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ヘルプ商店街

「ヘルプ商店街」は全長500m、様々な商店が所狭しと立ち並び、ここに来れば手に入らないものはないといわれるほどの繁華街である。

最初に紹介するのは、入口のアーチをくぐってすぐ右手にある中華料理店だ。ここは、こだわりの店として知られている。客が注文すると、店主のおやじはまず聞き取り調査から始める。客の好みはもちろん、アレルギー、血液型や家族構成など、微に入り細を穿つまで入念に聞き取りを行う。

それが終わると、店主は素材集めの旅に出る。店主の納得のいく素材が手に入るまで、短くて数日、長くて数週間はかかる。この間、客は待たされることになるが心配はいらない。この店の2階は無料の宿泊施設になっており、客は料理が出来上がるまでここで寝泊まりできるようになっている。

ただ、この部屋は外側から鍵がかかるようになっており、窓もないため、一度入ったら料理が出来上がるまで絶対に出ることができない点には注意が必要だ。ゲームや漫画も置いてあり退屈することはないが、用事がある場合は来店する前に済ませておくことをお勧めする。こうして食べる料理の味は、決して忘れられないものとなること請け合いだ。

次に紹介するのは、八百屋だ。この店には、日本ではめったに手に入らないような世界中の野菜が置いてある。中には、本当に野菜なのかと疑うものまであり、思わず買うのをためらうこともある。

店主のおやじは気さくな人柄で、聞けばなんでも答えてくれる。献立を言うだけで、どの野菜を買えばいいか完璧に教えてくれる。さらに、この店はアフターサービスも万全だ。食事時になると、野菜を購入した家庭に現れ、代わりに料理を作ってくれる。鍵をかけていても、その鍵を破って家の中まで入ってくる。どんなに厳重な鍵でもこの店主の前では無意味だ。「やりすぎではないか」という声もあり、実際店主は何度か警察のお世話になっている。最後に、独身男性の家には絶対に現れないことを付記しておく。

次に紹介するのは、レコード店だ。店主のおやじは自身がレコード蒐集家でもあり、古今東西のあらゆる音楽が頭に入っている。曲名を言えば即座にその口からメロディが流れ出し、人間ジュークボックスとも言われている。穏やかでユーモアのある人柄だが、ひとつだけ気を付けなければならない。

この店主は、現代のデジタル音楽を目の敵にしており、客が店内でスマホでも手にしようものなら、鬼の形相で怒鳴りつけてくる。こうなると逃げても無駄だ。店主の投げるレコードは、25m先にあるビール瓶を真っ二つにするほどの威力を誇り、狙った獲物は決して外さない。この技で首筋をぱっくりいかれた客は数知れない。しかし心配はご無用。この店主は、無免許でありながらも凄腕の外科医で、その場ですぐに傷の手当てをしてしまう。高額の治療費を請求されることもないため、おおごとにはなりにくい。

まだまだ魅力的な店はたくさんあるが、残りはぜひご自分の目で確かめてほしい。そのときあなたは、「ヘルプ商店街」の名前の意味を、身をもって知ることになるだろう。

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