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亀の歩みだって夢叶う~読書note-2(2022年5月)~

先週の日曜、河川敷のグランドで本を読んでたら、足元をカサカサカサと亀が通り過ぎて行った。一瞬、蛇と見間違うほどの速さだった。我々は亀のポテンシャルを見誤ってないだろうか。

5/20の朝に事故った。18年間何千回と毎朝通る度に、見辛くて(視界悪くて)嫌だなぁと思ってた、幹線道路へ入る手押し信号のある交差点。右から来る車をミラーで見落とし(気付かず)、幹線道路に入ったところ、自車の右前部と相手車の左前部が衝突。1:9、あるいは2:8で自分が悪い。相手の運転手には本当に申し訳なく思っている。相手の方も自分も大怪我にならずに済み、またほかの人を巻き込まなかった(あと10分遅かったら小学生の登校時間だった…)のは不幸中の幸いか。

あと1秒、いや0.5秒早く自分が幹線道路に入ってたら、自車の運転席に直撃だったので、多分死んでたと思う。生かされた命、大切にしようと思った5月だった。生き急ぐことなかれ、亀のようにのんびりいきましょう。


1.ヘヴン / 川上未映子(著)

昨年自分が読んだ本でNo.1に挙げたのが川上未映子さんの「夏物語」。

すっかりファンになった彼女のツイッターをフォローしているのだが、この本が英国の「ブッカー国際賞」にノミネートされたと流れてきたので、早速購入。

生まれつきの斜視のため、同級生の男子から壮絶ないじめを受けている14歳の少年(主人公)と、「わたしたちは仲間です」と彼に手紙を送ってきた、同じクラスで女子からいじめを受けている女の子・コジマとの奇妙な関係を描く物語。

「夏物語」の「精子提供」と言い、今回の「いじめ」と言い、川上さんはいつも「何が善で、何が悪か」を問うてくる。自分は小学校4年の時にいじめを受けた。肥満児だったので名前ではなく、「デブ」「ブタ」「ブー」と呼ばれ、教室に入った途端にクラス全員が「〇・〇・〇・〇(苗字4文字)、デッブ、デッブ♪、オッ、〇・〇・〇・〇、デッブ、デッブ♪、オッ、〇・〇・〇・〇、デッブ、デッブ♪」と歌い出す始末。40年以上たった今でも、あの屈辱感満載のサンバのリズムは耳から離れない。

そんな経験から、いじめというものは、悪いのは絶対的に加害者の方で、「いじめられる方にも問題がある」などとの戯言は、聞く耳持たなかった。でも、この本のいじめグループの一員ながらどこか傍観者的で裏番的な存在の百瀬が、病院でたまたま遭遇した主人公との対峙で放った言葉に、不本意ながら引き込まれてしまった。

もちろん、いじめは加害者側が絶対的に悪い、との根本は揺るがないが、それを判断する価値観の違いはどうやっても埋められないのでは、と非常に現実的な諦めの境地に思考が落ち着いてしまう。こういったモヤモヤを抱えて、人は生きて行くのか。


2.作詞入門 阿久式ヒット・ソングの技法 / 阿久悠(著)

ツイッターをフォローしている文芸編集者の今野良介さんが、この本の紹介をされていて、実はここ2、3年で、一番歌っている鼻歌が阿久悠さん作詞の「時代おくれ」(河島英五)だったので、速攻でポチる。

3年前、志村けんさんが亡くなった時、志村さんを偲ぶ動画がTLにたくさん流れてきて、その中に「この歌が好き」と言って本人が歌うものもあった。つつましさ、謙虚さ、照れ屋、友達思い、そんな志村さんにぴったりの阿久悠さんの歌詞、どこか、あの宮沢賢治の「雨ニモマケズ」にも通じる良い詞だなぁと思っていた。

それとかつては自分も甲子園に憧れた野球少年だったので、スポニチに阿久悠さんが連載していた「甲子園の詩」は何度も読んでいた。それに初めて1番の歌詞をフルで覚えた歌謡曲は、小1か小2の頃の都はるみ「北の宿から」(作詞:阿久悠)だったと思う。なんだかんだ縁を感じる著者だった。

