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クルートの電話 他1篇(掌篇小説)

「水道水」

 キッチンの水道の蛇口から、海水と一緒に魚介類が流れ出てきた。ハマチやヒラメやアサリや名前も知らない海洋生物たち。それは素敵なことなのかもしれない。いくらでも海の幸をいただけるのだから。しかし、私は真水を使いたいのだ。もしやと思い浴室のシャワーを確認すると、そちらでも海水と魚介類が流れ出て、あっという間に排水溝をふさいでしまった。大きなサバがぴちぴちと跳ねている。

<了>


「クルートの電話」

 私は30分後にかかってくる電話を待っている。そのあいだ落ち着かず何も手につかない。30分後、30分待ったが電話はかかってこない。ただ、また30分後に電話がかかってくるという確信めいた啓示がある。私は今度も30分待つはめになる。そのあいだ落ち着かず何も手につかない。また30分後、30分待っても電話はかかってこない。そして、ふたたびまた30分後に電話がかかってくるという確信めいた啓示がある。私は何度目か覚えていないが30分待つはめになり、落ち着かず何も手につかず、30分待っても電話はかかってこず、次の30分後に電話がかかってくるという確信めいた啓示がある、といったことが永続的に繰り返される。私は苦しみに耐えながら辛抱強くただひたすら30分待ち続ける。今も30分後に電話がかかってくるのを待っている。そのあいだ落ち着かず何も手につかず、30分後、30分待っても電話はかかってこないのだ。そうして、具体的に誰かに邪魔をされたわけでもないのに何十年かが過ぎ去り、もう残りの人生も少なくなって死んでいく。

<了>


2本目のやつはちょっと読みにくいですが、結構好きな感じです。
それではまた。

書籍代にします。