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連載:「新書こそが教養!」【第70回】『地球の中身』

2020年10月1日より、「note光文社新書」で連載を開始した。その目的は、次のようなものである。

■膨大な情報に流されて自己を見失っていませんか?
■デマやフェイクニュースに騙されていませんか?
■自分の頭で論理的・科学的に考えていますか?

★現代の日本社会では、多彩な分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」こそが、最も厳選されたコンテンツといえます。この連載では、哲学者・高橋昌一郎が「教養」を磨くために必読の新刊「新書」を選び抜いて紹介します!

現在、毎月200冊以上の「新書」が発行されているが、玉石混交の「新刊」の中から、何を選べばよいのか? どれがおもしろいのか? どの新書を読めば、しっかりと自分の頭で考えて自力で判断するだけの「教養」が身に付くのか? 厳選に厳選を重ねて紹介していくつもりである。乞うご期待!

地球と生命の関係

地球の内部構造は「ゆで卵」に例えられる。卵の表面の薄い殻は「地殻」(厚さ6~30Km)、白身は「マントル」(地表から2890Km)、黄身は「コア」(中心から3480Km)のイメージである。これまでに人類が掘削した最も深い穴は地表から12Km、地球の中心からわずか0.2%にすぎない。あらゆる生命は薄い地表に貼りついて存在しているわけで、改めて巨大な地球に圧倒させられる。

地殻は、14枚ほどの大規模「プレート」と呼ばれる岩盤で形成され、その直下で岩石やマグマが対流する「マントル」に移動させられている。大規模プレートは、数多くの小規模プレートに分かれ、互いに押し合っている。そのため、北海道の日高山脈のように、二枚のプレートが押し合った結果、片方のプレートがめくり上がり、マントルが露出するケースがある。つまり、地表にいながらにして、地下深くのマントルの岩石「カンラン石」を得られるわけだ。

いわゆる「天然ダイヤモンド」は、地下150Kmの高圧下で形成された高密度の炭素の結晶が、マグマで地表に運ばれたものである。鉛筆の芯に使われる「黒鉛」も同じ炭素の同素体だが、こちらは炭素原子が層状の配列になっているので、紙の繊維で安易に剥がれる。しかし、黒鉛に5万~10万気圧をかけると、炭素原子の配列が三次元等方的に「相転移」を起こし、ダイヤモンドに変化する。実際に「人工ダイヤモンド」は、この手法で作られている。

本書の著者・廣瀬敬氏は1968年生まれ。東京大学理学部卒業後、同大学大学院理学系研究科修了。東京工業大学助手・助教授、カーネギー地球物理学研究所客員研究員などを経て、現在は東京工業大学教授・東京大学教授。専門は高圧地球科学・地球深部物質学。著書に『できたての地球』(岩波科学ライブラリー)や『地球を掘りすすむと何があるか』(KAWADE夢新書)がある。

さて、「地球の中心に相当する超高圧・超高温の実験ができるのは、世界中でわれわれのグループだけです」と本書に記載されているように、廣瀬氏は2010年に実験室で364万気圧を超える超高圧実験に成功したことで知られる。この成果で、地球深部のどんな物質も実験室で合成できるようになった。

本書は、第1部で「地球は何でできているのか」「どんな活動をしているのか」、第2部で「『生命の地球』はどうやってできたか」「どのように進化してきたのか」を明快に解説している。実は、地球の内部を研究することによって、太陽系の他の惑星がどのように形成されたのかが見えてくるのである。

恒星周囲で惑星が形成される標準理論は、1970年代から80年代にかけて京都大学の❘林忠四郎《はやしちゅうしろう》教授のグループが確立した「京都モデル」である。それによると、太陽系が形成された初期段階では、原始惑星同士が衝突と合体を繰り返す「ジャイアント・インパクト」が生じた。その最後の衝突で粉々になった破片が軌道上で結合したのが「月」である。原始地球の表面温度は1万度に達し、地表は「マグマ・オーシャン」と呼ばれるマグマの海に覆われた。

本書で最も驚かされたのは、マグマ・オーシャンこそが生命を生み出したという可能性である。マグマ・オーシャンが固まると、生命に必要不可欠なカリウム(K)・レアアース(REE00)・リン(P)の凝縮した「クリープ(KREEP)岩」が形成される。地球型生命は、クリープ岩が形成され、やがて侵食によって消滅するまでの「期間限定」でなければ誕生しなかったかもしれない!

本書のハイライト

地球型生物とは異なる種類のアミノ酸を利用する生物がいるかもしれません。わたしたち地球型生物は、自然界に約500種類存在するアミノ酸のうち、20種類だけを使っています。別の20種類のアミノ酸を使う生物がいてもいいし、使うアミノ酸の種類が少ない生物や多い生物がいてもいいはずです。そうした生物が火星(やほかの惑星)にいるかもしれません。(p. 306)

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