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日本ダイエット

坂本龍馬は、姉の乙女宛ての手紙を書いていた。

――この文は極大事の事斗にて

文久3年(1863年)6月、この頃に起こった長州と外国との戦争における幕府の対応について、龍馬は強い憤りを感じていた。

――然ニ誠になげくべき事ハ

龍馬は、よく姉に手紙を書いては、その中で自らの思いを赤裸々に綴っていた。

――日本を今一度

しばらく順調に筆を進めていた龍馬の手が、ふと止まった
「今一度、なんだったかな。えーっと、横井小楠先生はいつもなんて言ってたっけ。確か、天下一統人心なんとか……。うーん、思い出せん。綺麗にするとかなんとかだったと思うが」

――日本を今一度掃除いたし申候事

「何か違うな。えーっと綺麗にするだから」

――日本を今一度洗浄いたし

「いまひとつしっくりこないな」

――日本を今一度洗髪いたし

「まあ、さっぱりはするよね。だったらいっそのこと」

――日本を今一度散髪いたし

「うん。この方がより綺麗になった感じがする。ばっちり決まってる感じが出てる」

――日本を今一度モヒカンにいたし

「世紀末か! いや日本これからだから。ヒャッハーするにはまだ早いから。……なんか面白くなってきた。そうだなぁ、どうせならもっとかっこいい言葉を使ってみよう」

――日本を今一度レボリューションいたし

「かっこいい! スケールがぐんと大きくなった! 気がする!」

――日本を今一度T.M.レボリューションいたし

「来たーっ! めっちゃ風吹いてる! 主に夏を刺激してる! いいよいいよ、そういうこと。よし、調子出てきたぞ。もっとちょうだいこういうの。ワシの能力ちからはまだまだこんなもんじゃないはずぜよ。あ、やっと自分のキャラ思い出した」

――日本を今一度デウス・エクス・マキナいたし

「うおーっ! ビシバシ来てる! 俺の右腕に封印されし古の破壊神の力が目覚めそうだ! いいね~、いいアレができたわ。えーっと……なんだっけこれ。何書こうとしてたんだっけ。テンション上がりすぎて、完全に当初の目的忘れてたわ。やっと思い出したキャラも一瞬で崩壊したし。あー、今の腐りきった幕府を倒して、日本をもう一度やり直そうってことだから……」
そのとき、妻のおりょうが声をかけてきた。
「龍馬さん、夕食の準備ができましたよ」
「おお、もうそんな時間か。それじゃ、続きはまたあとで書こう」

「あれ? おりょうさんそれしか食べないの?」
食卓に着くなり龍馬は言った。おりょうの前には、スムージーがあるだけだった。
「ええ、ちょっと」
「もしかして具合悪い?」
「いえ、そうじゃなくて」
「?」

それからしばらくして、坂本乙女のもとに一通の手紙が届いた。
「あら、弟の龍馬からだわ。なになに、この手紙はとても大事なものなので、決しておしゃべりな人たちに見せたりしないように……ん?」

――日本を今一度ダイエットいたし申候事

「日本をダイエット……」
乙女はそう呟くと、自分のおなかをさすさすとさすった。


※参加させていただきました。


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