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記事一覧
夕闇の本(掌篇小説)
ある人に一冊の本を手わたされた。ページをめくっても、すべて白紙だった。本を目から遠ざけたり近づけたりするように言われ、その通りにした。
次に彼人が本を持ち、開いたページを私に向けた。そして離れるように指示した。私は言われるがままに少しずつ後ずさっていった。すると、突然ピントが合い、ページに文字が現れた。さらに下がると文字は消えたので、戻って見える場所を調整した。だが本との距離があり過ぎたために
壁の都市(短篇小説)
パートナーが寝室の壁に絵を描きはじめた。私が、賃貸なのにそんなことをしたら修繕費を取られると苦言を呈すると、彼人は、わかっている、自分が支払いをするから大丈夫だと言った。
私は在宅仕事のあいまに寝室を覗き、そのたびに絵のなかに小さなビルディングが建っていくのを見た。どういった絵なのか聞くと、街の絵だと教えてくれた。パレットには、ブラックとホワイトとブルーとパープルとイエローが乗っていて、逆に言
手の写真(掌篇小説)
大学構内のカフェテラス(無人販売)で、デジタル一眼レフカメラのディスプレイを確認していると、その人が私の横に立った。
そして「私の手の写真を撮ってくれない?」と言った。私はいささか困惑した。面識のない人に、いきなりそんなふうに要求されたら誰でも不審感をおぼえるに違いない。
その人物は――守基(まもき)さんという他学科の同級生であるのをあとで人づてに知った。たしかに目の前に差し出された彼女の手