靴下

靴下です。 忘れてしまいそうなことを、書いておこうと思います。 https://mo…

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靴下です。 忘れてしまいそうなことを、書いておこうと思います。 https://mobile.twitter.com/canmake_tohoku

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覚えていてね

どうしても、あの人には死ぬことを選ばないで欲しいなと祈ったけれど、それってすごく酷いことだなと夜が明けてから一人でそっと思った。だから、花瓶の水をかえた。わたしのくらす部屋。廊下には花瓶が10個ならんでいてそれぞれの花々から爽やかな匂いがする。しんとした廊下、冷たい廊下。裸足でペタペタとあるけば、これがまるであの世への道のようで緊張する。花に囲まれた生活。春が近くに来ている。天国に似た春が。 ところで、あの人は今日も孤独だろうか。音楽は、文学は、どこへ行ってしまったのだろう

    • やわらかい

      ほろほろと、待たないなみだが転げ落ちる。まつ毛の際、きみが手をさしだす。ああだめだ、わたしはひとと暖かく生きることがへたくそで、日曜日のお昼だというのに泣いてしまう。 窓辺、チューリップが咲いてる。わたしが歩く、速度に合わせて、きみが後ろをついて歩く。拾った木の枝、貝殻、光、風とか、ほろほろと落として歩く。わたしの手のひらは隙間だらけで、なにもかもを包み込めない。後ろを歩くきみが、背の高いきみが、丁寧に拾ってくれる。落としちゃった大切にしたかったものたちを、代わりにきみが持っ

      • PRAY

        わたしにとってあなたが全てなんかではないよと教えてやりたい。そうして、気軽に愛してくれればいいのです。そんなに恐る恐るわたしに近付く必要はない。もっと、なんでもないように愛してくれればいいのです。 愛することが、信仰に近付いてしまう。これはわたしの愛の特色で、これはわたしの受けた愛とも同じものでした。祈ることは、それを見つめる行為のようで、目を逸らす行為とも呼べる。ただただ惑いのない真摯なものでは決してなかったのです。個と個の隙間にあるものを肯定するだけで、それに触れて形を

        • 2023の夏

          電車を待つホームの反対で花火大会帰りの人々、歩きにくそうな下駄を鳴らして、カランコロン。夏を下ってく。 僕はといえばリュックに、お祝いの品なんか詰めて、忙しいふりをした。息切らすのも覚えたんだ、この頃。 吹きこぼれそうなその鍋に、無理やりかぶせた蓋はすぐ曇る。僕はメロンソーダがすき。泡が凍って、シャリッとする。洒落たリズムの曲はすぐ雨の日を喜ぶし、情けない恋の歌はすぐ酒ばっか飲むが。松本隆は相変わらず良い。松本隆は相変わらず、相変わらずだ。 曇った日の夜、黒の中の雲をはか

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        覚えていてね

          ほとんどのこと

          おいしい、ビールの味を覚えたて。急いで飲むことができるのが、ビールのおいしいところだと思う。メニューをじっくりと見るときの、そわそわする感覚が苦手で視線に耐えられず、ごくごくとビールを飲んでいたら、うっかりとビールをすきになっていた。 ほとんどのことに理由はあるよ。ほとんどのことが譲れない。ほとんどのことがコツコツと生まれて、ほとんどのことを選んできたの。大事にしたいよ、自暴自棄やめて、とあの人は暗い部屋、机を挟んだ奥の方で言った。覚えていることも少しはあるの、ほとんどのこ

          ほとんどのこと

          ハミングするように

          言葉は本当に、言の葉なのだなと思うことがある。 なんだか自信がなくなってしまいそうな、そんなこと。ナンジャモンジャの木が生えている、通勤中の住宅街。すき。 古い友人と下北沢の公園で寝そべって、こぼしてしまう程度のすきについて話した。べちゃっとしたチャーハン。いいよね、わたしもすき。あ、雨の日に傘を買いに駆け込んだスーパーで花を一輪買ったことがあった。あの時のことがわたしはすきだな。わたしがわたしに優しくできた日。綺麗な雨。すきな人の自転車に撥ねられたいな、そのまま終わってしま

          ハミングするように

          21

          赤い日がさしこんで緑色の影が落ちる。わたしいつも、いつだって いつまでも 美しく在りたくて、嘘を沢山ついてきた。本当に言いたかったことを何度も言わなかったよ、見抜かないでくれる馬鹿な人を選んで生きてきた。そんな生き様じゃあ汚くって、わたしはただ、美しく在りたかったのにそれだけなのに、上手く出来なかった。もう二十歳じゃあない。

          ひと

          わたしたちに神様はいるだろうか。いつからか、いつだってそんなことを考えて。 いつか救いが来るように、いつか許しを得られるように、そんなふうに生きてきました。 暗い夜には部屋の明かりを灯して、必要な光のある世界を作りました。 それを外から覗けば、私たちのそれぞれの暮らしにそれぞれの色の光が宿って、まるで神様のいる部屋、ステンドグラスを思い出しました。 思い悩み、思考の限界に到達してしまいそうなとき、わたしは信じてもいない「神様」という言葉を使って、自分をなんとか他人事に仕立て

