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時の流れに負けないの~読書note-4(2022年7月)~

河原のグランドで本を読むには、暑すぎる季節になってきた。近くに長居できる喫茶店できないかなぁ。

この7月でユーミンがデビュー50周年ということで、7/18にNHK-FMで「今日は一日"ユーミン"三昧」という特番をやっていて、その中でリクエストを募り「心のユーミンソングTOP50」を発表してた。中々のコアなファンが多いユーミンならではの、票がばらけたTOP50だった。マイフェイバリットNo.1の「青いエアメイル」とNo.2の「DANG DANG」はランク外、No.3の「グッド・ラック・アンド・グッドバイ」のみ32位にランクイン。

ところで、「青いエアメイル」に「くせのある文字が せつなすぎて歩けない」というキュンとする歌詞あるが、先日、20数年前に勤めていた某生命保険会社の営業所の当時も在籍していた職員から、「めっちゃ懐かしい字見て笑ったww」とLINEが来た。自分が送った会社の自動車保険の更新の書類の封筒が、担当者の棚に張り付けてあったらしい。そんな癖のある字かなぁ。

くせのある文字!?



1.車谷長吉の人生相談 人生の救い / 車谷長吉(著)

以前、キョンキョンのSpotifyでゲストの曽我部恵一さんが紹介していたのを聴いてすぐ買ったが、そのままにしてたのを、ちょっと5月の事故以来落ち込んでて、何か救いを求めたくなって読んでみた。作家の車谷さんが朝日新聞で連載していた人生相談のコーナーをまとめたもの。新聞連載時から話題沸騰だったらしいが、全然知らなかった。

西村賢太さんの私小説にも通じる、どん底を経験しているからこその諦観の姿勢に、胸を突かれる思いで読み進める。何度も出てくる弟さんの不遇、そしてそれにめげぬ人生観に奮い立たせられる。著者は世間一般の方とちょっと違う感覚の持ち主だと思うが、その回答はそうだよなぁと何とも胸に沁みてくる。

人は物事を「すぐに解決したい」と考えがちだが、「少しずつ」ということが大事だと説く。その一方で、教え子の女子高生を好きになってしまった妻子ある教師には、一度全てを失ってみてはとww。スカッとします。


2.対岸の彼女 / 角田光代(著)

先月読んだ「空中庭園」の文庫本の最後の解説で、作家の石田衣良さんがセットで読むべしと仰ってたので、速攻で買って読んだ第132回直木賞受賞作。ベンチャー企業の女社長・葵とそこで働き始めた専業主婦・小夜子の女性同士の友情と亀裂を描いた物語。小夜子目線で書かれた現在の物語と高校生の頃の葵の目線で書かれた過去の物語が、章ごとに交互に進んでいく面白い構成。

この物語の本筋とは別に、気になる箇所があって。葵の会社の社員達が会社の方針について話している時に、葵がフランク・シナトラの名言「観衆の心をとらえる方法はひとつしかない。それは誠実かつ謙虚な姿勢で観衆に訴えかけること。」を何故引用したのかなぁと。唐突過ぎて。葵がシナトラ好きとかマイウェイ好きとかの説明や後の伏線回収とかも無かったから。それと、葵の高校時代の舞台が、「群馬、渡良瀬川、繊維の街」というキーワードから、我が足利市の隣町の桐生かなと。そうか、タイトルは渡良瀬川の向こう岸から思いついたのかな等々。どうでもいいけど。

まぁ、人は自分に無いものに惹かれる、それが元で、くっついたり離れたりするもんだよね。


3.死神さん 嫌われる刑事 / 大倉崇裕(著)

ドラマ「死神さん2」がHuluで秋に始まるとのことで、その前に原作を読んでおこうかなと。大学時代の山岳同好会の友人である著者の作品の中で、前作の「死神さん」が一番面白かったので、今回も期待大。

いわゆるバディもの(刑事や探偵が二人組で事件を解決していく話)で、無罪判決が出た事件を再捜査する儀藤警部補は、当時その事件を担当した部署の刑事一人を相棒に指名する。警察の失態をほじくり返す訳で、指名された刑事は出世の道を断たれるため、彼は「死神」と呼ばれている。主役は儀藤だが、相棒の視点で物語が書かれているので、話(章)ごとに主役が替わる飽きない構成。

