日記

ラジオから聞こえてくる、気象予報士の声が一瞬だけ明るくなる。東京の雨が止んだらしい。わたしはというと、雨のやんだ山形で、日本の未来がどうだとか言っている。選挙に行った日、わたしの暮らす街には虹がかかった。これまで生きてきて、いちばんに大きい虹だった。あからさまにきれいなその虹が、わたしをもてなしているようで気持ちが悪くて胃もたれして、だからとおくへ行くのだ。どんなに頑張ったって、思い出さなくていいことだけを思い出す。いつか今日のこの気持ちを思い出したとき、あまりのハタチらしさに身震いでもするだろうか。もしも、いつか幸せに成り上がってしまっても、今日のこの気持ちを幸せと呼べるだろうか。地に足を付けて幸せになりたいな。どこへでもいけてしまう人にあの人を安売りされた冬。もっと尊い人でいたかったのに、口を聞かないだけでそれっぽくなってしまう。あの子は綺麗じゃなかった。

そして、いつか聞いた神様の話を思い出している。人間と仲良くなりすぎて処刑されてしまった神様の話。神様は綺麗だから。人間が汚いから。神様は綺麗だから。神様は綺麗だから、綺麗なものしか作れない。人間は汚いから、汚いものしか作れない。人間を作った神様は、どうやって人間を作ったのだろう。本当は美しかったのだろうか。混ぜたら濁る色水のように、わたしたちはじめは透けて綺麗だったのかもしれない。

わたしたちは今もきっと光に当たってキラキラしながら、こんなはずじゃなかったよねと笑うように泣いている。水面に空が映っている。

光って見えて本当はもう終わってるとか、そんなの。そんなの、こんなの、もうあってもないようなもの。実感だけが追いつかないね。だからわたしたちは夢を見るのをやめた。そして決めたの。愛に従う。寝付けずにいた夜、ひとりで回した洗濯機を見つめながら。愛に従うと決めた。わたしはそう決めた。

生暖かくて気持ちの悪い季節に着る、薄いシャツを捨てた。もうこんなものもいらない国になる。わたし、いつまでここにいるだろう。


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