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社内昇格取締役も含んだ開示が必要

2017年に主要な日本企業でスキルマトリックスの開示が始まってから、質・量ともに充実してきています。量については別投稿で詳しく紹介したいと考えていますので、本稿では質について述べていきます。最初に公表を開始した企業はCGSガイドラインに準拠して、主に社外取締役のスキルセットについて紹介していました。しかし前回述べた通り、取締役会の実効性向上を目的として社外取締役を指名するには、社内昇格の取締役のスキルをまず棚卸しなければ効果的とは言えません。すなわち1)取締役会が保有すべきスキルを特定し、2)現在の取締役においてスキルの過不足を判断し、3)特に過剰または不足するスキルについては社内外の取締役の選解任によって調整を図る必要があります。それに一早く気づいた企業は社内昇格取締役も含んだスキルマトリックスを公表しています。

このような企業の1社にイビデンがあります。同社の2016年の株主総会招集通知には取締役候補の在任期間や担当職務、取締役会の出席状況が示されているのみでした。2017年には「社外取締役候補者の知見・経験一覧」として社外取締役候補者6名の専門性や外形的な多様性の開示を始め、2018年には社内・社外取締役候補者全12名のスキルマトリックスを公表しました。

同社のスキルマトリックスには網羅性を向上させているというもう1つの特徴があります。2017年時点では以下の5点を必要なスキルとして取り上げていました。

・企業経営
・会計/税務
・法律
・女性
・研究者

2018年には以下10点が取締役会に必要なスキルとして示されました。

・独立性(社外のみ)
・社長経験
・会計/税務
・業界の知識
・営業/販売
・国際ビジネス
・研究/製造
・法務
・リスク/コンプライアンス/ガバナンス
・性別

両年を比較すると会計/税務や法律、性別の多様性、研究については共通しています。一方、2017年に企業経営として示されていたスキルは、2018年には1)社長経験、2)業界の知識、3)営業/販売、4)国際ビジネス、5)リスク/コンプライアンス/ガバナンスの5つの専門性に細分化され、より網羅性を強調するものになっています。

同様に社内昇格取締役を含んだスキルマトリックスを日本郵船も2018年7月に統合報告書で公表を始めました。今後スキルマトリックスの公表を検討している企業には、このように社内昇格取締役も含んだスキルマトリックスの公表とともに、スキルを保有していると判断した根拠の明示を期待したいと思います。




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