黒崎きつね

趣味で書いている小説を投稿していきます。作家と名乗れるほどのことはしていません🦊

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マガジン

  • 小説「中二病の風間くん」

    明日を諦め日々落ち込むアナタに復活の風を巻き起こす……!? 地に落ちた夢に翼を授ける中二病再生コメディ

  • 小説「笑う門には福来る」

    毎週日曜更新。日々退屈で憂鬱なアナタに心ほぐれるギャグをお届け!寝ても覚めてもふざけ倒す主人公(12)が巻き起こすドタバタ日常劇(全23話)です。

最近の記事

【小説】中二病の風間くん第11話 仕合せ

 文化祭に備え、朝礼前にクラスの垣根を越えた演劇メンバーが集結した。成上が宮下脚本のストーリーに目を通す。 「ふむ。物語の本筋は学生の恋愛模様といったところだが、シェイクスピアの『ジュリアスシーザー』から名を借りているのか。敵対するシーザーとブルータスが幼馴染み……それもヒロインは男装少女ときた。なかなか興味深いね」  成上は稽古中の演者たちに視線を向ける。 「どうして男装してるの? 可愛いのにもったいないよ」  ブルータス風間が難なく役に入る一方で、ヒロイン内海は本領を発揮

    • 【小説】中二病の風間くん第10話 もしもこの手を引いてくれるなら

       服装に困る季節がやってきた。空と人の攻防戦が繰り広げられる中、風間は浮き足立っていた。 「三組と合同というだけあって、なかなか豪華なシナリオだ。腕の見せ所だね。漆黒のマーメイド」 「なんでよりによってヒロイン役なの……」 「僕という主人公にふさわしいじゃないか」 「人前で演技できないの知ってるでしょ? 鬼かあんたは」 「いいや悪魔だ」  文化祭が迫っている。ポスターがあちこちに貼られ、各教室で実行委員が忙しなく動く。先ほどもらった出来立ての台本を手に、風間は口角を上げた。

      • 【小説】中二病の風間くん第9話 ペネトレイト

         体育祭当日ーー。  夏が慌てて引き返してきた。太陽がじりじりと照りつける。赤いハチマキを巻いたばかりの風間は、ラジオ体操で息を切らしていた。 「開始前にバテてるじゃん」内海がつっこむ。 「食パン三枚の威力はこんなものではない……所詮これは準備運動……本気を出すまでもない」  一転、競技になると急に元気を取り戻した。  成上率いる白組一騎を、風間の騎馬が迎え撃つ。しばらく取っ組み合いを繰り広げ、風間のハチマキが解けた。 「勝負あったようだね」  成上の一言に風間は口角を上げる

        • 【小説】中二病の風間くん第8話 半生

           それから一週間、加護はみっちり丁寧にコーチングした。風間は徐々に走れる距離を伸ばしている。加護はその必死な姿に、世間の圧に抗っていた頃の自分を重ねた。  頑張った先に何があるというのか。抗った先に望んだものがあるとは限らない。待ち受けているのが理不尽な結果だったとしても、お前は納得できるのか。  時折、広場のコートでボールを放る風間を見かけるようになった。放ってはゴールに阻まれて拾いにいく。初心者に三ポイントが入れられるはずがない。そうわかっているのに、なぜか目が離せなかっ

        【小説】中二病の風間くん第11話 仕合せ

        マガジン

        • 小説「中二病の風間くん」
          11本
        • 小説「笑う門には福来る」
          23本

        記事

          【小説】中二病の風間くん第7話 夢

           今でも鮮明に覚えている。四歳の時に聞いたあの大歓声を。国を背負った父が、大きな会場で得点を決めた瞬間を。現役を引退した父がかけてくれた金メダルは、年々重みを増していく。 『お父さんのプレーを彷彿とさせる活躍でしたね!』 『オリンピックで金メダルを手にする加護くん、見たいですね!』  オレは気づいてしまった。誰もが二世の活躍を望んでいると。オレの積み上げてきた努力は、父の名と天才という二文字にかき消されてしまったのだと。  逃げるように無名校へ進学し、新設されたバスケ部に入っ

