2023の夏

電車を待つホームの反対で花火大会帰りの人々、歩きにくそうな下駄を鳴らして、カランコロン。夏を下ってく。

僕はといえばリュックに、お祝いの品なんか詰めて、忙しいふりをした。息切らすのも覚えたんだ、この頃。
吹きこぼれそうなその鍋に、無理やりかぶせた蓋はすぐ曇る。僕はメロンソーダがすき。泡が凍って、シャリッとする。洒落たリズムの曲はすぐ雨の日を喜ぶし、情けない恋の歌はすぐ酒ばっか飲むが。松本隆は相変わらず良い。松本隆は相変わらず、相変わらずだ。

曇った日の夜、黒の中の雲をはかるには、星の有無を問うしかなくて、金のない友達に貸す金は、もう帰ってこないもんだと思ってんだ。
大きい道路に出れば、何の音かもわからない。今日もあの子には太陽の音が聞こえてる。忙しいフリしてリュック揺らし走る。

2023年の夏、ハタチでもない僕になって、どこにいるのかもわからなくなった。いつも終点までたどり着いてしまう。忙しく生きていたら、忘れられるかなとも思うこと。不安も、忘れられないよ。こびりついたままだよ。眠らなきゃ、眠らなきゃって、口に運ぶ、つめたいうどんすら啜れない。からまわってる、扇風機はえらい。世田谷線。カンカン、踏切がなって、ちっとも帰り道進まない。思い出す、あのシロクロ映画、自由なのは、自由だったのは。洗濯物をゆらしてた、あの風だけだったよって。先生が急に言うから、怖かった。鏡越し、目があって緊張した。歯磨きの音、脳みその中で反響してる。硝子ビー玉高いところから落ちて、泣いてたふりも許されなくなった。爽やかな夏。終わりがくる。

背伸びして抜き取った本を、背伸びして戻すことはできず。手に入れてしまったものは、手放すことが一番むずかしい。そんなことは。そんなことにならないとわからない。忙しいフリをした。リュック揺らした、線路沿いの町で。肌に熱がこもってる。こもってるんだろうな。


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