【BL二次小説】 お出掛け⑥
店内の自転車コーナーでサイクルグローブを物色する二人。
「ハーフフィンガーだろ?」
「ああ」
様々なメーカーの商品が揃っている。
「……」
新開は、別にグローブなど欲しいわけではない。
ただ単に、荒北とのデートの口実に過ぎなかった。
「やっぱゲル入りだよナ」
荒北は真剣に選んでくれている。
普段から口の悪い男だが、なんだかんだ面倒見が良いのだ。
「……」
そんな荒北がとても愛しく思え、そして同時にとても申し訳なくも思えてきた。
せっかくの休みの日に、付き合わせてしまったからだ。
しかし文句も言わず、不自然な待ち合わせにも突っ込まず、ちゃんと来てくれた。
しかも、約束の時間よりも遥かに早く……。
だからどうしても、期待してしまう。
荒北も自分と同様、1分でも早く二人で会いたかったのでは……と。
「コレ、イイんじゃナァイ?」
中から1種類選んだ荒北。
「え?……ああ。いいね」
「使い勝手良かったら、部で大量に仕入れてもらおうゼ」
「そうだな」
……しまったーっ!
もう決まっちまった!
これで、今日の予定終了じゃないか!
もう終わり?
もうデート終わり?
開店してまだ10分も経ってねー!!
心の中で頭を抱える新開。
今更ながら、デートプランが未熟過ぎたことに気付く。
何か、どうにかもう少し時間を引き延ばしたい。
荒北ともっと長く一緒に居たい。
「い、色!そう、色は何色がいいかな!」
「色?」
苦し紛れにグローブの色まで選ばせようと試みる新開。
赤、青、緑、黄、ピンク、オレンジがあり、ズラリと並べる。
「そうだなァ……」
それでも引き延ばせるのはほんの数分だ。
頼むから、何時間でも悩んでほしい。
不可能な事を願う新開。
「コレだ」
願い虚しく数秒で荒北が選んだ色は……。
「ピンク?」
意外だった。
「オレ、ピンクなんか似合うか?これ女性用じゃね?」
「バァカ。男がピンク着こなすのどんだけ難しいか解ってっか?ピンクはなァ、ホントにイイ男にしか似合わねン……ハッ!」
慌てて口を手で押さえる荒北。
「ウ……」
頬を赤く染め、目が泳ぎ出す。
「靖友……」
荒北にイイ男なんて言ってもらえ、感激して鼓動が速くなる新開。
「り、理由なんかどーだってイイんだヨ!オレはァ!オメーにはピンクが一番似合うって思ってンだ!」
ヤケクソになって叫ぶ荒北。
「うん……。オレ、このピンク買うよ。ありがとう靖友」
「ケッ!」
クルッと新開に背を向ける。
耳まで真っ赤になっているのがわかる。
靖友……。
ああ、靖友。
好きだ。
すごく好きだ。
今、その背中に抱き付きたくてたまらない。
強く、抱き締めたい。
もう……嫌われるかもとか、関係がギクシャクするかもとか、どうだっていい。
この気持ちを、吐き出したい。
おめさんだって、オレのことそんな風に褒めてくれて……。
オレのこと、少なくとも友達以上には、思ってくれてるよな?
好意を、持ってくれてるよな?
そうだろ?
靖友……!
「お決まりですかー?」
「あっはい!」
店員に声を掛けられ、新開の思考は中断された。
「……」
「……」
スポーツ用品店を出て、街なかをあても無くブラブラ歩いている二人。
参ったなぁ……。
この後どうしよう。
他の買い物も思い付かないしなぁ。
映画……?
いや、そんなベタな。
ゲーセン?
いや、オレあまり得意じゃないし。
遊園地?
いや、もっと大勢で行くものだよな。
一生懸命考えている新開。
冷や汗が流れてくる。
早く、早く何かプランを……!
「そっ、そうだ!靖友!昼メシ食おう!」
「30分前に朝メシ食った。しかもオメーは2度もだ」
「靖友、酢豚、食いたいのかな、って……」
「酢豚の話は忘れろ」
「……」
「……」
この後どうして良いかわからないのは、荒北も同じだった。
二人は再びブラブラと歩き続ける。
しかし、駅とは逆方向に進んでいることに、お互い気付いていた。
そのことが、嬉しかった。
まだ帰りたくない ──。
思いは同じだ。
二人とも、そう確信していた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?