草木針

書いたり書かなかったり、書くと見せかけて書かなかったり、書く素振りだけ見せたりしてます。

草木針

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最近の記事

見たことがないスポーツ

「いよいよだな、草木」 戦いを前にした背中に声をかける。「ああ」と応えるその声は、震えているようにも聞こえた。 「お前なら必ず勝てるさ」 俺は、草木の緊張をほぐすように、ぽんっと肩に手を置いた。 草木が肩越しに振り向く。 「本当なら、この場に立っているのはお前だったはずだ、如月」 草木の言葉に、俺は思わず目を伏せた。 ――このまま続けると命にかかわります。 あの日の医者の言葉が頭をよぎる。 「草木」 「行ってくる」 戦いの舞台へ赴く草木は、一度だけ拳を上げた。 俺は、そん

    • だんだん高くなるドライブ

      ある日のこと、草木針は意中の女性に思い切って声をかけた。 「今度の休日、僕とだんだん高くなるドライブに行きませんか」 「えっ」 「それで、だんだん高くなるショッピングをして、だんだん面白くなる映画を見て、そのあとだんだんおいしくなるレストランで食事をして」 「あの、ちょっと待って」 「それでその、よかったら僕と、だんだん親密になるお付き合いをしてください」 「……ごめんなさい」 「どうしてですか」 「私、だんだん好きになる人がいるんです」 「そんな……。でも、だんだん好きに

      • ダウンロードファーストクラス

        「日本の心を求めて」。今回はダウンロードファーストクラス職人の草木針太郎さんを訪ねた。 「いらっしゃい」 自宅のすぐ近くにある作業場の入り口をくぐると、針太郎さんは仕事の手を止めて笑顔で迎えてくれる。 「きたない作業場ですけど」 少しだけ作業場を見せてもらった。 「今作っているのはこちらです。これは、今度の展示会に出展するものです。あちらにあるのは、一週間寝かせたもの。随分と色合いが違いますでしょう。そちらは父の作品です。今見るとだいぶ古臭い感じがしますね」 針太

        • ヘルプ商店街

          「ヘルプ商店街」は全長500m、様々な商店が所狭しと立ち並び、ここに来れば手に入らないものはないといわれるほどの繁華街である。 最初に紹介するのは、入口のアーチをくぐってすぐ右手にある中華料理店だ。ここは、こだわりの店として知られている。客が注文すると、店主のおやじはまず聞き取り調査から始める。客の好みはもちろん、アレルギー、血液型や家族構成など、微に入り細を穿つまで入念に聞き取りを行う。 それが終わると、店主は素材集めの旅に出る。店主の納得のいく素材が手に入るまで、短く

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          草食系男子に教えられたこと

          ここ、草食系男子養成所では、草食系指導教官のもと、明日の草食系男子を目指す数多くの若者が、日々厳しい訓練に励んでいた。毎年、この養成所からは超一流の草食系男子が輩出され、世界各地で活躍している。 そして今、新たな草食系男子が、ここから巣立とうとしていた。 「この養成所で学んだことを胸に、草食系男子としての誇りを持ってこれからの人生を歩んでほしい」 時に厳しく時に優しく、そして時に遠慮がちに指導してきた教官が、目の前に整列した生徒たちに言葉をかける。 その言葉に真剣に耳を傾

          草食系男子に教えられたこと

          ネコクインテット

          ある美術館に予告状が届いた。 ”今夜9時、名画「お母さんの似顔絵」をいただきにまいります。―ネコクインテット” 「おのれネコクインテット……」 警部はそう呟くと、予告状の入っていた茶封筒をくしゃりと握りつぶした。 「警部! 全員配置につきました!」 草木刑事が報告する。 「うむ。ご苦労だった草木君」 「これで、猫の子一匹通れません」 「油断するな。相手はネコクインテットだ」 「何者なんですか」 「そうか、君は初めてだったな」 警部は、ポケットから煙草を取り出す。 「警部、

          ネコクインテット

          失恋墓地

          閑静な住宅街を抜け、緩やかな坂道を登っていくと、丘の上の開けた場所に出る。眼下に住宅街を一望するその場所にあるのが「失恋墓地」だ。 この墓地には、様々な事情から手放すこととなった、恋人との思い出の品々が眠っている。観光地としても有名なこの場所には、今も全国から多くの人たちが訪れ、自らの気持を供養している。 その墓地を抜けてさらに奥へと進むと、そこにあるのが「借りパク墓地」だ。もういらないけど今更返すわけにもいかないし、かといって捨てたり売ったりするのも気が引けるしな、とい

          失恋墓地

          イケメン月餅

          イケメン月餅の朝は早い。 早朝5時に起床すると、ふんどし一丁の姿で100m離れた井戸まで行き、頭から水をかぶる。いわゆる水行である。これは、夏や冬などの季節、雨や雪などの天気に関わらず、必ず行われる。 水行が終わると、身支度を整え本堂で読経、座禅などを行う。その後、仏様に水や花を供える。 それらが終わると、ようやく朝食となる。朝食が終われば、開門して境内の清掃だ。多くの月餅が、この厳しさに耐え切れずに辞めていくことになる。真のイケメン月餅になれるのは、ほんのわずかだ。 朝

