みんな空を飛んでいた

みんな空を飛んでいた。ときどき訪れる図々しい美しさが、残酷だった。これくらい図々しくないと綺麗に咲いてなどいられないのか。空を飛んでいた、小鳥が隣で死んでいる。アスファルトの上。土に帰れない小鳥を、アリ達が一口ずつ運んでゆく。いのちだったもの。わたしは空を見上げている。小鳥が飛んでいたはずの空。機関銃みたいなトンボたちが飛んでいる。わたしは怖くなって、銃を構える。撃たない。どうせみんなわたしよりも先に死ぬ。そして、みんな地面で死ぬ。空を飛んだ生きものたちはみんな地面で死んでゆく。それなのに私たちだけ、天国へ行こうとか考えている。空の中で死ねるいのちなんてないのに、天国へ昇ろうとしている。図々しい。図々しくないと綺麗でいられないのは人間もおなじで、悲しかった。わたしの部屋のベランダで2匹のセミが死んでいる。もう2年もそこで寝ている。なにもおもわないのだろう。雪が降っても、雨が降っても、なにもおもわないのだろう。冷たくも暑くもないのだろう。悲しくもないのだろう。だけどわたしは悲しくて、今日もここから動けない。わたしはただ、きみになりたかっただけなのに、なぜだろう隣で空を見上げている。なにもおもわないきみのとなりでただ空を見上げているんだ。お墓をつくろう、空に。わたしたちがみんな、そこへ行けるように。

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