黒崎きつね
明日を諦め日々落ち込むアナタに復活の風を巻き起こす……!? 地に落ちた夢に翼を授ける中二病再生コメディ
毎週日曜更新。日々退屈で憂鬱なアナタに心ほぐれるギャグをお届け!寝ても覚めてもふざけ倒す主人公(12)が巻き起こすドタバタ日常劇(全23話)です。
風間の過去を聞いてからも、内海たちは絶やすことなく何度も病院に足を運んだ。数回にわけられる手術がいつ終わるのか知る由もないが、姿が見られなくても、担当日を決め…
冬休み初日ーー。 内海たちは成上に連れられ、各々見舞い品を手に風間の元へ向かう。成上が足を止めたのは大学病院だった。 「彼は本当に戦っていたのだよ。自分を狙う…
文化祭から数日が経過した。担任は戻り、加護もしっかり授業を受け、礼央の下僕として威張っていた二人組が大人しくなったことで、宮下の顔も晴れやかになった。だが、内…
幕が上がり、宮下のナレーションが体育館に響く。 『ブルータス。それはあまりにも知られた名だが、これからあなたが目にするのは高校生の彼。原作とは異なる世界線で描…
登校前、宮下は墓地に立ち寄っていた。曇天の下、姉の名が刻まれた墓前で手を合わせ、目を閉じる。管をつけられ、弱々しく横たわる姿は、十年経った今でも脳裏に焼きつい…
文化祭に備え、朝礼前にクラスの垣根を越えた演劇メンバーが集結した。成上が宮下脚本のストーリーに目を通す。 「ふむ。物語の本筋は学生の恋愛模様といったところだが…
服装に困る季節がやってきた。空と人の攻防戦が繰り広げられる中、風間は浮き足立っていた。 「三組と合同というだけあって、なかなか豪華なシナリオだ。腕の見せ所だね…
体育祭当日ーー。 夏が慌てて引き返してきた。太陽がじりじりと照りつける。赤いハチマキを巻いたばかりの風間は、ラジオ体操で息を切らしていた。 「開始前にバテてる…
それから一週間、加護はみっちり丁寧にコーチングした。風間は徐々に走れる距離を伸ばしている。加護はその必死な姿に、世間の圧に抗っていた頃の自分を重ねた。 頑張…
今でも鮮明に覚えている。四歳の時に聞いたあの大歓声を。国を背負った父が、大きな会場で得点を決めた瞬間を。現役を引退した父がかけてくれた金メダルは、年々重みを増…
あれから風間は、加護を探しては話しかけるタイミングを見計らい、後をつけた。やらかさないように内海も同行し、観察する。不良らしく、売られたケンカは全て買っていた…
セミが鳴かなくなった頃、内海は一人で登校していた。風間が朝練のため先に行くと連絡してきたからである。 『あんた部活入ってたっけ?』 そう送ったメッセージに反応…
転入から一週間が経ち、風間は内海と登校するのが日常になっていた。たわいもない話をしていると、生徒会員が門の前に並び、挨拶を交わしているのが見えた。 「おはよう…
「六十四ページから風間くん、音読をお願いします」 担任の指名に風間は席を立ち、クラスメイトに照明を消してくれと頼んだ。先生の注意が飛ぶ前に口を開く。 「ワルプル…
内海は暗く深い海の底に沈んでいた。息苦しくなって水面に顔を出せば、大きな赤い月がじっとこちらを見ている。その視線に耐えられず再び潜ると、なだれ込んでくる過去に…
夏疾風が雨の匂いを連れて、内海の髪を揺らす。傘など持ってはいない。それどころか、鞄の中は空っぽだった。長い休みが明けたばかりだが、読書感想文や大量に出された課…
2024年9月15日 09:15
風間の過去を聞いてからも、内海たちは絶やすことなく何度も病院に足を運んだ。数回にわけられる手術がいつ終わるのか知る由もないが、姿が見られなくても、担当日を決めて何かしらのメッセージや見舞い品を残していった。 年を越しても音沙汰はなく、風間の席は空いたままだった。対して、内海の机は大量の写真で埋め尽くされていて、加護が物申す。「……寂しいからって犯罪に手ぇ出すなよ?」「誰がストーカーだ!」
