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隣の芝生は青い、うちのカレーは赤い~読書note-3(2022年6月)~

6月最後の日曜、ようやく新車(中古だけど!?)が納車されたので、桐生天満宮で交通安全のお祓いをしてもらった足で、赤城までドライブ。大沼の畔でチェア出して本を読んでいると、トレッキングで通りかかった老紳士に話しかけられる。

老紳士:「何、読んでいるんですか?」
オイラ: (わっ、普通話しかけるか?こんな所で。困ったなぁ、本の名前なんて言ったら長くなりそうだから、適当にあしらおっ。ちなみにこの時、下の5冊目の「空中庭園」(角田光代)を読んでた。)「小説です。」
老紳士:「良いご趣味をお持ちですね。羨ましい。」
オイラ:「まぁ、こういう所で読むと気持ちいいですから。」
と応えると、老紳士は笑顔で「じゃあ!」と手を挙げ、遊歩道に向かった。

自分からしてみれば、標高1300mでも結構暑い日に、トレッキングしようという気力体力が羨ましいですよと、遠ざかる彼の背中につぶやいた。


1.変愛小説集 / 岸本佐知子(編・訳)

先月紹介したルシア・ベルリン「掃除婦のための手引き書」を訳した岸本佐知子さんがヘンテコな恋愛の11篇を集めた海外小説集。キョンキョンの書評集にこの本の冒頭の「五月」が紹介されていたので、面白そうなタイトルにも引かれ、だいぶ前に買ってあった。

この「五月」は、ご近所さんちの庭に生える「木」を愛してしまった主婦の話。人ではなく「木」を愛するなど狂気の沙汰だし、人間の自分より「木」を愛する妻を見守る夫の気持ちを考えるとせつなすぎる。でも、自分はちょっとその気持ちがわかる。

先日の事故で、愛車アウトランダーが廃車となり、この一ヶ月はむち打ちの首の痛みと共に、愛車を失った悲しみ、喪失感との闘いだったから。愛車とは良く言ったもので、今思うと自分は確かにアウトランダーを愛してた。僅か4年間の付き合いだったが、ぼっちとなったこの2年間は、春夏秋冬いつも寄り添ってくれていたんだよね。休日なのに塞ぎ込んでると、いつも後ろ姿で「ドライブでも行かない?」と誘われてるようで、足利市の家からふらっと赤城や日光や水上に出かけたりしたし。

在りし日のアウトランダー

愛のかたちには色々ある、とは理解しているが、「バービー人形」と付き合う男の子の話は完全にイカレてるし、女性だけしか残らない島の話はシュール過ぎてもう…でも、何とも面白いヘンテコな愛のアンソロジー。海外の作家さんだから、こんなぶっ飛んだ話書けるのかなぁ。あっ、日本作家編も買ってあるけど、怖くてまだ読んでない。


2.すべて真夜中の恋人たち / 川上未映子(著)

こちらも先月紹介した「ヘヴン」に続き、川上未映子さんの作品。精子提供を題材にした「夏物語」、いじめを題材にした「ヘヴン」と人の内面をえぐるような彼女の作品を胸をざわつかせながら読んできたが、これは少し心穏やかに読めた。

人づきあいが苦手な主人公・冬子の唯一の趣味が、誕生日に真夜中を散歩すること。その時の情景と心象の描写がとても美しい。孤独な34歳の彼女が、これまた孤独な58歳の自称・高校教師の三束さんに淡い恋心を抱き始め、少しずつ距離を縮めていくかに見えたが…。まぁ、川上作品は一筋縄ではいかぬよね。読後にじんわりと「もう一度、恋したいなぁ。」と思えてくる作品。

自分も妻と出会わなかったら、この二人のように不器用な恋を続けてたかも。刹那な光のようなものにすがって、孤独な日々を生きて行くのも悪くない。いや、今の自分がそうなのか。


3.100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集 / 福井県立図書館(著・編)

ボランティアをしている小学校の読み聞かせの時間が、昨年から20分から15分に減らされてしまった。それまでは、だいたい10分位の絵本を2冊読んでいたのだが、2冊は読めなくなり、1冊にすると5分位余る。その5分位の隙間を埋めてくれるものをいつも探していた。

