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小心地滑日記〈しょうしんじすべりにっき〉 香港旅行編 ~46歳からの海外旅行~「深夜、深水埗のホテルに着いた」
#創作大賞2024 香港に行くとそこかしこに「小心地滑」と書かれている。もちろん「小心者だと地滑りします」という意味ではない。小心は注意=cautionの意味で「地滑り注…
【ロック少年・青年小説集】「25歳からのバンドやろうぜ1~初めてのステージに立ってみよう⑫【人生初ステージ2】~」
楽屋は静かでよかった。
WくんもYくんも性格がよく、ギターを見せてもらったり、ユキオのギターを見せたりした。
絵にかいたようなバンドの青春の思い出になりそうなたのしい時間だった。
Fがやってきた。
また握手を求めてきたので、断った。
一言いってやりたかったので、控えめに行った。
「調子よすぎるだろ。2回しか練習に来なかったくせに」
「相変わらずきびしいっすね…これ、パーティのプログラムな
【ロック少年・青年小説集】「25歳からのバンドやろうぜ1~初めてのステージに立ってみよう⑪【人生初ステージ1】~」
桜台という駅近くにあるライブハウスに向かう。
今日は人生初のロックバンドでのステージだ。
12月のクリスマスイブの日だった。
この日はクリスマスパーティということで、
Fたちの同窓生たちを中心にイベントが企画されていた。
ユキオはらち外なので、イベント全部に参加するつもりはなかった。
とはいえ、初ライブということで…何人か知人友人を呼んでいる手前、
客席に声をかけないわけにもいかない。
【ロック少年・青年小説集】「25歳からのバンドやろうぜ1~初めてのステージに立ってみよう⑩【明日は人生初ステージ2】~」
バンド内の軋轢とフラストレーションによる緊張でスタジオはひりひりしていた。
Fがいきなりカモンエブリバディのイントロをひきだした。
ユキオはスクラッチノイズをゆっくり弾きながらドラムのKに目配せする。
あわててKがたたきだした。
ジャカジャーンとコードが鳴る。
ベースが拳のようなリズムを刻みユキオの線の細い、神経質だがバックビートを利かせたリズムギターにせっかちな余裕のないドラムが重なる。
【ロック少年・青年小説集】「25歳からのバンドやろうぜ1~初めてのステージに立ってみよう⑨【明日は人生初ステージ1】~」
いよいよ明日がライブの日だ。
今夜、Sの住む街のスタジオでバンド練習がある。
Sが夕刊配達を終え、ユキオがマンガ編集のバイトが終わった後、午後7時からの二時間。
バイト先にギターを持ってきたのでそのまま水道橋に出て、高円寺駅に向かった。
ユキオが上京したての頃、野方のアパートからよく高円寺まで自転車で行ったものだ。
もう5年以上がたち、ずいぶん街も変わったようだった。
貸本やはなくなって
【ロック少年・青年小説集】「25歳からのバンドやろうぜ1~初めてのステージに立ってみよう⑧【人生初ステージまであと1か月2⃣】~」
Sが戻ってきた。
また通しで練習していた1曲目「カモンエブリバディ」だった。
止めるのが嫌なのでそのままひき続けた。
様子を察してSが加わる。
休んだせいか元気にはなっている。
Fがすっぽかすと同様にプラスDとKの計3人が来なくなり、Sとユキオでスタジオ代金を3回折半することがあって…さすがにぶちきれた。
Sは新聞配達をしているので、忙しいなか時間を割いて練習にきている。
しかも他の人間
【ロック少年・青年小説集】「25歳からのバンドやろうぜ1~初めてのステージに立ってみよう⑦【人生初ステージまであと1か月1⃣】~」
「S、じゃあ、最初から4曲通しでもう一度ね」
「コグレさん、またですか?」
「あと、1時間しかないからさ…」
「休憩しましょうよ…」
「まだ1時間やってないじゃん」
「そんなに練習しなくてもいいんじゃないですか?」
「そうか…じゃあ、休憩して来いよ。気が済むまで休んだら戻ってきて通しでやれるだけやるからな」
「じゃあ、ちょっと電話してきます」
ユキオはひとりだけで初ステージの4曲を通して演奏
【少年・青年小説 食シリーズ】「東京に食べるためにやってきた④~中野ブロードウェイ地下街、野方商店街編①~」
上京して1か月以上が過ぎた。
ユキオはゴールデンウイーク期間中は予備校も休みだったこともあるが、
中野の街や野方や沼袋などを自転車で走り回ってまちの探索にいそしんでいた。
ユキオが驚いたのは中野のブロードウェイという場所であった。
ここにはあらゆる飲食店や販売店が入っていて、毎日が縁日のようだった。
特に地下のフロアが衝撃的だった。
広いゲームセンターにインベーダーゲームやギャラクシアンな
