見出し画像

焼身旅行

ジュッ!

 脂が弾ける音。肉が焼けるにおい。彼のためによく作ったハンバーグを思い出す。

「きさッ、貴様ッ、こんなこぎぁッ!?
 ふふ、ハンバーグだなんて。正直あまり得意な料理じゃなくて、というか料理自体そんなに上手じゃなくて、出来は大抵コゲコゲだっけ。

「やめて、やめてくれ熱いあづあぁああ!
 でも彼は「好きだ」って言ってくれた。彼は優しかった。若いのに落ち着いてて、頭も気立ても良くて、でも食べ物の趣味はちょっと子供っぽくて。紳士で、可愛げもあった。

「もう一度訊く。彼は今、どこ?」

ジュウウウ!

ぎぃッ、北ッ! 北だ! フェアバンクスに逃ゲッ……」

 ああ、また火加減を間違えた。
 でも仕方ないか。私の手にある《炎》は、料理や拷問のために燃えてるわけじゃない。彼のためだ。

 黒焦げの首を放り棄てる。残り火が床に移り、壁を走り、天井を覆い尽くす。

 この火の手のように早く、彼に会いたい。

「待ってて」

【続く】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?