          鳥が妙におおい町。ドラマチックだねと言われた、神社からの帰路。わたしにはあなたみたいな大胆さがないからドラマみたいなことは起こらない。と自虐的に笑ったあの子の、わたしを静かに見下ろす目線が気持ち悪くて最悪だった。 きっと、捨てられない宝物が、傷つけるわけにはいかない人が、人生に付随してしまって、身動きが取れなくなっているんだろうな、あの子。それは深くキラキラとしていて、綺麗だ。蹴っても倒れない木とおなじ。あの子は立派でたしかで、これからもそうだろう。 わたし、木になれないの

          うんざり

          草野マサムネはわたしがえらべない言葉をえらんでならべる。明日きみがいなきゃ困るってうたう。花が咲いている。 わたしたちこれからどうしたらいい、絶望のふちで困り果てたように嘆いてた映画の中のあの子、だけれど彼女にはそれを打ち明ける相手がいて、ともに困り迷う相手がいて、なんだか孤独でなければすでにそれは無事のように思えてしまって 音楽は盛りあがり、色のついた光がさして、それを冷静に見つめている自分のあまりのつまらなさにうんざりした。 そういえばすきなドラマの中、泣いてしまった

          うんざり

          だまった

          わたしは黙った、教会で神様がこちらを見下ろすから。ここでなにかを話したら、26人の殉教者とは、対等になれない気がしてた。だけれどそもそも対等じゃない、わたしのこの出来損なった人生、神様のいない人生。すべてを許すとか言うんなら、ついでにわたしのことも赦してほしいと神様を見つめてみて、すこし笑った。だけど傍で感じるのは呑気な猫の気配と、ステンドグラスに見蕩れる少女の目。もっと呑気でいいんだ。きっとそうだ。わたしのリズム、この息の詰まる歩きかたは幸せを見えないようにしてしまう、不幸

          だまった

          愛のボトル〜プレイリスト〜

          冬につま先がつめたくて、あの人の言ってた地獄なんてわたしの散歩道みたいだってガッカリしたことを思い出した。愛したって言ったことも全部忘れてよ。もういまはただ悲しい。 スクリーンを眺めつつ指を絡めてしまった時代だって、わたしは死にたいと言ったわ。哀れな時代を責めて、生き抜くことに誇りが欲しかった。心の中はいつもそれだけで、それ以下にはならなかった。賢くありたいと願ったり愚かになりたいと眠ったりした。冬はいつも、思い出すようにやってくる。ああ覚えている、このつま先の冷たさを覚えて

          愛のボトル〜プレイリスト〜

          ぜんぶ話したい

          だってあなたがあまりにも、真ん中にいる人だから。あなたに近づくと音符だって凛と背筋を伸ばします。見蕩れていたんです。仕方ないでしょう、どうしてそんな言葉を話すの。砕けた硝子が一番光っていたあの頃を思い出します。そうでした、誰かが強請っていたお高い宝石のブローチなんてわたしは欲しくありませんでした。ずっと、触れれば指が傷ついてしまいそうな鋭利な硝子がすきでした。 わたしはどうして、欲しくてたまらなかったものすら捨ててしまうのでしょうか。大切にしていた贈り物を、ついにきのう捨て

          ぜんぶ話したい

          Kがいる東京

          きょう、東京にはKがいる。黄色の花が咲いたシャツを羽織っている。ただそれだけのことだ。わたしはというと、わざわざ東京から山形へ。Kのいない山形へむかっている。今日、東京にKがいるということは、なんてことない。そんな程度のことなのだ。 わたしの人生を導くひと。彼のことを本文では、Kと呼ぶことにしている。 Kが日本へやってきた日、わたしはいつも通り仏間で寝ていた。ときどき猫が頭のまわりを跳ねて、そのたびにうっすら目をあけて、にゃあと言ったり言わなかったり。 Kが日本にやってき

          Kがいる東京

          日記

          ラジオから聞こえてくる、気象予報士の声が一瞬だけ明るくなる。東京の雨が止んだらしい。わたしはというと、雨のやんだ山形で、日本の未来がどうだとか言っている。選挙に行った日、わたしの暮らす街には虹がかかった。これまで生きてきて、いちばんに大きい虹だった。あからさまにきれいなその虹が、わたしをもてなしているようで気持ちが悪くて胃もたれして、だからとおくへ行くのだ。どんなに頑張ったって、思い出さなくていいことだけを思い出す。いつか今日のこの気持ちを思い出したとき、あまりのハタチらしさ

          みんな空を飛んでいた

          みんな空を飛んでいた。ときどき訪れる図々しい美しさが、残酷だった。これくらい図々しくないと綺麗に咲いてなどいられないのか。空を飛んでいた、小鳥が隣で死んでいる。アスファルトの上。土に帰れない小鳥を、アリ達が一口ずつ運んでゆく。いのちだったもの。わたしは空を見上げている。小鳥が飛んでいたはずの空。機関銃みたいなトンボたちが飛んでいる。わたしは怖くなって、銃を構える。撃たない。どうせみんなわたしよりも先に死ぬ。そして、みんな地面で死ぬ。空を飛んだ生きものたちはみんな地面で死んでゆ

          みんな空を飛んでいた