この本は、私もリアルタイムで夢中となったピンクレディーの出現(著者がその躍進に大きく関わる)以前に書かれたもので、当時まだ絶対的な作詞家の大家、という存在ではなかったと思うが、それ故か、こんな俺のもので良かったらと惜しげもなく自身の作詞法を伝授している。

後に述べる広告コピー読本同様、発想が凝り固まらず広げるような訓練の仕方が色々と書かれている。熟語しりとり、制限付きしりとり、連想ゲーム、毎日コラムを書く等のトレーニング方法、「時代の飢餓感をとらえる」「幸福を売る男か演歌師か」等のテーマの選び方等。

これは、歌詞作りだけの話でなく、例えば政治の世界を見ると、今の野党などは「この足りない現実をどうするのだとだれかを責める」“演歌師”のようで、「大勢の人に、楽しいもの、いいもの、すばらしいものを提供する」“幸福を売る男”になるべきなのになぁと思ったり。色々と仕事や日常生活へのヒントが書かれている。


3.広告コピーってこう書くんだ!読本 / 谷山雅計(著)

こちらも、先ほどの編集者の今野さんの本を紹介するPodcastで紹介されていた本。著者は博報堂出身のコピーライターで、東京コピーライターズクラブの代表でもある、広告コピー界の大御所。コピーライターのバイブル的な本だが、今野さんは、コピーライター志望の人だけでなく、以下の理由で一般の人にもと推されている。

「タイトル付け」に悩んでいる人の指針になる
SNSの使い方のアドバイスにもなっている

今野良介note「『広告コピーってこう書くんだ!読本』Podcast原稿」より

本のタイトル付けが仕事の今野さんと違い、自分は仕事でタイトル付けをすることは皆無だが、30代からJC(青年会議所)、PTA、PTA連合会、地域の諸団体、今の読書推進団体、選挙等、様々な社会活動をしてきた中で、企画書などを書いたりプレゼンする時にさんざんタイトル付けをしてきたし、今後もする機会があると思う。とかく私の企画は、内容は面白いがパッと見でそれが相手に伝わらない、と自分でも思っていた。もっと早くこの本と出会ってたら… 先月、中学校でパワポで講義した時も、中学生つまらなそうだったもんなぁ。

なるほどなと思ったのが、「『描写』じゃない、『解決』なんだ」という項。例えば「若者が古本屋をもっと利用するようになるコピーは?」という課題に対し、多くの人が「ガンコそうなオヤジがいて…」「セピア色の本が積んである」「懐かしさがあって…」等の古本屋の現状そのものを説明しようとすると。でも、ほとんどの人が古本屋には古い本があるということを知っていて、それでも利用しない、その「解決」につながることを書かなければならないのだと。そんな「解決」コピーの見本は、ぜひ本書でご確認を。

それと「正論こそサービス精神をもって語ろう。」という項。まさに自分の足りなかった部分。今まで、正論を声高に唱えて、周りに引かれてしまった会議が、何度あったことか。「正論を口にしようとすると、人間はどうしても居丈高(人を威圧するような態度)になってしまいがち。上からの押しつけでは、誰の心も動かすことはできない。正しいからこそ、サービス精神をもって伝える」のだと。自分のように社会貢献活動をしていく人間は、常に気をつけていきたい。

しかし、前述の「作詞入門」といい、一見自分に関係のない分野の本でも、自分事として読むと役に立つもんだなぁ。


4.掃除婦のための手引き書 / ルシア・ベルリン(著) 岸本佐知子(訳)

昨年秋、愛聴しているSpotifyのキョンキョンのポッドキャスト「ホントのコイズミさん」に、訳者の岸本佐知子さんがゲストで来られて以来、彼女の翻訳した本を何冊か買って読んだり、ツイッターをフォローしたりしてた。そして、この本が文庫化されるとTLに流れて来たので購入。前述の川上未映子さんもNHK「あさイチ」の本紹介コーナーで絶賛していた。

まぁ、とにかく心揺さぶられる、とんでもない強烈な私小説(と思われる)短編集。先月も書いたが西村賢太さんの「苦役列車」にも通じるような、著者の波乱万丈過ぎる人生を元に書かれた24の物語。まず、彼女のプロフィールが凄い。幼い頃から父の仕事の関係で北米を転々、成長期はチリで過ごす。3度の結婚・離婚をし、教師、掃除婦、看護助手などをしながら、シングルマザーとして4人の息子を育てる。幼い頃の母親や祖父による虐待、長きにわたるアルコール依存症とその克服。

