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逆噴射小説大賞2019個人的まとめbyくねくね

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ネイキッド・チャーチ

ネイキッド・チャーチ

おはよう!

青い空、白い雲。

朝の太陽の柔らかな光が木々を輝かせ、俺の白い服を照らしていた。今日も心地良い風が吹いている。

「おはようございます」

エドワード神父がやって来た。

「神父様、おはようございます」

俺は挨拶を返す。エドワード神父は微笑み、朝日を眺めながら深呼吸した。俺もそれを真似る。美しい山の空気を肺いっぱいに吸い込む。すべてがきらめき、輝いて見える。なんて清々

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シトロエンの孤独

シトロエンの孤独

 「ああ……海の匂いだ」

 鉛色の雲が垂れ、松の防砂林は昼だというのに日暮れの影を落とす。女がハンドルを握る黒いシトロエンは、古い映画のような色彩の中を疾駆する。助手席の男は何も言わなかった。

「相変わらず錆臭いなあ」

 女は分かっていた。錆びの匂いは、海浜公園の遊具や野球場のフェンスが、潮風で緩やかに殺される匂いではない。

「あんたと出かけると、いっつもしまらなくて笑っちゃうよね」

 

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女王陛下の00B(ダブルオーバック)

女王陛下の00B(ダブルオーバック)

「被験体AおよびB、スタンバイ。ターゲット配置完了」
「よし、発蜂を許可する」

号令の直後──ぱごふっ!
やや間の抜けた音とともに、鹵獲した敵国主力戦車が穴だらけになった。

「いかがですか、将軍」
「……博士、君は国の英雄となるだろう。もう一度見せてもらえるかね」

白衣/軍服の男たちの興奮した視線を集めるモニターが、厚さ800mmの隔壁の向こう、数秒前の光景をスロー再生する。

上半身裸の少

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殺意の掟

殺意の掟

 もう駄目だと思った。
 山奥の廃村でこの男の頭を岩で潰しておしまい。そのはずだった。
 男はこちらの動きを全て読んでいるかのようだった。雨の中、蛇のようなしなやかさで私の首を掴み、地面に叩きつけた。
「無駄な抵抗をするな」
 男は片手で私を組み伏せながら、胸元から手帳を取り出し地面に叩きつけた。そこには警視庁捜査一課 犬神城と書かれていた。
「警察官5名、刑事3名を殺した連続殺人犯『警官殺し』─

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ゴールドラッシュとシルバーアックス

ゴールドラッシュとシルバーアックス

 ギラつく太陽。一直線のハイウェイ。トルクにモノを言わせてビンビンにブッ飛ばす。キャデラック・エルドラド―― 名前からしてツイてるだろ? コイツだけはいくら金に困っても手放せねぇ。
 ベガスで久しぶりの大勝負。LAだって郊外に行きゃあいくつもある。モロンゴ。バロナ。パラ―― だが田舎のカジノは性に合わねぇ。俺はベガスが恋しいのさ。あの華やかな街が。老舗のホテルで食えねぇ野郎どもとヒリつくような勝負

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(仮ver)【逆噴射小説大賞2019応募用】メキサスシティのシルバーコップ

(仮ver)【逆噴射小説大賞2019応募用】メキサスシティのシルバーコップ

 これに応募したものです。



 おれは医者が好きだ。医者に行って身体を見せれば、すぐにおれは健康になれる。なぜなら奴らは人の身体のことを誰よりもよくわかっているからだ。どこの器官がどういう理屈で動くのか。何が重要なのか。どうすれば死んでしまうのか。たいしたやつらだ。

 だからこいつも、この医者も自分があとどれぐらいで死ぬのかはわかっているのだろう。

 いや? それとも小児科医だとそうでも

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ゾンビ街のミイラなアイツ

アイツは最高。しわくちゃミイラでも、乳首とへそが横に並んでも、俺はアイツを毎晩抱く。

 俺がゾンビ街に転がり込んだのは偶然だった。貨物電鉄に乗り込み追っ手を巻いて、グースカ眠っていたら、電鉄の乗員に叩き出された。そのまま線路を辿った先が、ゾンビ街だった。
 ゾンビ街ってのは正式な名前じゃねえ。立派な名前があるだろうが、磁鉄鉱山と電鉄が閉鎖になれば街としては死んでいるし、役場をヤバい連中に乗っ取ら

