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檸檬読書日記 三島由紀夫に再び落ちる。 7月10日-7月16日

7月10日(月)

三島由紀夫『命売ります』を読み始める。

生きている意味を見いだせない男・羽仁男は、それならこの命売ってしまおうと「命売ります」という広告を出す。
すると客が次々現れて…。

三島由紀夫、ようやく2冊目の本!

落ちた新聞の上で、ゴキブリがじっとしている。そして彼が手をのばすと同時に、そのつやつやしたマホガニー色の虫が、すごい勢いで逃げ出して、新聞の、活字の間に紛れ込んでしまったのだ。
彼はそれでもようよう新聞を拾い上げ(略)、拾ったページへ目をおとした。すると読もうとする活字がみんなゴキブリになってしまう。読もうとすると、その活字が、いやにテラテラした赤黒い背中を見せて逃げてしまう。

「君は自動販売機みたいな妙な男だ」
「そうですよ。コインを放り込めば、それでいいんです。機械は命がけで働きますよ」
「人間、そこまでロボットになれるものかな」
「まあ、悟りですね」

相変わらずの文章に惚れ惚れする。今回はその中にぴりっとした皮肉さも混じっているのが、なんとも言えない癖となって引き込んでくる。堪らないな。もう落ちる予感しかしない。



7月11日(火)

トウモロコシに、たまに芋虫みたいなのがいたりするけど、剥いた時に急にこんにちはされるとびっくりする。
畑やってても、未だにむにむに系の虫は少し苦手だ…。

この前も本を読んでいたら、目の端に緑色の茎みたいなのが見えて、ゴミが落ちたのかなと思っていたら急にむにっと動いて「どわっ!」と変な声が出た。
その声があまりに大きかったのか「何!?」と大声で言われ「芋虫がいた!」と大声で返したら「そんなことで叫ぶな!心臓止まるかと思った!」と怒られてしまった…。すみません…。
でも、気にせずむにむにと動いていた芋虫は、回収してくれた。有難い。

それにしても、何故こんなにもむにむに系の虫が苦手なんだろうか。昔から駄目なんだよなあ。
んー、ミミズとかは平気なんだけどなあ。
腰を(あれは腰なのか?)むにょっむにょっと上げる感じがなあ、もうぞわぞわする。後、色もなあ。独特な…あのやたら綺麗な白とか黄緑なのが…ぞわぞわ。ぽちぽちした模様があるのは余計に…ぞわぞわです。(芋虫好きの人、ごめんなさい)
でも畑やってるから、どうにか克服したいなあ。


たなかのか『すみっこの空さん』(全8巻)を読み終わる。

可愛らしい絵に反して、なかなかに勉強になる本だった。
哲学のことが学べ、名言に絡んだ物語展開になっているから、深く意味が理解出来て分かりやすい。
小学生の子どもと亀の疑問からくる学びは、どれも純粋で余計に考えさせられた。
学びもそうだが、それ以上に癒される。空さんの純粋無垢さが沁みる作品だった。

哲学は考えることはやはり楽しい。これからも「哲学」を考えたい、そう思わされる本だった。


たなかのかさんといえば『タビと道づれ』(全6巻)もいいんだよなあ。
少女・タビはかつて住んでいた街に来たら、その街は一日を繰り返していた。繰り返しの中で繰り返すことを知っている人物は少数で、繰り返す中でタビは想い人を探す。
という話だった気がする。読んだのが昔でうる覚え。
すみっこよりも少しシリアスで切ないけれど、最後は読んで良かったと思わせてくれる話だった。どちらとも良い漫画。


自分が紹介した本を読んでもらえて、舞い上がっている。その上良かったと言ってもらえて、自分が出版した訳ではないのに、我が子を褒められたようで凄く嬉しい。
もっと本と人を繋げられるように頑張ろう。



7月12日(水)

