連載:「新書こそが教養!」【第46回】『宗教と過激思想 』
2020年10月1日より、「note光文社新書」で連載を開始した。その目的は、次のようなものである。
現在、毎月200冊以上の「新書」が発行されているが、玉石混交の「新刊」の中から、何を選べばよいのか? どれがおもしろいのか? どの新書を読めば、しっかりと自分の頭で考えて自力で判断するだけの「教養」が身に付くのか? 厳選に厳選を重ねて紹介していくつもりである。乞うご期待!
20世紀の「悪魔崇拝」
1966年4月30日、魔女が夜宴を開くとされる「ワルプルギスの夜」、カリフォルニア州サンフランシスコで、36歳の宗教家アントン・ラヴェイが「悪魔教会(The Church of Satan)」を創設した。この教会の『悪魔の聖書』には、次の9箇条の「所信表明」が宣言されている(以下、原文から私が意訳した)。
さて、ラヴェイは高校中退後、ミュージシャンとしてサーカスに入団し、猫の調教師やオカルト調査員といった職業を転々とするうちに、人間を原罪者あるいは弱者とみなすキリスト教に強い反感を抱くようになった。彼は、キリスト教義を「奴隷道徳」とみなすニーチェの哲学に共鳴し、自らの欲望を追求する人間性こそが「悪魔」の本質であり、それこそが真実だと説いた。
ラヴェイは、カトリックのミサをパロディ化して、スキンヘッドに角を付け、黒いガウンをまとって「黒ミサ」を行った。壁には「バフォメット」と呼ばれるヤギの頭の悪魔像が描かれ、祭壇には全裸女性の生贄が捧げられた。
ここで興味深いのは、ラヴェイ自身が「どの程度真剣だったか」よくわからない点だ。本書には「金儲けのために作り上げた虚構に自らのめり込んでいった」可能性が指摘されている。それでも彼の思想は、20世紀後半の悪魔崇拝的なブラック・メタルや右翼的なカウンター・カルチャーに影響を与えた。
本書の著者・藤原聖子氏は、1963年生まれ。東京大学文学部卒業後、シカゴ大学大学院宗教学研究科修了。大正大学助教授、東京大学准教授などを経て、現在は東京大学教授。専門は宗教学・比較宗教学。著書に『現代アメリカ宗教地図』(平凡社新書)、『教科書のなかの宗教』(岩波新書)などがある。
本書で最も驚かされたのは、「宗教的過激思想」の根底に「社会的公正」のジレンマがあるという藤原氏の鋭い考察である。人間は社会で多くの選択を迫られるが、その際に「あれかこれか」の一方だけを理想とみなして徹底追求するのが「宗教的過激思想」であり、だからこそ共感者も生まれるわけだ。
ローマ教会の贅沢な聖職者を批判して極端な禁欲主義を貫いたカタリ派、「白人は悪魔」と説いたネイション・オブ・イスラム、中国政府の弾圧に抗議して焼身するチベット仏教僧……。日本では、昭和初期に腐敗した政治を破壊しようと「一人一殺」を掲げて血盟団事件を起こした井上日召……。本書の綿密な分析を読み進めるうちに、過激思想の本質が浮かび上がってくる!
本書のハイライト
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