若狭湾に面した町を歩く旅 / 福井県
前回の記事では関西から若狭高浜まで鉄道で行く2つのルートを主に、関東から北陸新幹線を使って行くアクセスも紹介しました。
今回は2週に渡って訪れた若狭高浜を紹介したいと思います。
本当の旅の始まりはここから。
この駅に降りてまず最初に思ったのが、ホームが長い!
ここも昔は編成の長い列車が停車していたんでしょうね。
ホームって時代の流れを象徴してる。
そしてこの跨線橋も、これまたいい味だしてる。
昭和感を醸し出すホームとは打って変わって駅舎は長いホームに負けないぐらい立派で大きい。
こんな若狭高浜駅は海にほど近い場所に位置しています。
駅前にはスーパーもあって便利そうです。
それと、どうしてだか至近距離にドラッグストアがたくさんある(笑)
さらにシックな色したおしゃれな建物があるよ。なんだろう?と、思いきや
駅から始まり30分も経っていないうちから、なかなか魅力のある雰囲気です。いろんな若狭高浜を見つけることができそう。
とりあえず海に向かって歩いていこう。
と、今度はこんなものを発見。
これ、放射線量のモニタポスト。
福井県は日本一原子力発電所が多い県。関西圏では電力の50~60%は福井県の原発から供給されているのです。
ここで福井県について少し触れておきましょう。
原発と言えば正直なところ、あまりいいイメージはないかもしれません。
東日本大震災での福島原発。能登半島地震での志賀原発など、地震大国日本において原子力発電に電力を頼るのは果たしていいことなのか?
能登半島地震では福井県も最大震度5弱を観測した地域もあり、被災された方がおられたと思います。
そんな福井県には15基※の原子炉があります。※廃止措置中の原子炉を含む
しかし地震で被災した地域を目の当たりにするとインフラの重要性を痛いほど感じるのも事実です。
私たちの生活の中に電力とゆうエネルギーなしでは、ただのガラクタに過ぎない物がどれだけあふれているでしょうか。
今、こうしてnote記事を書いているパソコンやスマートフォンだってそうです。
ではそんな電力供給の軸となっている原発が、なぜ福井県にはこんなにもたくさんあるのでしょうか?
福井県は繊維のまちとして栄えてきた県です。しかし日本が高度成長期と共に太平洋ベルト工業地帯が発展していく中、福井県は高度成長から取り残されていきます。過疎化がすすむなか、経済を守り成長させる希望として県は誘致を求めました。調査の結果、地盤が硬いことや様々な条件に見合った土地であると判断され西日本で初めての原発が建設されたのが福井県です。
もっと複雑な背景はあるのだろうと思います。しかし、ここはそこを議論する場ではないので深堀はしません。
日本の制度の中に、“電源三法交付金制度” というものがあります。
簡単に言うと、原発を建設してくれた県には国から補助金がでる制度です。
なんだ、お金か。。。
と思った方もいるでしょう。
だけど、ちょっと待って下さい。
そのお金は決して、そんなぞんざいな言葉で片付けられないものが今まさに私たちの目の前に堂々と素晴らしい形で、日々たくさんの人達を迎え入れてくれています。
それは前回の記事で紹介した『福井駅』です。
北陸新幹線延伸開業で新しくなった福井駅に誕生した恐竜たち。これらの建設にはこの補助金が使われています。
今日も福井駅の恐竜たちは、たくさんの方を楽しませていることでしょう。
私たちはどうしても外側だけを見て判断しがちです。でもこのように、行って良かったなぁ、楽しかったなぁ、また行きたいなと思った場所が、そのおかげで出来ているって場合もあるのです。
福井県は、県の北は嶺北、南は嶺南と呼ばれる地域にわかれています。今回、私が旅した若狭高浜は嶺南地方と呼ばれ、原発はこの嶺南地方を中心に建てられています。
ちなみに、福井県はこの地域の境目で電力会社が変わります。嶺南は関西電力、嶺北は北陸電力の管轄になっています。あと余談ですが富山県は鉄道はJR西日本ですが電信電話はNTT東日本なんですよ。だったら石川県はそれぞれどこが管轄していると思いますか?電力会社は北陸電力、鉄道はJR西日本、電信電話はNTT西日本です。
(福井県はNTT西日本、富山の電力会社は北陸電力です。)
北陸3県と兄弟のように言われていても三者三様。北陸ってやっぱり奥が深いですよね。おもしろい。
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さらに歩いていきましょう。すると立ち並ぶ住宅の中にとても趣きのある建物が見えてきました。
こちらの建物、国の登録有形文化財に指定されてるようです。
まださほど長い距離を歩いていないけど立ち止まって考えたり、眺めて見たくなるものがいくつもありますね。