今日は家に人が来てバタバタ。
本当は少し遠出するつもりだったが、自分の具合が優れず、近場にしてもらった。
車で数十分の場所だけれど、あまり行けないところだから楽しかった。
本屋も広くて、欲しかったものがほとんど揃っていて、はしゃいでしまった。
前から欲しかった西川清史『文豪と印影』と『MONKEY』という雑誌のvol.18「猿の旅行記」も頂き、もう幸せな1日でした。


先週も食べたけど、気に入ってまた食べてしまった。クスクスにラタトゥイユにラム肉。この組み合わせ、やはり良いな。



7月13日(木)

三島由紀夫『命売ります』を読み終わる。

突然、羽仁男は一人で笑い出した。
こんなにクヨクヨするのは、すでに自分が不安に苛まれているからに他ならない。(略)
考えてみると、生きることがすなわち不安だという感覚を、ずいぶん久しい間、彼は忘れていた気がする。

きっと生きている間は、不安はつきものなのかもしれないなあ。でも不安があるから、生きるということなのだろうか。ふむふむ。

主人公が自分の命の価値が分からなくなり、投げやり状態で話が進んでいる時は、この物語はどうなっていくのだろうかと思った。けれど最後は、なんだか少し切なくなった。最初とは打って変わって、最後は考えさせられるものだった。
これは教訓なのだろうか、命を蔑ろにした者への。
でも、型に当てはまらない人間が弾け出されるのは、今も昔も変わらないのだろうなあ。

最初はどうなってくのかワクワクし、中盤は謎や事件が絡み合ってドキドキし、最後はハラハラするという、なんともエンターテインメント性の高い作品だった。

『三島由紀夫レター教室』から2作目『命売ります』を読んで、やはり三島由紀夫の文章が好きだなあと改めて思った。
違う作品も読みたい。次は何にしようか。


川口晴美『小さな詩の本』を読み始める。
「愛」「生」「嘆」「愉」「歌」の5つをテーマに、あらゆる詩人の詩が収められた詩集。

二人が睦まじくいるためには
愚かでいるほうがいい
(略)
完璧さをめざさないほうがいい
完璧なんて不自然なことだと
うそぶいているほうがいい
(略)
正しいことを言うときは
相手を傷つけやすいものだと
気付いているほうがいい
(略)
健康で 風に吹かれながら
生きていることのなつかしさに
ふと 胸が熱くなる
そんな日があってもいい
そして
なぜ胸が熱くなるのか
黙っていても
二人にはわかるのであってほしい

吉野弘「祝婚歌」

この詩のように、誰かとこうあれたらいいのにと思った。祝婚とあるから、結婚した男女に向けて歌っているのだろうが、夫婦や恋人だけでない、人と付き合う上で大切な在り方なのではないかという気がした。


恋愛が手術であらうとは
おもひもかけないことだった。
すっ裸で、僕は
手術台の上に横たはる。

(略)
恋愛が熱い熱いなどとは
なんたるたはごとか。

(略)

レントゲン写真には
恋人の姿がうつすりでてゐた。
ガラス板にのつてるのは
盲腸に似た血のかたまり。

不幸にも、僕にとつては
恋愛とは一つの腫瘤なのだ。
それを剔出(てきしゅつ)しなければ
僕のからだは保てないのだ。

覆面の看護師たちが
僕の血でたぷたぷゆれる
重たそうなバケツを掲げて
廊下を、どこかへ捨てにゆく。

金子光晴「悲歌」

凄い詩だな。
「愛」がテーマであり、恋愛の詩であるのに甘さはなく、寧ろ苦痛でそして手術と表現しているのが、面白い。その上タイトルが悲しい歌。痺れるな。
でも確かに、恋愛というものは甘いだけではないよなあ。想いが通じ合ったとて、不安はあり、寧ろ結ばれたからこそのもどかしさがあるのかもしれない。(とか、恋も知らないくせに知ったようなことを言ってみる)

金子光晴という方をこの本で初めて知ったけれど、この1作でかなり虜になってしまった。他の作品も読みたくなったな。気になる。今度探してみよう。



7月14日(金)

