フォローしませんか?
シェア
唐仁原昌子
2024年3月31日 19:35
三月の終わり、ぬるい春の日。 私は、今か今かと時計を見つめる。 ジリジリと進む秒針が、私の視線の熱で溶けて出す…なんてつまらない妄想をしながら、時が過ぎるのをじっと待つ。 しばらくして、待ち焦がれたチャイムが鳴る。教壇で先生が何かを言う。それを聞いたクラスメイトたちがどっと笑う。 いつもの空気、いつもの教室。 掃除のために机を動かす音、椅子を引いて立ち上がる音。誰かの笑い声に、
2024年3月24日 23:06
どうして、みんなそんなに「他人」のことに興味があるのだろう。 これまでにも何度となく思ってきたことを、カフェオレの入ったマグカップを片手にしみじみと思う。 テレビでは、芸能人の不倫関係がどうとか、政治家の汚職問題がどうとか、朝からずっと垂れ流されている。 私は、画面の中でやけに熱っぽく語るアナウンサーを、もう冷めてしまったトーストを齧りながらぼんやりと眺める。あ、このストロベリージャ
2024年3月17日 20:06
「ねえ」 沈黙を破ったのは、やはりミオだった。「冬のすきなもの、挙げっこしようよ」「…冬の好きなもの?」 あまりに唐突で、聞き返してしまう。「うん。私、石油ストーブが点いたときの匂いが冬っぽくてすきなんだよね」「ふうん」 石油ストーブが身近にないから、そんな匂いはしばらく嗅いでないなと、コンクリートの階段に座り、剥げかけた赤いマニキュアを見ながら思う。「後は…コンビニで買
2024年3月10日 23:36
深夜二時、スマホの画面がぼうっと光る。 日曜日の夜中に、こんな時間まで起きているやつなんて、私には一人しか心当たりがない。 光った画面には、想像した通りカオリの名前が眩しく示されている。ベッドに寝転んだまま、スマホを手に取り通話ボタンをタップして応じてあげることにした。「…なにー?」「お、やっぱり起きてた」 夜の隅っこで、だらだら睡魔を待っていた私を知ってか知らずか、声の主は嬉し
2024年3月3日 23:51
駅前の商店街の外れに、小さなタバコ屋があることを、この街の人はどれくらい知っているのだろうか。 今どきタバコなんて、コンビニや自動販売機で買う人の方が多い。 僕の家から駅に行くにはその店の前を必ず通ることになるので、図らずもずっとその変遷を見守るようになっていたが、これまでにそのタバコ屋で買い物をする人は、数回しか見たことがなかった。 何となく曇ったガラスのショーケースの上に、受け渡