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『噛みあわない会話と、ある過去について』いじめ、親との確執。辻村深月が描く、過去の怒りとの向き合い方

子どもの頃にいじめられた記憶とか、裏切りとか。そのとき相手に抱いた「怒り」って、大人になっても忘れられなかったりしません?心が狭いと思われようが、消えないのよね、そういう感情って。

消えないんだからしょうがない。この本を読んで、「怒りは消えない。それでいい」って、自分の怒りを肯定してあげましょう。で、自分はその怒りをどう扱うか考えてみよ。

今日の一冊は辻村深月さんの『噛みあわない会話と、ある過去について』『嚙みあわない会話と、ある過去について』。以前、以下の記事でも紹介しています。

あぁ、何度見ても可愛い。北澤平祐さんの装画。


ある出来事を、相手も自分と同じように捉えているかはわからない


2018年に本屋大賞を受賞した『かがみの孤城』が記憶に新しい、ファンも多い作家さんの作品です。今回紹介する『噛みあわない会話と、ある過去について』は4つのお話からなる短編集で、タイトルそのまんまな内容。

「被害者」と「加害者」っていうと言葉が強いかもしれないけど、それぞれの「過去の共通の出来事に対する認識の違い」が生む、胸がきゅーっとなるお話ばかり。どちらかに肩入れせずに読んでもそうなる。

これは、ぜひ読んで体感してほしい。第一話『ナベちゃんのヨメ』のあらすじだけ、ちょこっと紹介しておきます。

第一話『ナベちゃんのヨメ』はこんなお話


ナベちゃんは、大学時代にコーラス部で一緒だった男の子。女子ばかりの部内で、男を感じさせない男友達として、なじんでいた。

そんなナベちゃんが、何の前触れもなく結婚することに。でも、相手の女性はどこか様子がおかしくて、コーラス部のメンバーはモヤモヤ……というお話。

「ナベちゃん、幸せなんだよ。相手に必要とされて、自分も相手を必要として。そういう人に巡り合えたんだよ。それでいいのかよってみんなは言うけど、きっとそれでいいんだよ」

恋人ができると、ガラリと変わっちゃう子っているじゃないですか。そういうとき、ついつい友人としては心配になって、相手を非難しちゃったりするけど。

それって、本当に友人のための怒りだったのかな?ってことも多い。人の幸せを、自分の幸せの価値観で測ってたかも?とか、そもそも、これまで友人と対等な関係で接していたかな?とか、いろいろ振り返りたくなるお話です。

ほかの3作品も、パンチのきいたお話ぞろい


『ナベちゃんのヨメ』以外も、雰囲気だけサクッと紹介しておきます。

第二話『パッとしない子』は、個人的に一番「ぐわっ」っときたお話。知人のことを第三者に語るとき、自分の言葉が与える影響をしっかり意識しようと思わされる内容です。

第三話『ママ・はは』は、不思議な雰囲気が漂うお話。前に芥川賞を受賞作した、本谷有希子さんの『異類婚姻譚』みたいな感じ。第二話で受けたパンチを中和してくれる、優しい箸休めのような内容。


最後の第四話『早穂とゆかり』は、もうクライマックスにぴったりのスピード感でお話が進んでいく。これはもう、読んでもらうしかない。

全体的に、特にそういう記述が出てきたりするわけではないけれど、なんとなくHSPさんが共感できる、日常の中でうまく言語化されにくい機微みたいなものが、よく描かれていると思う。ぜひ、読んでみてほしい。


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