『広告コピーってこう書くんだ!読本』Podcastの原稿
みなさん、こんにちは。書籍編集者の今野良介です。
この「スキンヘッド編集者が嫉妬した本」では、普段ビジネス書を作っているわたしが、「やられた!」とか、「こんな本を作ってみたい」と思った本をご紹介します。
今回紹介するのは、谷山雅計さんの『広告コピーってこう書くんだ!読本』です。2007年5月、宣伝会議から刊行。235ページ、税込1980円です。
著者の谷山さんは博報堂出身のコピーライター・クリエイティブディレクターで、トヨタや、東京ガス、新潮社、資生堂、日テレ、キリンビバレッジなどの広告に携わり、多くの広告賞を受賞され、現在は東京コピーライターズクラブという団体の会長も務めておられる、第一人者です。
非常に文字の少ない本で、1時間半で読めちゃうんですが、めちゃくちゃ読みやすくて、かつ実用的です。もし、コピーライターを志す人でこの本を知らない人は、私の紹介なんか聞く前に買っていい本です。
もう、「何を今さら」というレベルのロングセラーなんですが、それでも紹介したかったのは、この本をコピーライター志望の人だけに読ませておくのはもったいない、と思うからです。
特に
という2つの点で推していきます。
本に名前をつけることは、編集者の最も大事な仕事のひとつです。でも、タイトル付けの方法論って意外と公開されてなくって、だいたいみんな我流でタイトルを考えています。
でも、よく考えると、本のタイトルって「キャッチコピー」でもあるんですよね。書店なりネットなりで本を知るときに最初に目に入るのはタイトルだし、タイトルを見たほんの2秒くらいで興味を持ってもらえなかったり、自分に関係ありそうだから読んでみよう、と思われなかったら、どんなにいい本でも読んでもらえないシビアさがあります。
それは、編集者でなくても同じはずです。noteとかwebでエッセイやPR記事を書いてる人にとってもタイトルはすごく大事だし、あらゆる商品名とか、企画書の1行目だって、タイトルだと言えますよね。
だから、「タイトルはコピーだ」と考えると、この本の読者が飛躍的に広がると思うんですね。
そこで、本の中にある、コピーを考える時の方法論を2つ紹介します。
コピーを見た人の印象は、
「そりゃそうだ」
「そういえばそうだね」
「そんなのわかんない」
という3つに大きく分かれる、という話があります。
世の中の新しい概念は、常に最初は「そんなのわかんない」のところに現れて、それがあるとき「そういえばそうだね」に移り、やがて「そりゃそうだ」になっていく。
だから、誰でも知っている「そりゃそうだ」でもなく、誰も知らない「そんなのわかんない」でもなく、「知っているのに意識の下に眠っているようなもの」が言葉になっている「そういえばそうだね」と思えるコピーに、人々の納得が生まれるんだと。
翻って、「そう言えばそうだね」と思えるようなタイトルになっていないと、その先にある本や、記事や、商品を味わってもらうことはできないから注意しようね、と読めるんですね。
もう一つ。「コピーは短い方がいい」という話があります。その大きな理由の1つは、「流通するからだ」と書かれています。つまり、人と人の間で話題になって広まるんだから、そりゃ短い方がいいよね、という話です。
わたしがこのPodcastの第4回で、図書館利用者が実際に言った間違いタイトルを90個集めた『100万回死んだねこ』という本を紹介しましたが、あれは、「ちょっと覚えにくいタイトル集」だったとも言えるわけです。
だから、多くの人の目に触れるタイトルは、短くて、かつ「人が呼びたくなるような」ものになっていると理想的だ、と言えると思います。
もう一つ。この本は、総じて、SNSで発信するときのアドバイスにもなっています。広告コピーは、受け手が一人や二人ではなく、数百万人にもなる、いわゆるマスコミュニケーションです。
SNSもマスコミの一種と言えるはずで、例えばTwitterでも、不特定多数の人に読まれる可能性を考えてツイートするか否かは、大事です。
その点、この本の中で、谷山さんがコピーを考えるときに、
「昔の自分が感じた気持ちを忘れないようにしている。」
と書かれています。
谷山さんは、その昔、子どもが大嫌いだったらしいのですが、ご多分に漏れず、自分に子どもができたら可愛く思えるようになった、という例を引いて、「昔の自分の気持ちを覚えておくと、立場が異なる人の気持ちや、一見理解し難い人の気持ちを押し量ろうとする意識につながる」と。それが、不特定多数に読まれるコピーを書くうえで大切なことなんだ、という文脈で紹介されてます。
これ、SNSで、逆のことがよく起きていますよね。
考え方の違う人を攻撃したり、罵ったりする、みたいな。そういう他人を否定しがちな人と話をしたり、誹謗中傷するアカウントのタイムラインを読んでいると、過去の自分を否定していることが非常に多いんですね。
「昔の自分」とか「昔の自分が思っていたこと」を否定しているから、「昔の自分のような他人」を否定してしまう。だから、自分が過去に体験したいろんな気持ちを認めて、自分が言われて嫌だなと思うことは他人に言わないようにする、ということが、SNSでも大事だろうと思います。
この本は、広告業界志望の人はもちろん、日々「タイトル付け」に悩んでいる人や、S N Sの使い方に自信がない人にも読んでほしい本です。
今回は『広告コピーってこう書くんだ!読本』を紹介しました。
今野良介でした。また次回、お会いしましょう。
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