【ロック少年・青年小説集】「25歳からのバンドやろうぜ1~初めてのステージに立ってみよう⑥【ヒデキ師匠登場②】~」
「ユキオ、コーヒー飲むか?」
ヒデキはネルドリップで出してくれる。
それが喫茶店よりうまい。
ヒデキは喫茶店でも成功するだろうと確信した。
「うまいっすね。何をやってもいいのつくるよね。ヒデキさんは」
「ユキオ、そういうけど、コグレの血筋だからわかると思うがさ…この職人気質というよりは事務員気質がパラノイア的にくるったように入り込むってのか…いやんなるよな。こんな性分が」
わからないこと
【ロック少年・青年小説集】「25歳からのバンドやろうぜ1~初めてのステージに立ってみよう⑤【ヒデキ師匠登場1】~」
ユキオにはロックやギターの師匠にあたる人間が何人かいた。
ヒデキはいとこで5歳年上。
元プロギタリストで今は公認会計士をやっている。
若いが事務所を構えていて、ユキオにはやり手に映っていた。
名の知れたロック歌手のバックバンドのギタリストとしてロサンゼルスで録音経験があり、西武球場でセッションギタリストとして演奏経験もある。
しかし、そういうことを一切自慢話にしないところがヒデキのすごいと
【ロック少年・青年小説集】「25歳からのバンドやろうぜ1~初めてのステージに立ってみよう④~」
Fがハイテンションで入ってきた。
1時間以上の遅刻だ。
残り1時間足らず。
「コグレさん、ステージ成功させましょうね!」
臆面もなく、握手を求めてきた。
この手の握手を求めてくる奴にロクなやつはいない。
手を蹴飛ばそうと思ったが、まあ、仕方なく握手に応じた。
Fはメンバーに陽気に、かつ強気に遅刻をわびる様子もなく、
軽口をかわしながら、一人ずつに声をかけている。
要領のいい、「うまい男
【ロック少年・青年小説集】「25歳からのバンドやろうぜ1~初めてのステージに立ってみよう③~」
サマータイムブルースが始まった。
Sは、いちおうサマータイムブルースを覚えてきたような感じだったが、
ドラムのKがその曲を知らないようだった。
「Kくんさ、サマータイムブルースはできないかな?」
「ええ、ちょっとまだ、準備してないんで」
「じゃあ、4曲の中でできるのはあるの?」
「全部できますけど、いまはわからないです」
日本語がよく通じない感じだった。
めんどくさいので、カモンエブリバ
【ロック少年・青年小説集】「25歳からのバンドやろうぜ1~初めてのステージに立ってみよう②~」
「コグレさん、Sがボーカルをやるって言ってます。他のバンドで出るDがコーラスをしてくれることになりました」
成り行きが、どんどん進む。
Fという男の行動力には恐れ入る。
「F、おまえがドラムをやるんだろ?」
「ええ、でも、サマータイムブルースだけで、あとはベースをやるつもりです」
Fは行動力はあるが、臨機応変変化上等なので、話はどんどん変わっていく。
だが、面白いので、乗っかることにした。
【ロック少年・青年小説集】「25歳からのバンドやろうぜ1~初めてのステージに立ってみよう①~」
ユキオは25歳になっていた。
サラリーマンを辞めて、マンガ編集のアルバイトをしていた。
脱サラといえば、聞こえはましだが…実際は仕事に適応できず、
首に近い自主退職であった。
すっかり人生に自信はなくなっていて…それでも自立には程遠い自分の境遇と自らの選択の結果に無力感を感じていた。
やけになる状態や躁状態においてのみ、何かを動かそうとするのだが、
結局、自己不信を深めることになっている。
【少年・青年小説 食シリーズ】「東京に食べるためにやってきた③~常連客、行きつけの定食屋に憧れていた頃の話:餃子の王将編2~」
ユキオは、中野サンプラザの向かいの歩道に自転車をとめた。
北口サンモールを横切り、「白線通り」に入る。
「白線通り」と聞いて、ときめかないわけにはいかない。
初めて上京して中野区に住んだユキオは、
近くに中野という大きな街があることに興奮していた。
ここなら、新宿に行かなくても、たいていのことは用が足せる。
中野サンプラザはロックファンにとっては知られた名前でもあった。
いずれ見ることに
【ロック少年・青年小説集】「東京にやってきた④~ロックビデオを見に行こう後編~」
店を出たユキオはアートシアター新宿を探した。
靖国通りは初めてだった。
途中に楽器店もあり、たのしくなってきた。
しかし、アートシアター新宿が見つからなかった。
放映時間にはまだ一時間近くあったので焦りはないが、何しろ新宿の駅前以外は初めてきた場所だったので早いとこ見つけておきたかった。
番地を控えてきたので住所の表示を見ながら行くと思ったより早く見つけられた。
しかし…こんな小さな劇場