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「タバコの煙とトンボ取り」 詩


父さんと よく 近くの 野原へ
トンボ取りに 行った。

ギンヤンマや 赤とんぼが
ほとんど羽根を 動かさず 
高い空を 泳ぐように 飛びまわる。

夕日を 浴びると
その羽根は 金色に光る。

ボクは 網を振って
その 輝く羽根を 追い回す。

父さんは いつも 笑いながら
トンボを 追いかける 姿をみてる。

やがて タバコに火をつけ
トンボが 飛びまわる
夕焼け空を 見ながら
かすかな声で 歌う

「ここは お国の何百里・・
離れて遠き 満州の・・
赤い夕陽に 照らされて・・
友は野末の 石の下・・・」

しゃがれ声は タバコの煙と一緒に
空に 昇っていく
煙は 父さんの 戦争での
悲しみを 柔らかく 包み込む。

ボクは 父さんの 
ザラザラした 硬い手を
両手で握りしめ
悲しい旋律を 心の手帳に
書き留める

タバコの火が 消えても
父さんは 沈んでいく 夕日を
見つめ 続ける

街灯が ポツリ ポツリと
灯りだすころ 
ようやく 僕の顔を 覗き込み
しゃがれ声で いう

「坊 戦争はいかんよ。
戦争しちゃ ダメだ」

その時 父さんの目は 少し濡れていた

時は 令和となった。

でも ボクには トンボの飛ぶ空を みると
夕焼雲の 向こうから
タバコの煙の においと
しゃがれ声の 軍歌が 聞こえてくる。


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