表題の掃除婦時代、壮絶な幼少期、高等教育を受けていたチリのお嬢様時代、アルコール依存症のどん底時代、それを克服し刑務所で詩や作文を教えていた時代、がんで先に逝ってしまうメキシコに嫁いだ妹に寄り添う時代、とそれぞれの日々が時系列でなく、ばらばらに並ぶ。その世界は、ごく普通に生活している者には中々経験することのないものだが、目の前で見ているかの描写が綴られている。

これも西村賢太さん同様、幼い頃からの圧倒的な読書量による語彙の豊富さから来るものかと。「わたしの騎手(ジョッキー)」という僅か3ページの短編の中に、時間がかかることの例えに、「三ページもかかって女の人の着物を脱がせるミシマの小説みたいだ」とある。そう、雑な言い方すれば、アル中患者が海外(日本)の三島由紀夫の小説を読んでいるということなのだ。しかも、3ページ、三島が着物を脱がす描写量で、彼女は一つの短編を書き上げてしまう。

あとは月並みな言い方すると、「観察眼」が鋭く、「フォーカス(場面を切り取る)力」が素晴らしい。最初の話のインディアンと洗濯物の描写、最後の話で危険でセクシーな男性を表すのに、「リリーフピッチャーのような気配を漂わせていた」とな。とにかく次も読みたくなる作家に、久々に出会ってしまったなぁ。


5.ひとりずもう / さくらももこ

先月5/28(土)、自分が代表を務める「足利うちどく推進委員会」(足利市内の小中学生と保護者に『うちどく[家庭での読書活動等]』を推進)で、今年度からの新事業「ビブリオバトル出張講座」を富田中学校で開催した。

第1回目ということで、まずは「ビブリオバトル」(おすすめの本を持ち寄って発表する書評ゲーム)のルール・目的や読書の意義等を自分がパワポで説明。その後、我々メンバーと先生方で見本、デモンストレーションを行った。そこで発表するため、事前に本書を読み直した。

当初、冒頭で紹介した同じ中学生が題材の「ヘヴン」を発表しようと思ったが、あまりにもヘビー過ぎて引くよなぁと思い、中学生というまさにこれから大空に羽ばたこうとする彼ら・彼女らに、何か将来の夢に向かって一歩踏み出させるような話が良いと思ってこれをチョイス。

ご存じ「ちびまる子ちゃん」の作者である、さくらももこさんが書いたエッセイ。まるちゃんがさくらさんの小学生時代をモデルにした漫画であるのに対し、これはさくらさんの中学生・高校生の青春時代を描いたものだ。

そして、中でも自分が好きな「挑戦」「方向転換」という章は、まさにさくらさんが色々紆余曲折の末、漫画家という将来の夢に向かって踏み出す瞬間を描いている。(自分は地元の小学校の読み聞かせボランティアで、6年生にはいつもこの2つの章を抜粋して読んでいる。)そして、この2つの章を読むと、あの「ちびまる子ちゃん」という独特の漫画がどうして生まれたかを知ることが出来る。

田中泰延(元コピーライター、作家)さんは、著書「読みたいことを、書けばいい」の中で、随筆(エッセイ)を「事象と心象が交わるところに生まれる文章」と定義している。事象と心象が交わる…そう、さくらさんが漫画家という目指すべき道を決断し、踏み出そうとする瞬間の、ある夏の日の風景、情景描写と、さくらさんの胸のうち、心模様をものの見事に、みずみずしいキラキラとした文章で綴っているのだ。

そして、この本(私が持っているのは小学館文庫版)の一番すばらしいところは、「あとがき」であると思う。さくらさんの「夢」に対する考え方が、本文に勝るとも劣らない文章で書かれているんだなぁ。もう、全国の中学校の教科書に、この「あとがき」を載せるべきだよ。

ちなみに、自分の中学生時代の将来の夢は、金八先生に憧れてたので、「中学校の先生」だった。40年近くの時を経て、こうして中学生を前に講義をした一日は、「夢が叶った」と判断してもいいのだろうか。「あれから40年!!」亀の歩みだったなぁ。

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