初めはたしか、八つのとき。 庭の花壇に座って日向ぼっこをしていると、ニ匹の蝶が寄ってきた。 (へんなもよう) そう思ったのを覚えている。紋様以上に変だった挙動のこともだ。捕まえようとすればヒラヒラ身をかわすくせに、私の周りを離れようとはしない。家の中に戻ろうとしてもまだ纏わりついてきた。 ドアに触れる直前、家がパパとママもろとも吹っ飛んだ。ガス爆発だった。 蝶はいなくなっていた。 二度目は12歳、初仕事のとき。 シミを数えるつもりで見上げた天井のそばを、蝶が一
「被験体AおよびB、スタンバイ。ターゲット配置完了」 「よし、発蜂を許可する」 号令の直後──ぱごふっ! やや間の抜けた音とともに、鹵獲した敵国主力戦車が穴だらけになった。 「いかがですか、将軍」 「……博士、君は国の英雄となるだろう。もう一度見せてもらえるかね」 白衣/軍服の男たちの興奮した視線を集めるモニターが、厚さ800mmの隔壁の向こう、数秒前の光景をスロー再生する。 上半身裸の少年が戦車へ向けるショットガン──彼の握り拳より大きな銃口から飛び出す蜂の巣──巣
ジュッ! 脂が弾ける音。肉が焼けるにおい。彼のためによく作ったハンバーグを思い出す。 「きさッ、貴様ッ、こんなこぎぁッ!?」 ふふ、ハンバーグだなんて。正直あまり得意な料理じゃなくて、というか料理自体そんなに上手じゃなくて、出来は大抵コゲコゲだっけ。 「やめて、やめてくれ熱いあづあぁああ!」 でも彼は「好きだ」って言ってくれた。彼は優しかった。若いのに落ち着いてて、頭も気立ても良くて、でも食べ物の趣味はちょっと子供っぽくて。紳士で、可愛げもあった。 「もう一度訊
(お父様。愛しいお父様) 《ジェネレータ点火。ニューロンリンク開始。完了。ウイング、Fモード。フライトエッジ調整》 (スミカは翔びます。お父様が遺したこの羽衣で) 《PPジャベリン、セイフティ解除。トリガーをオペレータのコントロール下へ》 (スミカは守ります。お父様が興したこの都市を、お父様が育てた『世界樹』を) 《目標、318階ノースフロア。カタパルト俯角79度。ETA、射出後6.66秒》 (どうか見ていてください。あなたのスミカが、これから為すことを) 《システム
「何をしているのです」 男はそう訊いてくる。肚を括ってる、と答えたいができない――喉がロクに動かない、周りの景色や背と尻を預けた木と同じようにカラカラ。 フードを脱ぎ覗き込んでくる男の顔、その向こうで空が白み始めてる。ああ、肚というのはまだしもカッコつけた表現で、諦めをつけてたってのがより正確。俺は死ぬ。流れ流れて根無し草のまま、胃も頭も空にして、じき昼の熱気だけに満たされるこの荒野で。木が墓標代わりになるだけありがたいと思「うッ」 せっかくの墓標が離れていく――何かが