だんだん高くなるドライブ

ある日のこと、草木針は意中の女性に思い切って声をかけた。

「今度の休日、僕とだんだん高くなるドライブに行きませんか」
「えっ」
「それで、だんだん高くなるショッピングをして、だんだん面白くなる映画を見て、そのあとだんだんおいしくなるレストランで食事をして」
「あの、ちょっと待って」
「それでその、よかったら僕と、だんだん親密になるお付き合いをしてください」
「……ごめんなさい」
「どうしてですか」
「私、だんだん好きになる人がいるんです」
「そんな……。でも、だんだん好きになるってことは、今はそれほど好きじゃないってことですよね」
「それを言ったらだんだんおいしくなるレストランだって、最初はおいしくないってことじゃない」
「お願いします! きっと僕にだんだん心魅かれてくはずです!」
「そんな、FIELD OF VIEWの歌みたいなこと言われても」
「お願いします!」
「やめて! だんだん低くなる土下座とかしないで!」
「僕はあなたのことを、だんだん本気になるほど好きなんです!」
「じゃあ今はそれほど本気じゃないってことじゃない! だったらよくない!? 土下座するほど!?」
「お願いします!」
「いい加減にして! 馬鹿じゃないの!? そんな簡単に土下座なんかして! 私あなたみたいな人大嫌い! すぐにここから立ち去って! 二度と私の前に姿を現さないで!」
「だんだん興奮してきました」
「突然なに言いだしたの!?」
「僕をだんだん従順になる下僕にしてください!」
「私が調教する段階から!?」
「せめてだんだん強くなる足で踏んでください!」
「要求がマニアックになってる!」
「このだんだんしなるムチもお願いします」
「なんでそんなもの持ってるの!? もういい加減にしろ!」
「わかりました。そこまで言うなら仕方ありません」
「わかってくれたのね」
「僕と今すぐ入籍してください!」
「なんにもわかってねーな! ええい、そのムチ貸しな! アタイがあんたの性根叩き直してやる!」
「ぎゃひーっ!」

この日以降、だんだん完成形に近づく二人だった。

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