ほとんどのこと

おいしい、ビールの味を覚えたて。急いで飲むことができるのが、ビールのおいしいところだと思う。メニューをじっくりと見るときの、そわそわする感覚が苦手で視線に耐えられず、ごくごくとビールを飲んでいたら、うっかりとビールをすきになっていた。

ほとんどのことに理由はあるよ。ほとんどのことが譲れない。ほとんどのことがコツコツと生まれて、ほとんどのことを選んできたの。大事にしたいよ、自暴自棄やめて、とあの人は暗い部屋、机を挟んだ奥の方で言った。覚えていることも少しはあるの、ほとんどのことを忘れてしまったけど。お酒を飲むと、やさしくできる。そんなこと言わないで、きみともっとちゃんと口聞けばよかった。ほとんどのことを忘れてしまう、いつみたのかわからない空。いつみたのかわからない花。であいの時を覚えてはいない、けれど大丈夫。きっと光るよ、無知だった瞳のように。

お月様より眩しいものが、ないように思えた夜、寂しくて散歩をして、アイスを食べた。ららら、サンダルの先禿げた爪にも夏。ららら、食いしばらずにいられるローソンの裏。ららら、このまま攫ってくれないかと願った車はわたしをアパートに運ぶ。ららら、爽やかな朝。もうひとりでに遠くへ歩くなという。ららら、かまって欲しくてたまらなかった、20の夏。紺色とグレーと青、桃色が透けて伸びて、朝。ららら、人の声のような波の動く音。ららら、怖気付いたとききみはいたずらにいなくなる。視界の黒色、怯えつつ声を出すよ。ららら、ららら。また、ここには居ちゃいけないみたいだね。せかさないでおくれよ、もうすでに走ってるから。

ららら、ほとんどのことに理由はあるよ。きみに言わなかったことのそのほとんどにも、合わない考え方や、知らない思い出の中に、本当は本当にたくさんの言葉が溢れて仕方なかったんだよ。

ららら、ららら。ほとんどのことは手に届かない。夜中じゅう探した星にも手は届かない。怖くないふりをした、雷も本当はこわい。ほとんどのことが手に追えない。ほとんどのことが愛情で誤魔化せるのだ。ららら、ららら。ららら、ひとりぼっちで考え事をしている。ららら、季節が変わるとわかるのはいつも、夜の帰り道。どこへ、行こう。どっちつかずな居場所こそわたしらしいね。小さな飲み屋の連なる夜道を、ひとりで歩くよ、きみのことガラス窓によぎりながら。

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