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『終点のあの子』柚木麻子による、女子から女性へと成長する過程の自意識を描いた思春期小説

学生の頃、仲良しの友達からとつぜん冷たい一言をぶつけられて、傷ついたことってありませんか。同時に自分の心の中にも、驚くほど冷たい部分があることを知って、怖くなったり。

柚木麻子さんの『終点のあの子』は、女子高校生という多感な時期の少女たちを、繊細なタッチで描いた青春小説です。自意識がムクムクと膨れ上がる彼女たちが、傷つけあいながらも成長していく姿は必見。


自意識が暴走した先にある、「気づき」を描いた作品


同じ女子高に通う、希代子と朱里。クラスメイトの恭子さんや森ちゃん、そして保田さん。それぞれの女の子の、「ひとりは怖い」「注目されたい」という自意識がぶつかり合って起こる、イザコザを巡るお話です。

女子は、何かと「陰湿」って言われて、悪意をハイライトされやすい生き物だと思う。この作品の素敵なところは、悪意だけじゃなく、その先にあるそれぞれの「気づき」まで描きながら、話が進んでいくところ。

朱里と、希代子は違う人間だ。同じことを感じられるわけがない。(中略)希代子が朱里になれないように、朱里も希代子にはなれない。傷つく必要などどこにもなかったのに。

そんなにドロドロしてなくて、読後感はさわやかです。

思春期の女の子を描いたら右に出る者はいない、柚木麻子さん


文庫本の最後の解説では、ライターさんがこんな風に言っています。

高校一年生というと程度の差はあれど自意識が高まる年頃だ。「自分を認めてもらいたい」「特別な何者かになりたい」と願う頭でっかちの子たちが狭い教室の中に詰め込まれるのだから、でっかくなった頭がぶつかりあって何かしらの化学反応が起きるのは当然である。

あこがれだったはずのあの子が、とつぜんクラス中のいじめの標的になったり、意外な一面が発見されて、地味なあの子が一躍クラスの人気者になったり。思春期の女の子たちが集まれば、毎日いろんなことが起こる。

その裏側で、女の子たちはどんなことに傷ついているのか。

柚木さんはこういう機微を描くのが上手くて、『終点のあの子』は、その中でも優れた作品だなと思う。

バタバタと忙しい毎日、ホッと一息つきたいあなたも、新生活の前で緊張しているあなたも。『終点のあの子』を読んで、懐かしいあの頃の感情を思い出してみませんか。


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