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「フィンランド式の対話」を学校現場で活用してみての感想。

私が、今年のスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの活動の中で、「フィンランド式の対話」を、どのように活用したのか振り返ってみたいと思います!

フィンランド式対話の「リフレクティング」や「早期ダイアローグ」&「未来語りのダイアローグ」、「オープンダイアローグ」を参考にして、学校現場の状況に合わせて活用したことを共有できればと思います。

具体的な事例については秘密保持義務がありますので控えております。

私見としましては、色々な形でストレス反応(漠然とした不安やイライラ、各種身体症状や精神症状等)が起こっている児童生徒の方に対しては、教育的、指導的なアプローチ(適正なコントロール性)がうまく機能しない状況があると感じます。何かストレス反応がある状態の方には、良かれと思ってしたコントロール(誘導、評価、アドバイス、励まし等々)も裏目に出てしまい、さらなるストレスを与えていたり、否定や攻撃として受け止められやすいと感じています。
そういった状況においては、心身の安心を感じられる支援的なアプローチが必要になってくると思います。特に同じコミュニティ(家族、学校、その他組織)内の関係性へのアプローチ、関係性の安心を回復する際には、フィンランド式対話の有効性を感じています。


《フィンランドの対話性とは》

私がフィンランドの対話性でポイントだと思っていることをまとめてみました。

・対等な立場で話をする
社会的な肩書はいったん脇に置き、下の名前で呼び合うなどして話し合う。どちらかが一方的に話すのではなく、平等な立場や平等な時間で参加者が声を出せるようにする。お互いに脅威を感じない、安心できる状況をつくる。

・関係性にアプローチする
一対一で話すのではなく、なるべく心配ごとのある人とそのコミュニティ(家庭、学校、その他組織)の関係者が一緒に話し合えるようにし、関係性を安心(ありのままでいられる状態)に変えていく。

・聴くことと話すことを分ける
話し手が安心して話せるスペースを作る。聴き手がただただ聴いていく中で心が動いたことを感じ易くするスペースを作る。

・言葉のパワーを自覚し、極力コントロール性のある言葉を発しない
価値観や規範の押し付けや、一方的な評価、べきなどは控える、Iメッセージ、感じたことを伝える、提案などの言い方を心掛ける。

・「リフレクティング」を使って、言葉をお盆に載せるように話す。
直接言葉を相手に投げかけず、聴き手同士が感じたことを話して、それを聞いてもらうようにすることで、その言葉を受け入れるかどうかのスペースを作る。

・第三者に向かって話をする
当事者同士、利害関係者同士だけで直接話すことは避けて、第三者のファシリテーターに向かって話をするようにする。

・透明性
極力本人のいないところで、事前に話し合ったり、事後に話し合ったりしない。本人がいないところで何かを決めない。本人がいないところで話されたことは本人に共有して透明性を担保する。

・自分の心配ごととして問題を捉えて、それぞれが問題の当事者として参加する。
 問題は関係性の中で起こっているので、自責‐他責や加害者‐被害者、当事者‐支援者という構図で考えるのではなく、問題が起こったコミュニティに所属している当事者としてみんなが対話に参加する。※ファシリテーターは除く。

・話さない自由、沈黙する自由、立ち去る自由のある場を保障する。

などでしょうか、あくまでも私の今の視点からまとめてみたものです。


《学校現場での「リフレクティング」の活用》

不登校、自傷行為、依存症、虐待などの状態にあったり、不安やイライラなどのストレス反応が起きやすい状況にある児童生徒の方の声を聴く時に、学校の先生と「リフレクティング」を使って話を聴くことを色々な場面でしました。

ここでの「リフレクティング」は、児童生徒の方の話を2名で聴いて、感じたことなどを2名の聴き手が向き合って話すのを眺めてもらう形で対話を進めていくことを指しております。聴き手は、専門職(SC,SSW等)や学校の先生、保護者の方などチーム学校のメンバーを想定しております。

「リフレクティング」を活用すると、直接言葉を投げかけて傷つけてしまうリスクが軽減したり、直接本人に質問して問い詰めてしまうことを回避できると思います。また、本人にとっては、直接言葉が自分に向かってこないので、少し余裕をもって自分に関する会話を眺めることができると思います。

中々本人が話したくない場面では、聴くだけでいいのでその場に居てくれないかと頼み、学校の先生(又は保護者の方)と一緒に、心配していることや聞いてみたいことをリフレクティング形式で話す中で、徐々に本人が発言をしてくれるようになったこともありました。

事前に先生と打ち合わせて、「リフレクティング」の仕方を説明して実施する場合もあれば、その場で、「ここまで聞いた話に関して〇〇先生と向かい合って話してみたいのですが、聞いていていただいてよろしいですか?」と了承を得て始めてしまう場合もあります。