ちょっと真面目な話しが続いたし、このあたりで甘い物食べたいなぁと思いませんか?ちょうどこの先にあるので行ってみましょう。
ここは若狭高浜に行くと決めたあとに調べていたら見つけた、お餅やさんです。
数種類の和菓子が売られていますが、ここの名物はお店の名前にもなっている源六餅です。
ここのおばちゃんが教えてくれたのですが、この源六餅は昔6代目主人が北海道へ蝦夷の餅の秘法を習うために出向き、高浜の町に持ち帰ってできたお餅なんだそう。
行くって決めた場所にこんな北海道につながるルーツがあったなんて ───
そんなおばちゃんと、ちっちゃい吉本新喜劇が始まります。(笑)
────『いらっしゃい』
穏やかなおばちゃんが出迎えてくれました。近所の方が遊びに来ているようで、楽しくおしゃべりされていました。
「お餅ありますか?」
『うん、あるよ。どれにする?』
源六餅には3種類の味があるようです。
『白と、よもぎと、ピンクがあるけど』
「どれがおすすめですか?」
『白だけど、白はニッキ味、食べれる?』
「わーおばあちゃんごめん。私ニッキ苦手なんです᠁」
『じゃ、よもぎにしとき。今持って来るから』
と、言って店の奥に入っていきました。
私は、よもぎだけを包んで持ってきてくれるのだと待っていたら、
『ここは喫茶設備がないからお茶は出せないけどね。』
お餅をお皿に入れて持ってきてくれたのです。
「え!いいんですか。今、食べれるなんてうれしい。ありがとうございます。いただきます!」
手に取った瞬間から出来たてとわかる、ふんわり柔らかいお餅。中にはあんこが入っています。口に入れると、お餅の柔らかな食感の次にあんこがくるのではなくて、噛むと同時に優しい甘さのあんこが入り込んで、すーっと喉元を通っていきます。
よもぎの味はほんのりする程度。お餅とあんこの邪魔をしない控えめな風味です。
なんて伝えればいいだろう。赤ちゃんのほっぺみたいに柔らかくて、ほどよい弾力のあるお餅なんです。
『仕事?出張かなにかで来たの?』
「いいえ~旅行です。」
『えーこんなとこに?なにもないよ。』
私が行きたいと思って向かった場所では、このセリフをよく聞く。
そんなことない。
こうやってお餅を食べながら地元のおばちゃん達の話しに耳を傾けたり、おしゃべりに混ぜてもらったり。。。
私はこうやって地元の方と何気ない会話をするのが好きだ。
『お昼食べた?もう帰るんかい?』
「ううん。今来たとこ。これから海のほうへ行って、お昼ご飯食べようかなと思って。なんか新しいのがあるでしょ、道の駅みたいなの。」
『あら、ご飯食べる前にお餅食べたんかい』
「いいねん~。朝早かったし、ここのお餅食べたかったし。」
『ほんまーどこから来たん?』
「大阪から普通列車に乗って」
『特急使わんと来たんか』
なんとも心地の良い笑い声が店の中であふれ会話が弾みます。
そして、道の駅みたいなやつ(笑)の話しに。
『あーあれやろ。海のすぐそばにあるやつな。あるある。こないだ私たちも食べに行ってきたよ。あなご、、、そうそう、あなご天丼美味しかったわ。タレがちょうどええ具合でなー』
遊びに来ていたおばちゃんは『お造りがいくつかついているのを食べたな。ブリの造りがあってなーよかった。味噌汁も美味しかったし、おなかいっぱいなるで。』
『え?あんたの味噌汁ついてたんか?私、どんぶりだけやったで。』
『え?そうか?いやーそんなことないやろー。味噌汁はついてるやろー』
なんて微笑ましい会話だろう。
『あそこはいいよ。美味しいし行っておいで。』
と、教えてくれました。
「ありがとうございます。楽しみやなぁ。どれにするか悩むわー」
「おばちゃん、お餅もらっていくわ。」
『日持ちしないよ。今日中に食べなあかん。』
「うん。わかった。大丈夫!今日はここに泊まるから夜のおやつにするー」
『じゃーこれ、いっこ(一つ)詰め替えよか。全部な(店頭に並ぶパック詰めされたお餅)1種類づつ入ってるから。ひとつだけニッキだらけになるけどなー』
『まぁ、ニッキが好きな人が買いにくるやろー』
そんな会話にまた柔らかな笑い声が店に響く。
「いいんですか?うれしいです。ありがとうございます!」
『こちらこそ、ありがとう。楽しんでって』
「はい!楽しみます!ありがとうございました!お昼ご飯いってきます~」
『いってらっしゃい』
と、お会計を済ませ店を後にしました。
なんていい時間なんだろう。数十分前までは、お互い見ず知らずの関係だったのに、おばちゃんの心のこもった計らいで一緒に座っておしゃべりして、最後には「いってきます」って言葉を交わせるこの喜び。こんな出会いがあるから旅をしてる。きっと。
さぁ、道の駅みたいなやつ(笑)に行こう!