救急車が多い。
今の時期だと熱中症もあるだろうけど、その前から異様に多い。
祖父が定期診断の際、医者にもう打たない方がいいと言われたらしい。前はあんなに勧めていたのに。
5、6回している人が、次々に体調を崩しているのだとか。
そういうことを、もっと声を上げて言ってくれればいいのに。医者の人が広めてくれたらいいのになあ。



7月15日(土)

『夜をあるく』を読む。絵本。

真夜中に起こされ、家族4人で暗い夜道を歩いていく。
町の中を歩き、森の中を歩き、山を登り、そして…。

この絵本は、ほとんどが紺色の世界に包まれていて、だからこそ光による黄色がよく目立つ。
一緒に暗い夜道を歩いているようで、進むにつれて心が落ち着いてくるような、自分の中が静かになってくるような感じになった。

何より面白いのが、進むにつれて光が減っていくことだ。
町は明るく黄色が多く、だが自然に近づくにつれて減っていき、持っているライトの光だけになる。
けれど空を見上げれば、ぽつぽつとした星の光が増え、動物や月の光も現れ、自然の光が次第に増えてくる。
凄く凝っていて、素敵な絵本だった。
心がざわっとした時、また開いて一緒に散歩したいなと思った。


夜の散歩といえば、
木村いこ『夜さんぽ』
という漫画も、良かった気がする。
作者の木村いこさんが、不安障害になり、その改善のために夜のさんぽを始める、というエッセイ漫画。

不安障害になり自律神経が乱れると、自分たちが日常とする当たり前のことが、いこさんには攻撃的なものに変わるらしい。
特に光。だからこそ夜にさんぽなのだが、それでも町に溢れる光は辛いものがあるのだとか。
いこさんにとっては、朝も夜も不安に溢れていて、体調を崩してしまったりする。
それでも夜という静かな中を散歩することで、夜にしかないものを見つけ、前に進もうとする姿にじんわりとさせられた。

鉛筆で書かれたような優しいタッチの絵も素敵で、何よりも恋人とのやりとりが素敵。べたべたするのではなく、見守るような優しさに溢れているところがまたじんわりくる。

ああ、なんだか自分も夜の散歩をしたくなってしまった。
やってみようかな。少し涼しくなってきたら。



7月16日(日)


どでかキュウリが出来てしまった。
一日ほっておくだけでも大きくなってしまうから、こまめに採っていたつもりが、下の方で隠れて気付かぬうちにこれほどまで成長してしまった。
それでもおそらく2日3日くらいで…。凄い。最早ズッキーニだな。


嵐山光三郎『追悼の達人』を読む。
「夏目漱石」編を読み終わる。

言わずと知れた文豪。言わずと知れた「猫」の人。
やはりと言うべきか、猫が絡んだ追悼が多かった。何より追悼句が多く、500句余りあったとか。流石というべき人気ぶり。

夏目漱石は、自身でも猫の追悼文を書いているらしい。『猫の墓』という題で、猫が衰弱して死に至るまでを書いているらしく、凄く読みたくなった。
調べたら、ちくま文庫の『猫の文学館2』に収録されている模様。買いたい。でも「2」か…「2」買うなら「1」も欲しくなるではないか…。どうしよう。(と言いつつ、おそらく1.2買うだろうな)

もう1つ気になったのが、夏目漱石の葬儀のことを書いた芥川龍之介の『葬儀記』。
気になる。調べたら、角川文庫の『羅生門・鼻・芋粥』に収録されている模様。買いたい。でもこれは古くて売ってなさそうだから、古書で探してみようかな。



毎日のように熱中症のニュースが放送され、毎日のように救急車が忙しなく走っている。
そして毎日暑い日々。
危険な暑さ。
これからも暑い日々が続くと思いますが、どうか皆様、体には充分気をつけてご自愛ください。微力ながら、皆様のご健康を祈っております。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
ではでは。


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