黒崎きつね

趣味で書いている小説を投稿していきます。作家と名乗れるほどのことはしていません🦊

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マガジン

  • 小説「中二病の風間くん」

    明日を諦め日々落ち込むアナタに復活の風を巻き起こす……!? 地に落ちた夢に翼を授ける中二病再生コメディ

  • 小説「笑う門には福来る」

    毎週日曜更新。日々退屈で憂鬱なアナタに心ほぐれるギャグをお届け!寝ても覚めてもふざけ倒す主人公(12)が巻き起こすドタバタ日常劇(全23話)です。

最近の記事

【小説】中二病の風間くん第3話 雷鳴、轟く

「六十四ページから風間くん、音読をお願いします」  担任の指名に風間は席を立ち、クラスメイトに照明を消してくれと頼んだ。先生の注意が飛ぶ前に口を開く。 「ワルプルギスの夜、サタンが降臨した。吹き荒れる暴風はサタンの怒りを代弁するかのようにーー」  風間の手元が光りだす。風間が読んでいたのは教科書ではなく、魔法陣の書かれた本だった。 「風間くん、教科書を読んでください」 「これは僕専用に作った人生の教科書だ」 「学校指定のものでお願いします」  内海が覗き込むと、魔導書には豆電

    • 【小説】中二病の風間くん第2話 原点回帰

       内海は暗く深い海の底に沈んでいた。息苦しくなって水面に顔を出せば、大きな赤い月がじっとこちらを見ている。その視線に耐えられず再び潜ると、なだれ込んでくる過去に押し流されていく。  ーー調子に乗るな。このレベルならそこらにいくらでもいる。  つい魔が差して、クラスの人気者に嫉妬してコメントを投稿したことがあった。そんな些細な攻撃は、何倍にも膨れ上がって返ってきた。重力に逆らうことなく体が沈んでいく中、内海は瞳をそっと閉じた。  たった一度、水面から顔を出して人間をつついただけ

      • 【小説】中二病の風間くん第1話 疾風の渡り鳥・ハヤブサ

         夏疾風が雨の匂いを連れて、内海の髪を揺らす。傘など持ってはいない。それどころか、鞄の中は空っぽだった。長い休みが明けたばかりだが、読書感想文や大量に出された課題プリントには一つも手をつけていない。  制服のスカートに水滴が降ってきた。これはカエルが喜ぶことだろう。やかましく鳴くはずのセミは、どこかで息を潜めている。日焼けもしていない白い肌に冷たい一滴が伝う。  もっと降れ。大洪水を起こしてしまえ。そしてこの憂いを流し、命すら飲み込んでくれ。  内海は学校へ向かわず、人気のな

        • 笑う門には福来る 第23話 論より証拠

           冬休みが終わり、茂は珍しく緊張していた。ランドセルを背負い、マフラーを巻き、手袋をつけて靴を履く。深呼吸をして、不安を吹き飛ばすように声を張る。 「いってらっしゃーい!」 「行ってきまーす……」  拓海は微笑ましくボケに乗った。頑張れという意味を込めて。茂は松本との和解を果たすために一歩踏み出した。  公園に赴くと、登校班のメンツが顔を揃えていた。松本にあいさつするも、口を利いてくれなかった。年賀状は届いたが、視線が合うことはない。 「おいおい、休み前のまだ引きずってんのか

        【小説】中二病の風間くん第3話 雷鳴、轟く

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        • 小説「中二病の風間くん」
          3本
        • 小説「笑う門には福来る」
          23本

        記事

          笑う門には福来る 第22話 旅は道連れ、世は情け

           冬休みに入った。誠司が自室で合格通知を開けると同時に、父が母を連れて帰って来た。小春の喜ぶ声が聞こえる。続いて、買い物に行っていた茂と京太郎も帰宅する。母の姿を見て茂が即座にボケる。 「おかえリンゴ!」 「ただいマンゴー!」  その横で、誠司は出かける支度をしている。 「どこ行くの?」 「靴買いに行ってくる」  兄は履き古した靴に足をつっこむ。 「僕も行く!」茂が名乗り出た。  二人で寒い外を歩く。冷たい風に体が強張った。 「今日イヴだね」 「そうだな」  誠司は密かに進め