と、海を目の前にしてまたもや気になるものを見つけます。
石川県の能登半島の志賀町と福井県の高浜はこうして絆で結ばれているのですね。しかも志賀町って羽咋郡の町。富山県 氷見で買った能登あられが羽咋郡志賀町で作られていたのを思い出しました。
くろしおは、ここ若狭高浜に呼ばれて来たのかもしれない。
間違いない。もう、いろんなものが繋がっていく。
気持ちが熱くなりながら、ようやく海と出会います。もうこのあたりで海風で冷やせってことやな(笑)
この道を曲がるとすぐに見えてくるのは若狭高浜漁業協同組合。この後ろ側にUMIKARAがあります。
建物横すぐの船着場?でいいのかな、そこから海をのぞいてみたら、、、
こんなに透き通ってるとは思わなかった。ちょっとびっくり。すごいな若狭の海。
色々見ながら歩いてきたけど、普通に歩けば10分ちょっとで着きます(笑)駅から海まで1kmもないんです。
UMIKARAの正式名称は地図にもあるように『高浜町6次産業施設 UMIKARA』
6次産業やUMIKARAについてもっと知りたい方はこちら
あ!博士~。
UMIKARA 到着です!
ここはスーパーマーケットとレストラン(うみから食堂)がひとつになっている施設で、スーパーで買った魚をうみから食堂に持ち込んで食べることもできます。食堂ではご飯の単品売りもしているようですよ。
Googleクチコミを見てみると「大漁イカ丼」が人気のようですが、うみから食堂でくろしおが食べたメニューを全部紹介していこうと思います。
では、どうぞ~!
まずはこれ。
穴子は肉厚でふわふわ。そして米が美味い。おばちゃんが言ってたとおりタレがいい役してる。これは絶妙なバランス。あら汁が魚の出汁がきいていて、さらに味噌も美味しい。めちゃくちゃ最高。
続いてはこちら!
お餅やさんに遊びに来てたおばちゃんが言ってたのは、たぶんこれだと思います。こちら平日限定の日替わりランチ。
お造りは美味いし、カレイ煮付けが最高!そして小鉢がまたまた美味しい。和食の中に洋風なんですよ。卵焼きの上にトマトとナスをオイルで和えてあるものをトッピングしてある。よくコース料理の前菜にでてくる味。おばちゃんが言ってたとおり、おなかいっぱいになります。
まだあります!こちらもおすすめです。
このミックスフライ定食は、お店のおねえさんがすすめてくれたんです。
全部若狭で採れた魚をフライにしてあります。タルタルをつけなくても、充分魚の旨みだけで食べれるフライです。でもね、このタルタル美味しいの!
くろしおはすり身コロッケにこのタルタルをつけて食べたのが美味しかった。あっさりしたポテサラコロッケみたいになって。ここのは全部手作りだと思います。クオリティ高いです。
まだありますよ。スイーツはこちら!
福井の郷土料理である、へしこソフトクリームも食べたけど、くろしおは青葉山杜仲茶ソフトクリームをおすすめします。杜仲茶の風味とコクが溶け込んだソフトクリームなんです。初めて食べた味で美味しかったです。
そしてパフェのイチゴ美味しかったぁ。甘いだけじゃなく甘酸っぱくてジューシー。水分量が多いイチゴのような気がしました。だからなのか酸味もあるけどそんなに酸っぱくないんです。白玉もモチモチしてて大満足。
みなさん、これらは一日で食べたんじゃないですからね(笑)トータルして3日間の滞在中に、うみから食堂に通った証です。
あと、周りのお客さんの多くがこちらを食べておられたように思います。
うみから食堂に行った際は、何を食べるか大いに悩んで下さい。そんな時間もきっと楽しいと思います。
あとUMIKARAスーパーマーケットで購入した物も紹介しておきます。
この記事の前半で福井は繊維のまちとして栄えてきたとお伝えしました。この羽二重餅が誕生したのもそれがきっかけなんですよ。
福井の繊維産業が栄えていた時代に羽二重織の輸出も全盛期を迎えます。そのような背景で誕生したのが羽二重餅なんです。そうすると織物屋や取引する商社などが羽二重織にちなんだいいおみやげができたと大変喜び、そこから急速に全国に知れ渡っていったと言われています。
今でも福井と言えば羽二重餅。長い歴史の中で変わらない人気と美味しさを保っているのです。
若狭高浜は小さな町です。
その小さな町には、なにもないどころか、なにもないところを探すほうが難しいぐらいに様々な歴史と伝統が残っていて、それをさらによりよくするために歴史と伝統が錆びない程度に新しい風を町のみんなで吹き込んでいる印象を受けました。
だって、人も、風も、海の青さも、そして食べ物ひとつひとつの味も、全部が “ほどよい” のです。
不思議ですよね。
自然にあるものと、人が作り出したものが同じ波長になるなんて。
若狭の海が、ここに暮らす人々をそのようにさせたのかもしれませんね。
この不思議な心地良さが詰まった若狭高浜の記事はまだ続きます。
くろしお
よく見ると道路にもお魚が泳いでいます。
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