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緑の獣

噛み付く勢いで伸びる雑草

獣の様に唸る春の風

燃えるようにぼうぼうと

なった畑の成れの果て

手をつけなくなって3年ばかり

放っておかれた悲しき荒れ地

かつては甲斐甲斐しく

細やかな手入れを心がけて

畑としての体裁を保っていた筈なのに

一度目を離しただけで見るも無惨

悲しき結末

取り返しのつかない状態

雑草よりも野菜が

隆盛を極めていたのは今はもう昔

かつての栄光は土塊に埋もれて

ミミズに食べられてしまったようだ

時の流れには逆らえず

知的な文明は終焉を迎え

そこには緑と虫たちによる

新たな文明が築き上げられていた

自然の脅威には逆らえない

もはや見る陰も無い人の痕跡

草葉の影から這い出した虫たちが

太陽の下で堂々と笑っているのが憎たらしい

鳥にでも突かれてしまえと悪態ついたところで

無力な僕にはため息をつくのが精一杯

春が来たのだ

緑萌ゆる素晴らしき光景だ

人間がいくら努力し切り拓いた土地だろうと

そんな事は意にも介さず圧倒的な力により

捻じ曲げ飲み込みシステムを破壊して

形を変えていった

美しいまでの緑のありのまま

あっという間に片鱗さえも

残さず飲み込まれてしまった何もかも

自然の伸びやかさの前では

僕の努力なんて無に等しい

太刀打ちなんてできやしない

もはやそこには思い出しかなく

もはやそこには現実しか広がってはおらず

トマトもナスもきゅうりも見当たらない

アスパラガスもとうもろこしも見当たらない

いね科の雑草や名も知らぬ小さな花々

蔓草やカエルの鳴き声

バッタやコオロギたちが羽を擦る音

営まれていく生態系の中で

僕の費やした時間なんてちっぽけなものだ

あぁ緑の獣たちが今僕を睨みつけている

恐ろしい眼差しで唸り声をあげている

緑の獣に噛みつかれる前に逃げ出さなければ

吠える声があちこちから聞こえてくる

あぁ今すぐ逃げ出さなければ

僕までもが緑の獣によって

姿を変えられてしまう

理性も知性も失った

僕を優しくなでてくれるのは

夏に向かって吹き抜けていく一陣の風と

眩しい陽光春の光

僕だったもののかけらは

風や太陽によって

まだ見ぬ未知の土地に向かって

吹き流されていくのだ

緑の獣の咆哮があちこちから聞こえてくる

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