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唐仁原昌子
2023年3月26日 23:46
私にはずっと気にかかっていることがある。ずっと気にしてはいるけれど、自分としっかり向き合って考える気になかなかなれなくて、忙しさを口実に、決断を後回しにして「今」ここまできてしまった。 いつもそうだ、大事なことほど悩んで悩んで後回しにして、ギリギリに適当に決めてしまう。本当によくない、とはわかっているのだけど。 「はあ」 一人小さくため息をつきながら、ロッカールームに向かった。 人生は
2023年3月19日 21:13
その日は何だかまっすぐ帰る気になれなくて、私は駅前のコーヒーチェーン店の前で足を止めた。一瞬迷ったけど、普段そんな気になることは滅多にないなと思い直し、これもタイミングとそのまま店に入った。 自動ドアが開くと同時に、ふわりと感じるコーヒーの香り。コーヒーに特にこだわりを持つことなく、インスタントで済ませてしまうような私にとって、チェーン店のコーヒーショップでも十分満足できるような「空間の匂い
2023年3月12日 21:34
「私は、気が付いたらここにいました。何に逆らうでもなく、何に惹かれるでもなく、人生の波に乗って適当に生きていたら、ここに流れ着いていたのです。私のこれまでは、ただそれだけの言葉で語れてしまう程度のものだと思います。恐らくこれから先どれだけ生きたとしても、自分が何をしに生まれたのかなんて、きっと私にはわからないでしょう──」 ここまで書いたら、本当に馬鹿馬鹿しくなって思わずシャーペンを置いた。提
2023年3月5日 18:44
「俺、見ちゃったんだよね…」 その朝、いつもの電車に乗るべくホームで合流するや否や、リョウタが嬉々として話しだした。「なになに」 俺は、つけていたイヤホンを片付けながら相槌を打つ。「昨日の夜、結構遅い時間に小川さんが、駅前でおじさんと歩いてたんだよ」「え、どういうこと」思わず手を止めてリョウタの顔を見た。「いや、わかんねえけど。うちの制服だなーって見てたら、小川さんだった。つか、あれは