2024年9月8日 08:08
冬休み初日ーー。 内海たちは成上に連れられ、各々見舞い品を手に風間の元へ向かう。成上が足を止めたのは大学病院だった。「彼は本当に戦っていたのだよ。自分を狙うものと常にね」 躊躇なく中へ入っていく成上に、一同は続く。「彼はここを魔界と呼び、病室をケルベロスと称した。彼の使っていた中二病特有の単語……そのほとんどは何かしらの隠語だ」「あんた、いつから気づいて……」「彼がハヤブサと名乗った
2024年9月1日 08:16
文化祭から数日が経過した。担任は戻り、加護もしっかり授業を受け、礼央の下僕として威張っていた二人組が大人しくなったことで、宮下の顔も晴れやかになった。だが、内海には物足りない気分が拭えなかった。 風間が風邪で欠席しているのだ。元々虚弱体質ではあるが、演劇とバスケによる疲労が祟ったのだという。 あのやかましい中二病が不在なだけで、こんなにも寂しくなるのかと、内海は実感していた。自席で弁当を取り
2024年8月25日 07:43
幕が上がり、宮下のナレーションが体育館に響く。『ブルータス。それはあまりにも知られた名だが、これからあなたが目にするのは高校生の彼。原作とは異なる世界線で描かれるこの物語は、果たして悲劇か。喜劇かーー』 賑やかな教室で礼央ブルータスと風間シーザーが語らう。「ポーシャって男装してるのになんであんなに可愛いのかな。罪深いね」「そ、そうかァ?」「そうだよ! 最近ますます体つきがエロくなってき
2024年8月18日 08:42
登校前、宮下は墓地に立ち寄っていた。曇天の下、姉の名が刻まれた墓前で手を合わせ、目を閉じる。管をつけられ、弱々しく横たわる姿は、十年経った今でも脳裏に焼きついている。 細い腕を伸ばし、頭を撫でてくれた過去の温もりに浸っていると、物音がした。視線を向けると、風間が別の墓前で花を生けている。声をかけようとしたが、憂いに染まった瞳に思わず言葉を飲み込んだ。 宮下はそのまま登校し、礼央の姿を見つけて
2024年8月11日 07:32
文化祭に備え、朝礼前にクラスの垣根を越えた演劇メンバーが集結した。成上が宮下脚本のストーリーに目を通す。「ふむ。物語の本筋は学生の恋愛模様といったところだが、シェイクスピアの『ジュリアスシーザー』から名を借りているのか。敵対するシーザーとブルータスが幼馴染み……それもヒロインは男装少女ときた。なかなか興味深いね」 成上は稽古中の演者たちに視線を向ける。「どうして男装してるの? 可愛いのにも
2024年8月4日 09:36
服装に困る季節がやってきた。空と人の攻防戦が繰り広げられる中、風間は浮き足立っていた。「三組と合同というだけあって、なかなか豪華なシナリオだ。腕の見せ所だね。漆黒のマーメイド」「なんでよりによってヒロイン役なの……」「僕という主人公にふさわしいじゃないか」「人前で演技できないの知ってるでしょ? 鬼かあんたは」「いいや悪魔だ」 文化祭が迫っている。ポスターがあちこちに貼られ、各教室で実
2024年7月28日 06:09
体育祭当日ーー。 夏が慌てて引き返してきた。太陽がじりじりと照りつける。赤いハチマキを巻いたばかりの風間は、ラジオ体操で息を切らしていた。「開始前にバテてるじゃん」内海がつっこむ。「食パン三枚の威力はこんなものではない……所詮これは準備運動……本気を出すまでもない」 一転、競技になると急に元気を取り戻した。 成上率いる白組一騎を、風間の騎馬が迎え撃つ。しばらく取っ組み合いを繰り広げ、風
2024年7月21日 08:21
