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「能面の神髄、わかりました!!」と思ったら、師匠から驚愕の一言。

これは能面をはじめて3年目ころのお話。
能面にすっかりのめり込んだ私は、せっせと足を運んで師匠の教えを乞うていました。

教わり方としては、最初にやり方を1から10まで教えてくれるわけではなく、その都度教わりながらやっていきます。

というのも、教室では、人によって作っている能面の種類も様々、その時やっている工程も様々、その人の経験値やスキルも様々、わからなかったり失敗する箇所も様々

ということで、講座のようなものでまず手順を教わって、「はい、やってみましょう」ではなく、その時その時でやりながら教わっていく実践形式です。


「先生、ここのところが上手くいかないんですけど・・・」

「あぁ、エッジがたっとる。なでなでしてな」

エッジがたっている、というのは、角ばってるということ。
なでなでしてというのは、彫刻刀でなでるように優しいタッチでその角をとって、ということです。


「先生、ここまでできたので、見てください!」

「ふむ。ココ、指でなぞってみて」

言われた通り、能面のほっぺからあごへ指をすべらす。

「あ」

「な?」

指がわずかばかりの凸凹やズレを感じ取る。

「すなおに、すなおに」

「わかりました!」
ほほからあごへのラインがすーっとすべらかになるように修正する。


「先生、ここが・・・」
「なでなでして」

「先生、どうでしょう?」
「すなおに、すなおに」



そうか! そういうことか!
師匠に教わり早三年。能面の神髄、掴んだり!



「先生! 私、わかりました!!」

「へ?」

「能面の神髄は、なでなですなおにすなおに、ですね!!」

「は? ・・・なにソレ?


えっっっ!?

「あの、この三年、私、先生からほぼこの二つしか言われてないんですけど・・・」

「え・・・、ワタシ、そんなこと言うた・・・?」


まさかの言ってることすら自覚無しでございます。
私のこの「わかったーーー!!!」感はなんだったのか・・・?


そして、ふと見ると、師匠も呆然としてらっしゃる・・・。

「ヒドイな・・・」

ご自分の指導にショックを受けてしまわれた!!


イヤ、でも、わたし、その指導でちゃんと上手くなってますし!!

能面打ちは十人十色。なので、師匠はその人その人に合わせた異なるやり方、異なる言い方で教えてます。その人の経験値や、場合によっては性格に合わせて。指導者としても二十数年、もはや意識せずとも相手に合わせた言葉が自然に口から出るのでしょう。

だから、私には、
「なでなでして、すなおにすなおにつくってあげれば、いい面になるよ」
って。


補足説明するならば、

なでなでは、皮膚表面の話。肌の表面をなめらかになめらかにするのです。

すなおにすなおには、骨格の話。能面は顔なので、皮膚の下の骨格を念頭に入れて彫りましょうね。でないと、デッサンの狂ったものになってしまう。

っていうことなのです。


女面のつるりとなめらかで、すべやかで、たおやかな美しさはこうしてつくられているのです。


でも私は呪文のように唱えながら彫刻刀をすべらせる。

なでなで、なでなで。
すなおに、すなおに。






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