ぶゆうでん?

かっこいいの?

ねえ

じまんしたきゃさっさとしろよ

こっちはいそがしいんだよ

「あの先輩...」

「おいググんなよぉ」

「いえ...すみませんそうじゃなく

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