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作詩-言葉たち-vol2

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2016年5月の記事一覧

水底の月

夜に溶けてしまいたい
月も差さない深い夜に
このまま溶かされてしまえたら
あたたかい闇が抱きしめてくれるかしら

漂っているだけで
空気の摩擦に傷ついてしまうよ

摩擦係数ゼロのクラゲだったら
皮膚にまとわるヤスリの熱に
焼かれなくて済むのだろうか

波にゆられて
全て委ねて

水底へゆこうか
月も差さない水の底へ

©2016  緋月 燈

とどまるものへ

抱きしめられるより
抱きしめていたい
ちゃんと、今度こそ

誰にも手をのばせるのに
誰にも手をのばせない
だから今度こそ
手をのばしたい
次なんてないかもしれないから
精一杯の今を 手をのばして

愛していたい
そっと抱きしめて
わたしの全部で伝えたいの
押しとどめていたこころ

大丈夫、ちゃんと送り出してみせるから
ひとりぼっちの君へ
約束するよ ひとりにしない
隣に寄り添う人を探すからね
だか

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SSノスタルジック

懐かしい表紙をひらいたら
あなたは愛しく 其処にいた

そんなに昔じゃないけれど
触れなくなって いつからだろう
忘れるよりも ずっと残酷
心を寄せなくなるなんて

だけど不意に呼び戻された
あなたを愛しく思ったことを
あなたがくれる物語を
そっと見つめていたことを

懐かしい表紙をひらいたら
片付けられた愛しさがまた
桜のように花開いて
胸の奥に熱がさした

永遠なんて誓えないけど
今また少し共

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波にのる
たった一言
とても難しくもあること

櫂を棄てた
流れゆく小舟になるんじゃない
激流を物ともせぬ
船頭となること

流れの道筋を見出すこと
過たず舟を操ること
不意の潮目にも櫂を放さないこと

身を任せながら
諦めないことと似ているのかもしれない

泣きたくなって櫂を棄て去ってしまいたい
激情に駆られる
それでもどうしようもなく此処に在ることを思い知らされて
光はまだ其処にあると教えられ

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夜明けのひかりをとじこめて

夜明けのひかりをとじこめて
金いろの希望を留めておけたら
曇り空の下でも
どしゃ降りの雨の中でも
歩きつづけてゆけるだろうか

朝陽よりもまぶしいのに
月のようにやさしい
あのひかりを
いつも胸に抱いていたい

傘をさすこともできないくらい
雨を降らせて
道なんか見えなくても
たったひとつのひかりが欲しいの

夜明けのひかりをとじこめて
この胸に飾れたら
どんな希望より晴れるのでしょう

ガラスの

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寂しさのしずく

隣にいる人すら
意味を持たぬほどの
寂しさがこぼれでるときがあるの

紫いろの夜は
差し伸べられる手すら厭わしくて
すくいあげられることを望んでいない

闇にも呑みこめない雫を
熱く濡らしては
絞りだせない声を滲ませる

今夜は
孤独なほど寂しくなくなるから
どこまでも一人にして頂戴

世界に別れを告げて
一人 待ち侘びる雨音は
月光の音色よりピアノらしく寂しく響くのでしょう

透明にしすぎた寂し

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越えられないもの

言葉では語りえないこころがあるんだ
瞬きより刹那のゆらめきを
切り取ってしまうのはきっと美しくない

誰もが同じと錯覚する
言葉という線引きを
それでも手離さずにいられないのは
夢と現実の狭間に涙の匂いを思うから

音に心をのせてあげられない私の指は
歌にしきれぬ声を
不細工に筆にのせる

余計な音を切り捨てる夜に
心を奏でる音を聴いて
言の葉に捺しきれない熱を逃がす

果てしない営みの先に
何を

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