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見たことがないスポーツ

「いよいよだな、草木」
戦いを前にした背中に声をかける。「ああ」と応えるその声は、震えているようにも聞こえた。
「お前なら必ず勝てるさ」
俺は、草木の緊張をほぐすように、ぽんっと肩に手を置いた。
草木が肩越しに振り向く。
「本当なら、この場に立っているのはお前だったはずだ、如月」
草木の言葉に、俺は思わず目を伏せた。

――このまま続けると命にかかわります。

あの日の医者の言葉が頭をよぎる。
「草木」
「行ってくる」
戦いの舞台へ赴く草木は、一度だけ拳を上げた。
俺は、そんな強敵 ともの背中を黙って見送った。

「さあ今年もやってきました。ケツに挟んだピンポン玉を、ケツ圧だけで飛ばしてその飛距離を競うこの競技。現在の世界記録は78m! 今年はどんな記録が飛び出すでしょうか。今、世界各国の選手が、ケツの部分だけ丸く切り取られたユニフォームを着て入場です!」

頼んだぞ、草木。
大歓声を耳にしながら、俺は思わずケツに力が入った。

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