          笑う門には福来る 第22話 旅は道連れ、世は情け

          笑う門には福来る 第21話 年寄りの冷や水

           誠司は布団を出て身震いした。朝の冷えた空気に、嫌でも目が覚める。誠司は今日、入試を控えている。進路変更して、教育系の学校へ行くつもりだ。  支度している間、同室の弟は眠っていた。テストで0点取ったり、やたらスベるようになったその様子に、疑問を持ちながら部屋を出た。  入試の日くらいは何か食べようと、席につく。茂が目をこすりながら起きてきた。 「おはよう兄さん! いい天気だね!」 「雨降ってるぞ」  二人はあたたかいおにぎりと味噌汁を口に運ぶ。 「シゲ、最近ボケのキレないよな

          笑う門には福来る 第21話 年寄りの冷や水

          笑う門には福来る 第20話 泳ぎ上手は川で死ぬ

           長男が寝ている横で、茂は深夜までネタ作りに没頭していた。結果、翌朝見事に寝坊してしまった。 「珍しいね。シゲが寝坊なんて……」  拓海がトーストをかじりながら眠たげに言った。 「昨日夜更かししちゃった! テヘッ」 「急がなくていいの……?」 「いいよ。どうせ遅れるなら焦るだけ損だもん」  マイペースに準備して玄関を出る。 「行ってらっしゃーい!」 「いや行くのシゲでしょ……」 「ほな行ってきまーす!」 「いってらー……」  少しひんやりとした風を浴びて登校する。その道中、ハ

          笑う門には福来る 第20話 泳ぎ上手は川で死ぬ

          笑う門には福来る 第19話 スタートライン

           十月も半分を過ぎ、肌寒い日が続いている。  長男はバイト、次男は遊びに、母と茂は小春のピアノ発表会へ出かけた。拓海は部屋で寝転んでいる。  机にはキャラデザの痕があった。マンガを描いてみようと思い立ったが、手が止まってしまったのだ。家族と話している時や、何かに没頭している時は気にならないことも、一人の時間になると顔を出す。将来への不安が頭から離れない。担任が持ってきた進路プリントのせいだ。  俺は何になりたいのだろう。何になれるのだろう。好きなことを仕事にしたところで、壁に

          笑う門には福来る 第19話 スタートライン

          笑う門には福来る 第18話 明日ありと思う心の仇桜

           拓海は布団の中、横たわったまま思考に耽る。不登校になって、もう半年が経つ。時間が空けば、余計に教室に戻りづらくなる。今さら行ったところで、成績も人間関係も意味などない。最近ずっと無気力だ。ゲームをする気にもなれない。  まるで砂漠をずっと歩いているようだ。水分も休める陰もなく、ただ果てしない道をフラフラと進んでいる。この干からびた心に、モチベーションという名の潤いが欲しい。  重い心を引きずりベッドから降りると、扉にメモが貼り付けてあった。 『シュークリームからの挑戦状、冷

          笑う門には福来る 第18話 明日ありと思う心の仇桜

          笑う門には福来る 第17話 賢い人には友がない

           茂はランドセルを背負い、セミの声がする中、登校班に合流した。 「石川くん、黒くなったね! 炭火焼きされたの?」 「何で食われる前提なんだよ」 「こんなに焦げた肉は食いたくねえな」  松本が呟く。 「こっちだって食われたかねえわ! そういうのは西岡に言えよ。あいつの方が美味そうな肉もってんだから」 「ほとんど脂肪だろ。やっすい肉」 「大将は美味しいよ! 絶対! 本人いないのに盛り上がる。そんなカリスマ性という名の素敵なスパイスを持ってる!」 「お前ら、酷い会話してんな。フォロ