          【小説】中二病の風間くん第7話 夢

          【小説】中二病の風間くん第6話 相棒

           あれから風間は、加護を探しては話しかけるタイミングを見計らい、後をつけた。やらかさないように内海も同行し、観察する。不良らしく、売られたケンカは全て買っていた。その反面、赤信号をノロノロと渡る老人を担いだり、商店街の強盗を制圧する部分も見られた。  近づきすぎると気配を悟られケンカ腰になるため、一定の距離を保ちながら虎視眈々とチャンスを待った。  加護はコンビニの駐車場で、足早に去ろうとする少年二人の肩を掴む。 「おい」  少年たちは加護の強面と身長に、怯えを見せた。加護は

          【小説】中二病の風間くん第6話 相棒

          【小説】中二病の風間くん第5話 虚

           セミが鳴かなくなった頃、内海は一人で登校していた。風間が朝練のため先に行くと連絡してきたからである。 『あんた部活入ってたっけ?』  そう送ったメッセージに反応はない。たどり着いた教室には鞄だけが鎮座している。探し回っていると、聞き覚えのある声がして演劇部と書かれた扉を開けた。そこには、眼帯の代わりに眼鏡をかけ、涙目で赤面している風間が椅子から転げ落ちていた。  お前は誰だ。内海は内心叫ぶ。  中二キャラはどこへやら、しっかり役に入る風間は部員の熱い視線を受けていた。可愛い

          【小説】中二病の風間くん第5話 虚

          【小説】中二病の風間くん第4話 落伍者の集会

           転入から一週間が経ち、風間は内海と登校するのが日常になっていた。たわいもない話をしていると、生徒会員が門の前に並び、挨拶を交わしているのが見えた。 「おはよう諸君、くだらないことで盛り上がるのは結構だが、前を見て歩きたまえ。また骨折したくなければね」  プライベートに土足で踏み込む会長が視界に入り、内海は風間の腕を引く。次は何を暴露されるかわからない。見つかる前に通り抜けようと足を早める。 「何だ? 追手がいるのか? まさか君もどこぞの組織を抜けてきた口か!」  内海の努力

          【小説】中二病の風間くん第4話 落伍者の集会

          【小説】中二病の風間くん第3話 雷鳴、轟く

          「六十四ページから風間くん、音読をお願いします」  担任の指名に風間は席を立ち、クラスメイトに照明を消してくれと頼んだ。先生の注意が飛ぶ前に口を開く。 「ワルプルギスの夜、サタンが降臨した。吹き荒れる暴風はサタンの怒りを代弁するかのようにーー」  風間の手元が光りだす。風間が読んでいたのは教科書ではなく、魔法陣の書かれた本だった。 「風間くん、教科書を読んでください」 「これは僕専用に作った人生の教科書だ」 「学校指定のものでお願いします」  内海が覗き込むと、魔導書には豆電

          【小説】中二病の風間くん第3話 雷鳴、轟く

          【小説】中二病の風間くん第2話 原点回帰

           内海は暗く深い海の底に沈んでいた。息苦しくなって水面に顔を出せば、大きな赤い月がじっとこちらを見ている。その視線に耐えられず再び潜ると、なだれ込んでくる過去に押し流されていく。  ーー調子に乗るな。このレベルならそこらにいくらでもいる。  つい魔が差して、クラスの人気者に嫉妬してコメントを投稿したことがあった。そんな些細な攻撃は、何倍にも膨れ上がって返ってきた。重力に逆らうことなく体が沈んでいく中、内海は瞳をそっと閉じた。  たった一度、水面から顔を出して人間をつついただけ

          【小説】中二病の風間くん第2話 原点回帰

          【小説】中二病の風間くん第1話 疾風の渡り鳥・ハヤブサ

           夏疾風が雨の匂いを連れて、内海の髪を揺らす。傘など持ってはいない。それどころか、鞄の中は空っぽだった。長い休みが明けたばかりだが、読書感想文や大量に出された課題プリントには一つも手をつけていない。  制服のスカートに水滴が降ってきた。これはカエルが喜ぶことだろう。やかましく鳴くはずのセミは、どこかで息を潜めている。日焼けもしていない白い肌に冷たい一滴が伝う。  もっと降れ。大洪水を起こしてしまえ。そしてこの憂いを流し、命すら飲み込んでくれ。  内海は学校へ向かわず、人気のな