前作は、最初は嫌々再捜査に協力してた相棒が、「逃げ得は許しません!」という儀藤の執念と型破りな捜査に、徐々に心動かされる展開が面白かったが、今回は相棒だけでなく、章のタイトルにもあるように(「死神 対 天使」「死神 対 亡霊」等)、無罪判決の出た事件の「真犯人」との対峙も魅力的に描かれている。これはドラマが楽しみ。


4.カラフル / 森絵都(著)

本屋に行くと、おっ夏休み前だねという感じで、おすすめ文庫本が平積みされていて、「高校生が選んだ読みたい文庫No.1 大人も泣ける青春小説」の帯が目に入り、そういや読んだことなかったなぁと購入。

4月に読んだ東直子さんの「とりつくしま」同様、死後の世界の話。同作は「とりつくしま係」が死んだ人間をモノとしてこの世に戻してくれる話だったが、こちらは「天使」が抽選で死んだ人間の魂をこの世の人間の体に戻してくれる。生前の罪により輪廻のサイクルから外された「ぼく」が、自殺を図った少年「小林真(まこと)」の体を借りて再挑戦(下界での一定期間の修行。上手く行くと輪廻サイクルに戻れる)をする。

自分ではない他人の人生を生きるというのは、どんな気持ちだろう。しかも、途中からだし、いずれは終わるという期間限定だし、体を借りる「真」も冴えない中学生だし。そうするしかない状況だとしても、居心地は悪いに決まっている。でも、少しずつ「ぼく」は「真」に同調していく…

なぜ、この本が高校生が読みたい文庫No.1なんだろうと考えてたが、先日TVで「ドキュメント72時間 歴代ベスト10直前スペシャル」の歴代11位の回「京都 青春の鴨川デルタ」を見た時、少し分かった気がした。いつも夜、鴨川に一人で来て、その滞在時間をスマホに記録してた大学生がいた。「周りを見てどう感じる?」と聞かれた彼が、「他人が他人に合わせるために、自分をがんばって取り繕っているように思う」と答えてた。

それが物凄く「真」に似ているのだ。今の若者は、彼や「真」みたいに生きたいと思っているが、現実的にはそれが出来ない。自分のように50過ぎた身なら、周りなんてどうでもいいと思えるけど、高校生など特に、学校や友達との世界がこの世のすべてだ、と思っているもの。だから憧れるのかもね。


5.「Yuming Tribute Stories」 / 小池真理子、桐野夏生 、江國香織 、綿矢りさ 、柚木麻子、川上弘美(著)

ユーミンのデビュー50周年企画として、「あの日に帰りたい」「DESTINY」「夕涼み」「青春のリグレット」「冬の終り」「春よ、来い」という6つの楽曲が、6人の作家によって新たなストーリーに生まれ変わった、トリビュート小説集。聴かなくなった90年代の「冬の終り」以外(「春よ、来い」は流石に知ってる)、自分でも好きな名曲ばかり。

最初は、あまりにも原曲の世界観と異なる物語に違和感を感じていたが、途中から、いや原曲の世界観と違うからこそ、小説として楽しめるのかと思い直す。昔、ユーミンの楽曲を元にしたドラマが幾つかあったが、何れも曲の世界観を再現しようとして失敗に終わっていた気がする。ユーミンの曲の世界観は、音楽でしか表せないのかもと改めて思う。

綿矢りささんの「青春のリグレット」が一番のお気に入り。「笑って話せるね そのうちにって握手した」という冒頭の歌詞の場面が出てくるが、とても「笑って話せる」ようなことにはならず、「リグレット=後悔」だけでなく「ペイン=苦痛」にまでなる姿を描く。「青いエアメイル」の「選ばなかったから失うのだと」にも通じる。(訳あって妻と離れて暮らす自分を含め!?)なぜ人はこうも、失って初めて失ったものの大きさに気付くのだろうか。

冒頭の元同僚が「オッサンになっても字は変わんないねww」と言ったが、心は月日の流れと共に変わるもの。でも、愛する人に「けれどあなたがずっと好きだわ 時の流れに負けないの」と誠実かつ謙虚な姿勢で訴えかけたい。


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