          笑う門には福来る 第17話 賢い人には友がない

          笑う門には福来る 第16話 夏祭り

           朝、松本が目を覚ますと茂からメッセージがきていた。 『今晩は何食べる?』  質問の意図が読めず、アプリを開いて全文を表示する。 『もし予定ないなら、お祭りこない? 食べ物が腐るほどあるよ!』  いや、言い方。 『母さんが屋台やるんだ。魔が差したらきて!』  気が向いたらだろ、そこは。  松本が返信すると、すぐに既読がついた。 『何の屋台?』 『たこ包み~こだわり濃いめのソース 青のりと鰹節をのせて~』 『またの名をエンジェルボール★』  一つ料理名を言うだけで惜しみなく文字

          笑う門には福来る 第16話 夏祭り

          笑う門には福来る 第15話 起死回生

           京太郎は夏休みにも関わらず、学校に来ていた。全教科赤点を取ったが故の補習である。睡魔に負けそうなところを、先生に叩き起こされプリントに目を向ける。  だめだ。脳が勉強を拒否している。頬を叩き気合を入れて、頭をかきながらシャーペンを走らせた。昼には野球部の練習が待っているのだ。京太郎は部員ではないが、人数がギリギリのため助っ人として来て欲しいと言われている。県内ではそこそこの実力だが、一年生があまり入ってこなかったらしい。  京太郎は投手として練習に参加した。エアコンは効いて

          笑う門には福来る 第15話 起死回生

          笑う門には福来る第14話 親しき仲に礼儀あり

           夕飯時、テレビで花火特集をしていた。 「これいきたい!」声を上げた小春に母は眉を下げる。 「んー、次いつ休み取れるかな」 「じゃあ『でんしゃ』でにーちゃんたちといってもいい?」 「いいけど、キョウか誠司が必ず一緒に行くこと!」  拓海はおそらく外に出ない。茂はまだ小学生だ。近所ならまだしも、遠出させるのは不安だった。 「にいちゃん、あれいきたい!」 「キョウと行って来い」 「オレ、その日バイト」 「バイトやすんで!」 「無茶言うな! 仕事ほっぽり出して遊びに行くことがどれだ

          笑う門には福来る第14話 親しき仲に礼儀あり

          笑う門には福来る 第13話 親の心、子知らず

           梅雨に入った。湿度の高い、じめじめとした暑さが続く。少し外に出ただけで、じんわり汗をかいてしまう。クーラーの効いた家の中で、茂は大人しくしていた。外は雨風が強く、電線が揺れているのが窓越しに見える。  テレビでは台風情報が流れ、天気の隣に警報が表示されている。茂と小春は休み、高校生の長男と次男は自宅待機だ。  各部屋で好きなことをして過ごす兄たちに対し、茂はリビングに一人だった。いつもの笑顔はない。画面に映る流れる川や土砂を見て、一年前を思い出す。  引っ越す前のことだ。

          笑う門には福来る 第13話 親の心、子知らず

          笑う門には福来る第12話 恋に師匠なし

           公園には水たまりが大量発生していた。ブランコや滑り台、茂みの蜘蛛の巣は水滴がついて煌めいている。子どもたちは傘を差し、自身の体とランドセルをかっぱで覆って集合していた。  茂はねこじゃらしを手に、登校班と合流する。 「おはよう! いい天気だね!」 「カエルにとってはな」  あとは坊主の石川を待つのみだ。その間、茂は傘を思い切り振ってひっくり返し、暇をつぶす。 「壊れちゃうよ?」  結果、元に戻せなくなった。 「松本くん、傘入れて?」 「自業自得だろ」  数分後、なんとか元に

          笑う門には福来る第12話 恋に師匠なし

          笑う門には福来る 第11話 渡る世間に鬼はない

           茂は、次男と三男の共用部屋を訪ねていた。小春はピアノ教室へ、母はパートへ、長男はバイトへ、次男は部活の助っ人へ出かけている。  そっと扉を開けると、三男の拓海は布団の中だった。おもちゃのマイクを手に、茂はリポートを始める。 「みなさんこんにちは! 藤原家随一のボケリスト、茂です! さあ始まりました、突撃兄ちゃんの部屋。当の本人は夢の中なので、目を覚ますまで物色していきたいと思います」  三男の寝床は、ベッドと机が一体化しているタイプである。一際目立つのは、パソコンとミニジオ

          笑う門には福来る 第11話 渡る世間に鬼はない