女王陛下の00B(ダブルオーバック)
「被験体AおよびB、スタンバイ。ターゲット配置完了」
「よし、発蜂を許可する」
号令の直後──ぱごふっ!
やや間の抜けた音とともに、鹵獲した敵国主力戦車が穴だらけになった。
「いかがですか、将軍」
「……博士、君は国の英雄となるだろう。もう一度見せてもらえるかね」
白衣/軍服の男たちの興奮した視線を集めるモニターが、厚さ800mmの隔壁の向こう、数秒前の光景をスロー再生する。
上半身裸の少年が戦車へ向けるショットガン──彼の握り拳より大きな銃口から飛び出す蜂の巣──巣から飛び立つ蜂、蜂、蜂、蜂、蜂蜂蜂蜂──輝く蜂のクラスターが戦車に殺到──針に刺された装甲が風船じみて爆散。
「我が国特産のミツバチを品種改良したバレット・ビーです。火器の薬室に弾巣(マガジン)を造り、炸裂する働き蜂(ペレット)を産みます。破壊力は個体の素質に依りますが、第一号である被験体Bの段階で約80匹入りの実蜂(カートリッジ)を一秒かからず生成しています」
「素晴らしい……一刻も早く実用かぷろッ」
「びッ⁉」
「ぶぺッ」
「え?」
間の抜けた声とともに、軍服や実験スタッフたちの頭が爆ぜてゆく。ブーン──断末魔に交じって聞こえる羽音。
空調の隙間から次々飛び出し、自分を包囲する蜂の群れに白衣は気づく。モニターを振り返る──無人の実験区画/大穴の開いた隔壁。
「なん……」
そして白衣の天才的頭脳も、モニター室ごと吹き飛んだ。
多産、多死、多殺。働き蜂たちが役目を果たし散ってゆくのを感覚しながら、いまや実験体でなくなった少年は銃の薬室を開放した。中から9mmパラベラム弾より小さな黄と黒の玉体が現れ、指の上に飛び移る。
『行きましょう、アレキシス』
おごそかに揺れる翅──彼女のはばたきは、彼へのささやき。
『周辺国のすべてに宣戦布告よ。みんなみんな私の巣にしてあげます』
「仰せのままに。ユア・マジェスティ」
to bee continued……
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