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エッセイ

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日々考えたことやエッセイ、読んだ本のことや何気ない景色のこと。
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2019年5月の記事一覧

花冷え

花冷え

インターンの帰り、花冷えのする午後10時の矢場公園のあたりは人気もまばらで、少し早足で通り過ぎる。閉店後のセレクトショップのマネキンの気配にはっと顔をあげたとき、大通りの方から二十歳そこそこの女の子が自転車に乗ってこちらに走ってくるのに気がついた。

そのまま歩を進めると、閉店後も明るいファストファッションのお店のあたりで自転車の女の子とすれ違った。まだ夜は冷え込むというのに薄着で、煙草をくわえな

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「ふつう」よりも行きたいところへ

「ふつう」よりも行きたいところへ

「ふつう」という虚像

社会人1年目というと、2012年だからもう7年前になる。地元の私大文系に進学し、リーマンショックや震災の余波をくぐり抜け、それなりに就活をしていくつかの内定を貰った。

地元の営業事務の正社員に決まり、大学を出たら就職して結婚、というルートの第一関門を突破したことにホッとした。学生の頃のわたしはなぜだか就職し、数年後に家庭を作るという人生を「ふつう」だと思い込んでいた。そし

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クロノスはどこにもいない

クロノスはどこにもいない

結婚前、実家では父方の祖母と同居していた。祖母は95歳を超えてなお、おしゃべりが好きで、食べることも同じくらい好きだった。70代の半ばから進行した緑内障のために目はほとんど見えていなかったけれど、耳がよいからいつでもわたしを見分けることができた。

祖母は8年ほど前に亡くなった祖父と66年も添い遂げた。まだ四半世紀しか生きていないわたしにとって、もし自分が90歳よりも長く生きるとしたらずいぶん遠い

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夏の風物詩

夏の風物詩

先日、CMで稲川淳二さんを見かけたとき、夫が「夏だねえ」と言った。わたしもそう思う。夏の風物詩と言えばいろいろ思い起こされるが、著名な人だと稲川淳二、TUBEあたりを思い浮かべる人は多いのではないだろうか。

わたしは怖い話の類はけっこう好きなほうだ。そのくせ、おばけ屋敷は怖いので絶対に入らない。おばけや幽霊が怖いのではなく、突然大きな音がしたり、人が脅かしてくるのが苦手なのだ。

わたしには霊感

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