児童生徒の方とその保護者の方と私の3人で話す時に活用したこともあり、その際も前半は保護者の方と私で、心配していることを本人の目の前で話してそれを眺めてもらい、後半になると徐々に本人が語り始めるということが何度かありました。

それから、生徒と副担の先生(生徒と一番仲が良い)、私と担任の先生でペアになり、リフレクティングを繰り返しながら話すという形をとったこともあります。

また、不登校支援において、リフレクティングの体験を先生にして頂き、学校の先生と保護者の方で家庭訪問の際にリフレクティングを用いて本人との対話的な場を持ってくれたということもありました。

注意点としては、ついつい直接本人に問いただしてしまうことは避けて、リフレクティングの時に発言することを意識したり、可能であれば下の名前で呼びあうという形でできればと思います(特に家族内にて)。


《学校での「早期ダイアローグ」と「未来語りのダイアローグ」の活用》

「早期ダイアローグ」は、ここでは主に学校の先生が児童生徒の支援上で困っていることがあり、その心配を軽減する話し合いがしたいと、保護者や児童生徒に対話の場を持ちかける際に活用しています。

特に、学校側としては困っているが、児童生徒の方や保護者の方には困り感がない場合や、困っている観点にズレがある場合に活用できると思っています。

あくまでも、学校の先生が支援上どうしていいか困っている当事者であって、学校の視点からの困りごとを解消するのに、児童生徒の方や保護者の方が協力者として意見を出してもらうという形になります。

その中で、学校の視点とは違う視点を児童生徒や保護者の方から発言してもらい、それを踏まえた上で、学校でできること、家庭でできること、学校と家庭で連携できることが有機的に生まれてくるといいなと思います。

この際も注意点としては、お互いの視点から一方的に助言をしたり、評価をしてしまわないように、ファシリテーターがグランドルールを設定したり、直接言葉のやり取りが起こらないように調整できるといいと思います。

そして、やはり「早期ダイアローグ」の次に「未来語りのダイアローグ」をセットで活用できるといいなと思います。
「未来語りのダイアローグ」は、その状況が改善され、不安が軽減された未来をイメージし、その未来の様子をお互いに共有したり、その未来を実現するために、お互いに何をしたか、どんな協力をしたかを話し合います。

まず、学校の先生がこの話し合いの場を持つに至った経緯や、自分の心配している視点を共有し、そのうえで、その心配ごとが改善した状態を、児童生徒や保護者、学校の先生の視点から想像し、その視点による理想のイメージの違いも尊重しながら、それぞれができることや、家庭内で協力できること、学校と家庭で連携できることが話し合えるといいと思います。

ポイントしては、「未来語りのダイアローグ」はコーチングのミラクルクエスチョンと似ている所があるのですが、理想の未来の状況は、何か目標を達成できた未来というよりは、心配ごとが軽減し、お互いに安心を感じられるコミュニティの未来というイメージだと思います。

実際に「早期ダイアローグ」から「未来語りのダイアローグ」への流れで話し合いをしたことが何度かあります。事前に学校の先生と打ち合わせをして、参加して欲しい児童生徒や保護者を協力者として話し合いの場に招待する伝え方を意識してもらい、およそ「未来語りのダイアローグ」で使われる質問を順番にしていくという形で実施します。
不登校の際の話し合いや、発達障害の支援の方向性を検討する際に活用しました。

~特に「未来語りダイアローグ」と言わずに、簡易的にやる場合の例~
Q: 〇〇月(年)後の状況のよくなっている未来から、話をしてみたいと思ったのですが、いつ頃の未来から考えてみるのがいいでしょうか?

Q:あれから、〇〇月(年)が経ち、〇〇先生の不安も軽減されて、皆さんの状況がよくなっているとすると、どんな状況でしょうか?また、どんな気分になっていると思いますか?

Q:このうまくいっている状況になるには、どんなことをされたと思いますか?また、周りの方とどんな協力があったと思われますか?

Q:改めて、今後協力して取り組めそうなことはどんなことでしょうか?

等々
※実際の「未来語りのダイアローグ」はしっかり未来に行った形で、2名のファシリテーターが話を進めて行きますが、時間に限りがある場合や、その場の流れでやってみようとなった場合は、簡易的にやれるといいのではないかと思います。


《学校でのオープンダイアローグの活用》

オープンダイアローグの活用としては、いくつかの形式で実践したことがあります。
※もちろんすべて部分活用的に行っており、依頼があってから24時間以内に実施するなどは難しい状況です。オープンダイアローグの「7つの原則」や「対話実践の12の基本要素」はこちらのページをご参照下さい。


①    比較的第三者的な立場で関われる先生(学年主任、管理職の先生など)と専門職(SSW、SC)がファシリテーター役を務め、児童生徒や保護者、関係する先生(担任、副担任、養護教諭等)などと対話を継続的に実施する。