そんな時、先月紹介した編集者の今野良介さんの本を紹介するPodcastを聴いて、これだと思って購入。福井県立図書館の司書さんが、実際に尋ねられたお客様の本の覚え違いタイトルを集めたもの。表題の「100万回死んだねこ」や「おい桐島、お前部活やめるのか?」、「トコトコ公太郎」等々かなり笑える。早速、4年生のクラスでこれをクイズ形式で読んだら、めっちゃ盛り上がった。

そんな中、クラスのおちゃらけ担当だと思ってた陽気な男の子が、次々と色々な本のタイトルを言い当てて驚いた。相当な読書量だなと感心した。人は見かけで判断しちゃいかんね。人を間違えて判断しても、訂正してくれる司書さんはいないから。


4.ノースライト / 横山秀夫(著)

一昨年の年末にNHKでドラマ化され、自分はそれを2020年のNo.2ドラマに挙げている。原作を読もうと前々から思っていたので、文庫化されたのを機に購入。いやぁ、面白かった。ストーリーはTVで見て知ってたはずなのに、グイグイ引き込まれた。この10年で読んだミステリーの中でNo.1かもしれない。

主人公の建築士・青野が、自分の設計した家にブルーノ・タウトゆかりの椅子を残し姿を消した、吉野一家の謎を追うミステリー。刑事でも探偵でもない建築士が、殺人事件でもない新潮社曰く「横山ミステリー史上、最も美しい謎」を解明すべく奮闘する。

なぜ吉野一家はタウトの椅子だけ残し失踪したのか、そもそもなぜ吉野夫婦は青野に「あなた自身が住みたい家を建ててください」と依頼してきたのか、事務所の命運のかかったコンペはどうなるのか。謎解きと自分の仕事を同時進行させていく青野が、刑事でも探偵でもない建築士なので、最初は淡々とした感じに映ったが、徐々に人間味溢れてきて、自分が好きな刑事もの・探偵ものと同じ感覚となり、のめり込んでいった。

横山先生本人も述べているが、これは「家」を題材にした「家族」の物語。青野の両親、離婚した青野の妻と娘、失踪した吉野の家族、事務所オーナーの岡嶋の家族、それぞれの物語がこの謎に複雑に絡んできて、ストーリーの豊潤さを醸し出す。

この本を読んで、今離れ離れになっている家族とたまらなく会いたくなった。青野の妻のように、離れていても元パートナーの幸せを心から願う自分でありたい。今度会ったら、この小説の謎の大きな鍵となる桐生川ダムにでも、ドライブに誘ってみるか。


5.空中庭園 / 角田光代(著)

キョンキョンのデビュー40周年の記事か何かで、この主演映画のことを知って、見てみようと思ったけど、まずはその前に原作読もうと思い購入。角田光代さんの作品は、昨年読んだ「八日目の蝉」以来か。

娘に「あなたはあのラブホテルで仕込まれた子」と言えるほど、「何ごともつつみかくさず」がモットーの京橋家。「ダンチ」と呼ばれる郊外のニュータウンに住むこの家族4人(夫婦、娘、息子)、妻の母、夫の愛人の6人の視点で書かれている。

何でもオープンにしていると見せかけて、裏で隠し事をしているのは世の常。家族、特に夫婦なんて隠し事をしなければ、成り立たないと思う。そんなそれぞれの隠し事が、それぞれのターンで語られる。読み進めていくと、その砂上の楼閣が徐々に崩れていく感じと、家族とはそういうもんだと何もなかったかのように、演じ作り上げられた日常が続いていく感じが相まって、胸にモヤっと残る。

ぼっちの身としては、仮面だろうか演技だろうが、家族が一つ屋根の下に揃って生活する日々が、たまらなく愛おしいのよ。そんな想いが宙を彷徨う。

まぁ、隣の芝生は青く見えるが、今宵のカレーは赤かった。友人にお裾分けしてもらったビーツを入れたのさ♪

手作りビーツカレー

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