          イケメン月餅

          日本ダイエット

          坂本龍馬は、姉の乙女宛ての手紙を書いていた。 ――この文は極大事の事斗にて 文久3年(1863年)6月、この頃に起こった長州と外国との戦争における幕府の対応について、龍馬は強い憤りを感じていた。 ――然ニ誠になげくべき事ハ 龍馬は、よく姉に手紙を書いては、その中で自らの思いを赤裸々に綴っていた。 ――日本を今一度 しばらく順調に筆を進めていた龍馬の手が、ふと止まった 「今一度、なんだったかな。えーっと、横井小楠先生はいつもなんて言ってたっけ。確か、天下一統人心なん

          日本ダイエット

          タイムスリップコップ

          「登録にない時空の歪みを観測しました。密航者です」 「映像は出せるか」 「捉えました。乗用車型のタイムマシンです。搭乗者は男女二人」 「行先は」 「今から100年前、西暦2022年のようです」 「よし、すぐに時空管理局に連絡してくれ」 「了解しました」 タイムマシンの開発により、かつての海外旅行のように時間旅行を楽しめるようになった。ただし、どの時代へ何の目的で行き、どれくらい滞在するのか、詳細に事前申請をし、厳しい審査を経る必要がある。そのうえで、旅行者はタグを取り付けら

          タイムスリップコップ

          初めての鬼

          今日の主役は、新米鬼の鬼夫君。先輩鬼たちの命令で、遠く離れた人里から金品を強奪してこなければなりません。初めてのお使い、ちゃんとできるかな? 鼻歌交じりで陽気に歩く鬼夫君。ちょっとしたピクニック気分です。おや? 急に立ち止まってしまいましたよ? どうしたんでしょう。 どうやら鬼夫君、金棒を忘れてきたことに気づいたようです。あれがないと、人々を血祭にあげられません。鬼夫君、急に心細くなってきました。さあ困ったぞ。 すると、そこへ釘バットを持ったヤンキーが歩いてきました。鬼

          初めての鬼

          魔法少女フシギ☆ドライバー

          「きゃーっ!」 突如、平和な町に悲鳴が響き渡った! その声は、ホットヨガスタジオの我天圭の耳にも届いた! 「こうしちゃいられない! まだ利用時間は残ってるけど急いで助けにいかなきゃ! 変身! とうっ!」 我天圭は、地球上の酸素を消費し、かつ二酸化炭素を排出することにより、魔法少女フシギ☆ドライバーに変身するのだ! 「あなたは、魔法少女フシギ☆ドライバー!」 「私が来たからにはもう大丈夫。何があったのかおねえさんに話してごらんなさい?」 「実は、ネジをきつく締めすぎてし

          魔法少女フシギ☆ドライバー

          チャリンチャリン太郎

          アーサー王のもとに集いし騎士たちを称して、「円卓の騎士」と呼ぶ。 湖の騎士ランスロット。聖杯の騎士パーシヴァル。アーサー王の息子モードレッド。だがその中に、チャリンチャリン太郎という名の騎士がいたことはあまり知られていない。 チャリンチャリン太郎は、同じ円卓の騎士であるベロンベロンひろしと仲が良かった。ふたりは、よくスッポンポンふみおと3人で朝まで飲み明かした。 休みの日には、皆でヌルペッソムまことの家へ遊びに行った。 またあるときは、ケツバット草木の誘いで圧力鍋空焚のディ

          チャリンチャリン太郎

          ビール傘

          芸能事務所「モチハダプロ」の社長、屋良瀬八覚は、5人組のアイドルグループをデビューさせる新たなプロジェクトを立ち上げた。 「頼んだよ草木君。すべてはマネージャーの君にかかっている」 「はい。必ず成功させてみせます」 「早速だが、近々ビール傘デビューイベントを行おうと思う」 「準備を進めておきます」 「うちの事務所も最近勢いが落ちてきているからな。このビール傘で一発当てたいものだ」 「承知しています。ところで屋良瀬社長」 「なんだね」 「さっきからちょいちょい気になる単語が聞

          ビール傘

          ふりかえるとよみがえる

          熱戦の続く川柳トーナメントもついに決勝戦となりました。対戦するのは、草木針選手と圧力鍋空焚選手です。お題は「ふりかえる」と「よみがえる」。さあ、試合開始です! 先に筆を執ったのは圧力鍋選手だ! 先制攻撃! お巡りさん 何度もこっちを 振り返る 疑われているー! ついさっき職質したばかりなのに立ち去りながら訝し気な表情で何度もこっちを振り返る! これは辛い! さあ、この攻撃はどうだ!? 「ぐわーっ!」 草木選手吹き飛んだ! 服がバラバラに破れる! これは決まったか! 

          ふりかえるとよみがえる

          サラダバス

          シンデレラは窓辺で溜息をついていました。 「私もお城の舞踏会でフィーバーしたいなぁ」 突然、シンデレラの目の前に老婆が現れました。 「お困りのようだねお嬢さん」 「あなたは?」 「あたしは魔法使い。あんたの願いを叶えてあげるよ」 「お金!」 「目の色が変わったね。そうじゃなくて舞踏会に行きたいんじゃないのかい?」 「ああそっち。ええ、でも着ていく服がなくて」 「えいっ」 魔法使いが杖を振ると、シンデレラの服がきれいなドレスに変わりました。 「まあ素敵!」 「お次は乗り物だよ。

          サラダバス