          【小説】中二病の風間くん第1話 疾風の渡り鳥・ハヤブサ

          笑う門には福来る 第23話 論より証拠

           冬休みが終わり、茂は珍しく緊張していた。ランドセルを背負い、マフラーを巻き、手袋をつけて靴を履く。深呼吸をして、不安を吹き飛ばすように声を張る。 「いってらっしゃーい!」 「行ってきまーす……」  拓海は微笑ましくボケに乗った。頑張れという意味を込めて。茂は松本との和解を果たすために一歩踏み出した。  公園に赴くと、登校班のメンツが顔を揃えていた。松本にあいさつするも、口を利いてくれなかった。年賀状は届いたが、視線が合うことはない。 「おいおい、休み前のまだ引きずってんのか

          笑う門には福来る 第23話 論より証拠

          笑う門には福来る 第22話 旅は道連れ、世は情け

           冬休みに入った。誠司が自室で合格通知を開けると同時に、父が母を連れて帰って来た。小春の喜ぶ声が聞こえる。続いて、買い物に行っていた茂と京太郎も帰宅する。母の姿を見て茂が即座にボケる。 「おかえリンゴ!」 「ただいマンゴー!」  その横で、誠司は出かける支度をしている。 「どこ行くの?」 「靴買いに行ってくる」  兄は履き古した靴に足をつっこむ。 「僕も行く!」茂が名乗り出た。  二人で寒い外を歩く。冷たい風に体が強張った。 「今日イヴだね」 「そうだな」  誠司は密かに進め

          笑う門には福来る 第22話 旅は道連れ、世は情け

          笑う門には福来る 第21話 年寄りの冷や水

           誠司は布団を出て身震いした。朝の冷えた空気に、嫌でも目が覚める。誠司は今日、入試を控えている。進路変更して、教育系の学校へ行くつもりだ。  支度している間、同室の弟は眠っていた。テストで0点取ったり、やたらスベるようになったその様子に、疑問を持ちながら部屋を出た。  入試の日くらいは何か食べようと、席につく。茂が目をこすりながら起きてきた。 「おはよう兄さん! いい天気だね!」 「雨降ってるぞ」  二人はあたたかいおにぎりと味噌汁を口に運ぶ。 「シゲ、最近ボケのキレないよな

          笑う門には福来る 第21話 年寄りの冷や水

          笑う門には福来る 第20話 泳ぎ上手は川で死ぬ

           長男が寝ている横で、茂は深夜までネタ作りに没頭していた。結果、翌朝見事に寝坊してしまった。 「珍しいね。シゲが寝坊なんて……」  拓海がトーストをかじりながら眠たげに言った。 「昨日夜更かししちゃった! テヘッ」 「急がなくていいの……?」 「いいよ。どうせ遅れるなら焦るだけ損だもん」  マイペースに準備して玄関を出る。 「行ってらっしゃーい!」 「いや行くのシゲでしょ……」 「ほな行ってきまーす!」 「いってらー……」  少しひんやりとした風を浴びて登校する。その道中、ハ

          笑う門には福来る 第20話 泳ぎ上手は川で死ぬ

          笑う門には福来る 第19話 スタートライン

           十月も半分を過ぎ、肌寒い日が続いている。  長男はバイト、次男は遊びに、母と茂は小春のピアノ発表会へ出かけた。拓海は部屋で寝転んでいる。  机にはキャラデザの痕があった。マンガを描いてみようと思い立ったが、手が止まってしまったのだ。家族と話している時や、何かに没頭している時は気にならないことも、一人の時間になると顔を出す。将来への不安が頭から離れない。担任が持ってきた進路プリントのせいだ。  俺は何になりたいのだろう。何になれるのだろう。好きなことを仕事にしたところで、壁に

          笑う門には福来る 第19話 スタートライン