一緒にファシリテーターをしてもらう先生には、事前に対話の形式や言い方の説明を行います。

②    専門職(SSW、SC)と外部の医療関係者がファシリテーター役を務め、関係者を集めて対話を継続的に行う。

 こちらを実施する場合は、学校長の許可と参加する医療関係者への支払いの予算確保が必要となりますが、これをクリアできれば実施できます。ただ、学校で継続して予算を確保して行うのは難しいと思います。医療機関に繋げることを前提に、初回は学校が主催してオープンダイアローグに準じた話し合いの場を持ち、その後参加した医療機関に繋げて、ケース会議やカウンセリングの場をオープンダイアローグ形式にするというのが可能かと思います。

③    オープンダイアローグのロールプレイを実際に学校が抱えている事例で行い、学校関係者で対話的な場を実践してもらう。

関係する教員に集まって頂き、校内研修という形でグループワーク(ロールプレイ)を実施し、それを元に学校内の人材資源で実施するか、またはSSW、SCと連携してオープンダイアローグ形式の対話を実施することが可能だと思います。
事例としては、ロールプレイを学年の教員で実施し、それをベースに教員の皆さんで対話の場を色々な問題が起こった状況下で活用して頂いたことがあります。

工夫すれば、既存の会議(ケース会議等)も「オープンダイアローグ」のような、ファシリテーターが2名体制で、本人や保護者への透明性も担保した形で、実施することもできるかもしれません。


《さらに部分活用》

・ファシリテーターは1名で実施し、関係者が集まって、聴くことと話すことを分けながら、ファシリテーターに向かって順番に話をする。

これも、学校と生徒や保護者の関係性が難しい状況や、関係する生徒や保護者間での対立により、学校が板挟みの状況になった時など、フィンランドの対話性の部分的な要素を柔軟に活用することで、効果的に状況を改善できたことが何度かありました。

例えば、聴くことと話すことを明確に分ける、ファシリテーターに向かって話す、輪になって話すなどを踏まえて実施するだけでも、一定の心理的安全性を保ちながら、お互いの視点の違いを共有し、今まで双方が抱えていた不安や怒りを軽減することができると思います。

また、参加者の中に第三者的な立場に近い人がいる場合、その人ととはリフレクティング形式でお互いにここまでの話を聴いて感じたことを話す場面も作れると思います。


《自分を整えるのに活用する》

対話のファシリテーターをやる上で大切な姿勢としては、自分の心に余裕があり整っていること、まずはしっかり聴くという姿勢があると思います。
その姿勢を回復したり維持するには、日常的に対話的な場に身を置く必要があると思います。自分の気持ちを定期的に聴いてもらえる場や、対話的なグループワークに定期的に参加できるといいと思います。その際にも、フィンランドの対話は役に立つと思います。
※手前みそではございますが、りすにんぐファームの対話の体験もお薦めです。
マインドフルネスなど深呼吸と対話をうまく組み合わせていくこともできるといいなと思います。



《学校でSSW、SCなどが2名で対話ができる可能性》

同一の学校で、SSWやSCが同時に活動できる可能性としては、例えば、常駐型のSSWが複数いて、2名で動くことができる場合、マンモス学校や私立の学校で、SCが2名常駐している場合、定期的に来るSCと派遣型のSSWが連携する場合など色々と可能性はあるのではないかと思います。既存の制度的な枠組みをうまく使って専門職が2名でファシリテーターをできるといいなと思います。
それには、前提として、地域での「オープンダイアローグ」の考え方の普及や学べる場が必要になってくると思います。また、行政関係者の方の理解も大切になってくると思います。


《参考文献》

「オープンダイアローグ」ヤーコ・セイックラ、トム・アーンキル 日本評論社 2016年

オープンダイアローグにおける対話実践の基本要素-よき実践のための基準-」Mary Olson 博士(マサチューセッツ・メディカルスクール大学、アメリカ) Jaako Seikkula 博士(ユヴァスキュラ大学、フィンランド) Douglas Ziedonis 医学士 公衆衛生学修士(マサチューセッツ・メディカルスクール大学)ホームページ

オープンダイアローグ 対話実践のガイドライン」 オープンダイアローグ・ネットワーク・ジャパン ホームページ

「精神療法 特集オープンダイアローグ」 金剛出版 2017年

「あなたの心配ごとを話しましょう」トム・エーリク・アーンキル、エサ・エーリクソン(著)高橋睦子(訳) 日本評 論社 2018年

「開かれた対話と未来」ヤーコ・セイックラ、トム・アーンキル 監訳:斎藤環 医学書院 2019年

オープンダイアローグ 私たちはこうしている」森川すいめい 2021年 医学書院




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