【ロック少年・青年小説集】「25歳からのバンドやろうぜ1~初めてのステージに立ってみよう②~」
「コグレさん、Sがボーカルをやるって言ってます。他のバンドで出るDがコーラスをしてくれることになりました」
成り行きが、どんどん進む。
Fという男の行動力には恐れ入る。
「F、おまえがドラムをやるんだろ?」
「ええ、でも、サマータイムブルースだけで、あとはベースをやるつもりです」
Fは行動力はあるが、臨機応変変化上等なので、話はどんどん変わっていく。
だが、面白いので、乗っかることにした。
「ギターはコグレさん、ベースがおれ。ドラムは今のバンドのKがやります」
「選曲はどうすんの?」
「コグレさん、いつ空いてます? バンドの連中は全員働いてないんで、バイト以外はすぐに集まれます。そんときに飲みながら、決めましょう」
「じゃあ、金曜日のバイトが終わった後ならいいよ」
「連絡しておきます」
金曜日が来た。バイトが終わった後、自宅にギターを取りに行った。
秋葉原にある、練習スタジオにいきなり入ることになった。
Fという男らしい、せっかちな変更だったが、
初めてステージに立つという緊張もあって、
どんな連中なのかすぐに会ってみたいとも思っていた。
待ち合わせの15分前にスタジオに行くと、まだ誰も来ていなかった。
19時から2時間の予定で予約を入れてあるという。
受付で確認しても、まだ来ていないという話だった。
5分前になったので、練習スタジオのドアの前に立って待っていた。
練習していた人たちが、片付けを終えて、出て行ったので、
先に入っていた。
ギターはおれ一人なので、さっそく準備にかかった。
エフェクターはないのでチューナーにシールドをつないでチューニングを始めた。
マーシャルがあるが、ブギーのアンプが気に入っているので、
ブギーにつないだ。
この3つのつまみのコントロールもいまいち理解していなかったが、
メタルのようにゆがませないが、まあまあノイジーな設定にしてみた。
いい感じ。
しかし、もう5分すぎている。
すると、ドアが開いた。
初対面の人間なので、少し身構えた。
Fがいない。
「コグレさんですか? ぼくSです。
ボーカル担当です。こいつがKでドラム、Dはコーラス予定です」
「コグレです。よろしく。Fは?」
「遅れるそうです。先に練習しててくれって」
レパートリーをあってから決めるはずなのに、
なんていいかげんな話か…全員社会人未経験なので、おおめにみた。
それぞれが、ぎこちないなりにセッティングを始めた。
ドラムのKは、陽気になんだか自信満々な感じで、
調子がよかった。
Dは180センチを超える長身、格闘家のような体形で、
エルビスプレスリーになんとなく感じが似ていた。
Sはつるっとしたアイドル顔で、ふわったした性格。
3人とも、妙な自信をみなぎらせている。
5歳は年が離れている。
なかなか、微妙な雰囲気だったが、
いちおう最年長なので、気を使って練習をしましょうと伝える。
「Sくん、なんか歌える曲で、ボクが弾ける曲あればなんかやろうか?」
「Fから、カモンエブリバディとロマンチストとドカドカうるさいロックンロールバンドにサマータイムブルースをやるって聞いてるんで…コグレさん弾けます?」
あのやろう。
Fが勝手にやる曲をきめやがったか。
でも、まあ、どれも知っている曲で、ドカドカはいまはわからないが、
サマータイムブルースにカモンエブリバディくらいなら弾けるか…
「じゃあ、サマータイムブルースやろうか」
Kはよくわからないようだったが、
ユキオのリードで練習が始まった。