それから一週間、加護はみっちり丁寧にコーチングした。風間は徐々に走れる距離を伸ばしている。加護はその必死な姿に、世間の圧に抗っていた頃の自分を重ねた。 頑張った先に何があるというのか。抗った先に望んだものがあるとは限らない。待ち受けているのが理不尽な結果だったとしても、お前は納得できるのか。 時折、広場のコートでボールを放る風間を見かけるようになった。放ってはゴールに阻まれて拾いにいく。初心
2024年7月14日 08:05
今でも鮮明に覚えている。四歳の時に聞いたあの大歓声を。国を背負った父が、大きな会場で得点を決めた瞬間を。現役を引退した父がかけてくれた金メダルは、年々重みを増していく。『お父さんのプレーを彷彿とさせる活躍でしたね!』『オリンピックで金メダルを手にする加護くん、見たいですね!』 オレは気づいてしまった。誰もが二世の活躍を望んでいると。オレの積み上げてきた努力は、父の名と天才という二文字にかき
2024年7月7日 08:10
あれから風間は、加護を探しては話しかけるタイミングを見計らい、後をつけた。やらかさないように内海も同行し、観察する。不良らしく、売られたケンカは全て買っていた。その反面、赤信号をノロノロと渡る老人を担いだり、商店街の強盗を制圧する部分も見られた。 近づきすぎると気配を悟られケンカ腰になるため、一定の距離を保ちながら虎視眈々とチャンスを待った。 加護はコンビニの駐車場で、足早に去ろうとする少年
2024年6月30日 08:25
セミが鳴かなくなった頃、内海は一人で登校していた。風間が朝練のため先に行くと連絡してきたからである。『あんた部活入ってたっけ?』 そう送ったメッセージに反応はない。たどり着いた教室には鞄だけが鎮座している。探し回っていると、聞き覚えのある声がして演劇部と書かれた扉を開けた。そこには、眼帯の代わりに眼鏡をかけ、涙目で赤面している風間が椅子から転げ落ちていた。 お前は誰だ。内海は内心叫ぶ。
2024年6月23日 08:25
転入から一週間が経ち、風間は内海と登校するのが日常になっていた。たわいもない話をしていると、生徒会員が門の前に並び、挨拶を交わしているのが見えた。「おはよう諸君、くだらないことで盛り上がるのは結構だが、前を見て歩きたまえ。また骨折したくなければね」 プライベートに土足で踏み込む会長が視界に入り、内海は風間の腕を引く。次は何を暴露されるかわからない。見つかる前に通り抜けようと足を早める。「何
2024年6月16日 07:57
「六十四ページから風間くん、音読をお願いします」 担任の指名に風間は席を立ち、クラスメイトに照明を消してくれと頼んだ。先生の注意が飛ぶ前に口を開く。「ワルプルギスの夜、サタンが降臨した。吹き荒れる暴風はサタンの怒りを代弁するかのようにーー」 風間の手元が光りだす。風間が読んでいたのは教科書ではなく、魔法陣の書かれた本だった。「風間くん、教科書を読んでください」「これは僕専用に作った人生の
2024年6月9日 07:54
内海は暗く深い海の底に沈んでいた。息苦しくなって水面に顔を出せば、大きな赤い月がじっとこちらを見ている。その視線に耐えられず再び潜ると、なだれ込んでくる過去に押し流されていく。 ーー調子に乗るな。このレベルならそこらにいくらでもいる。 つい魔が差して、クラスの人気者に嫉妬してコメントを投稿したことがあった。そんな些細な攻撃は、何倍にも膨れ上がって返ってきた。重力に逆らうことなく体が沈んでいく
2024年6月2日 08:19
夏疾風が雨の匂いを連れて、内海の髪を揺らす。傘など持ってはいない。それどころか、鞄の中は空っぽだった。長い休みが明けたばかりだが、読書感想文や大量に出された課題プリントには一つも手をつけていない。 制服のスカートに水滴が降ってきた。これはカエルが喜ぶことだろう。やかましく鳴くはずのセミは、どこかで息を潜めている。日焼けもしていない白い肌に冷たい一滴が伝う。 もっと降れ。大洪水を起こしてしまえ