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悪党の対歌

悪党の対歌

「おめえ、なにしてここへぶちこまれた」
「盗みと殺しだ。おめえは」
「殺しだ。師匠の仇を討った。ついでにそいつの有り金をいただいた」
「大して変わりゃしねえな。おれはピンカス。おめえは」
「ラザルだ」

石造りの牢屋は寒い。毛布は穴だらけで薄く腐っている。手足は枷と鎖で壁に繋がれ、背の傷跡は痛い。隣同士で無駄話でもして気を紛らすしかない。

「ピンカスよ、何を盗み、誰を殺した」

「パンと葡萄酒、

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魔法使いの弟子

魔法使いの弟子

「魔女!ふへへ…わたしゃ探偵みたいなもんさ。霧の模様もコインの表裏も全部が繋がってる。1を見て推理するのさ、全部をね」

「何でも良いさ。占いの評判を聞いてわざわざNYから来たんだ」
 
「死に際が近いと語りたくなるもんさ。今日の事もわかってた。知らせる事はもうここに」

 俺はツォ婆の差し出すメモを受け取ると拳銃に手をかけた。

「後そこにゃ書いてないけどね。アンタはあと5日で死ぬ。何をしてもね

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エスコートの流儀

エスコートの流儀

 ワンコールで繋がった。男は前置きせずに切り出す。
「女を頼みたい」
『レファレンスはございますか』
「AAA-012」
『議員のご紹介でしたか。ご利用ありがとうございます。ホテルにご滞在ですか』
「プラザ。1905号室」
『お好みは』
「見てくれはこだわらん。いちばん上手い奴がいい」
『……では七つ星、最高ランクのテクニシャンが一時間ほどで伺えます』
「じゃあそれで」

 きっかり一時間後にチャ

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106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首

106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首

 ジョー・レアルをぶち殺して首を持参した野郎には10万ドルくれてやる。
 そう俺たちが宣言したその翌日。さて、何人が首を持ってやって来たと思う?

 212人だ。

 持ち込まれたうちの半数は偽物だったが、あとはどっからどう見たってホンモノの、ジョー・レアルの首だった。
 信じられるか?
 俺には信じられなかった。バーにいる仲間の誰もがそうだった。

「ふざけやがってよッ!」
 ちびのトゥコは短い

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非合法業務受託者向け倫理規定の手引き

非合法業務受託者向け倫理規定の手引き

 体毛のない女が好きだ。口に出すつもりはない。僕は、応接テーブルを挟んで座る依頼人の話を聞きながら、彼女の顔を見ていた。
「今回は商談の成立阻止を委託したいと考えています」
 つるりとした、光沢さえ帯びるような滑らかな肌が開閉する唇を取り囲んでいる。細面の冷たいとも表現できる面立ちや、数分前に定規を当てて切りそろえたかのような前髪と相まって、非人間的な印象をもたらす。
「対象はプラント系企業とバイ

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アーティフィシャル僧兵戦記 ―永久マニ車機関破壊指令―

 各所に配置されたマリア像が一斉に涙を流したことで、基地内は蜂の巣を突いたような騒ぎに陥った。
 レーダーや哨戒機より早くマリア像が反応したということは、敵は十中八九、仙人である。
「対仙戦闘用意! 対仙戦闘用意! ダクト閉鎖急げ」
 霧化して侵入してくる仙人には、対BC兵器用の隔離設備が流用できるはず、というマニュアルは、机上の空論だった。
 突如として基地内通路に、重機械化仙人が姿を現す。
 

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『シリアル・イーター』

『シリアル・イーター』

 wweeoo‼ 

 とある倉庫の前でパトカーが止まる。

 男が降りてきた。

「クリフォード刑事、お疲れ様です」

 警官が、クリフォードに敬礼する。

「お疲れ、奥さんと仲直りしたか?」

 クリフォードは、警官に言葉を投げながら倉庫の入り口に近づく。

「まだ……」

「さっさと謝っちまへ」

 はぁ~と、煮え切らない返事を返す警官を横目に、慣れた動きでテープをくぐり倉庫の中へ。

「お

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